魔法狂騒譚

冠つらら

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五部

69/試食会

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 カフェ・ジジに集められた教師陣は、ざわざわと話し声を立てている。今日の授業は終わったばかりだ。教師陣は、このカフェの店員であるメーナに呼び出された。

 教師は、この場所になかなか来ることはない。教師という立場上、生徒たちの憩いの場の雰囲気を壊すわけにはいかない。そのため、この店内にいること自体が新鮮だった。

「一体、どうしたんでしょうかね」

 ウィンストンが、ワクワクした様子でドミニフに声をかける。

「さぁ、なんだか落ち着きませんね」
「おや、どうしてです?明るい雰囲気のお店じゃないですか」
「ここに来ることはないし、慣れないのよ。それに…」
「それに?」
「教師を集めて、何をしようというのかしら?」

 ドミニフが、カウンターの向こうで準備をしているメーナたちを気遣うように見た。

「先生…?」

 ウィンストンは、いつもと雰囲気の違うドミニフを見て不思議そうな顔をしていた。いつも飄々とした態度で余裕の微笑みをしているドミニフが、少しハラハラしているように見えたのだ。
 二人の教師の姿を、後方の席に座っているダンがじっと見ている。
 すると、メーナと一緒に準備をしていたツィエが、グラスをマドラーで軽く叩いた。

「みなさん!」

 そして明るい声でそう言うと、にっこりと笑った。

「本日はお集まりいただきありがとうございます!」

 愛想のいいツィエの声に、教師たちは一斉にそちらを見る。

「みなさんをお呼びしたのは、もうすぐ迎える学年末の感謝祭についてです!先輩たちが卒業後、休みに入る前に、生徒と教師達で感謝祭が行われると思うのですが、そこで、いつもは先生たちがおもてなしをしてくれますが、今年は僕ら生徒も協力したいと思っています」
「…協力?」

 前方に座っていたミュエルが首を傾げた。

「はい!何を隠そう、僕とメーナは今、料理の才能に目覚めまして、レパートリーが順調に増えているんです!そこで、それをみんなに振舞いたいなと思いまして…」
「まぁ、素敵」

 ドミニフが思わず呟いた。

「それで、今日は僕たちの料理を味見してもらいたいんです。ちゃんと、みなさんの許可が頂きたくて」

 その言葉と同時に、二人を手伝っているメイズが大きなケーキを持ってきた。

「どうでしょうか。味見していただいて、合格だったら感謝祭に出す、それを判断していただいてもよろしいでしょうか?」
「判断だなんて…こちらとしては、味見をしなくても歓迎なのですが…」

 ミュエルが困惑したように笑った。

「いやいや!ちゃんと人様に出せるものか見ていただきたいです!」

 ツィエが慌てて付け足した。

「私たちは毒見ってことですかね」
「ふふふ、いいじゃないの」

 こそっと囁いたウィンストンに、ドミニフは微笑んだ。ウィンストンも、その表情は嬉しそうだった。

「どうか、お願いします!」
「お願いします!!」

 ツィエが頭を下げると、メーナとメイズもそれに続いた。

「あらぁ、楽しそうね!」

 すると、店の奥からネリアが出てきた。教師たちの顔を見て、楽しそうに笑っている。

「いいじゃない!先生たちも疲れているでしょう?今日はこの子たちの料理を食べて、ゆっくり休憩して頂戴な」
「アイハント先生…」
「ミュエル、私はもう先生じゃないわよ」

 くすくすと笑うネリアに、ミュエルはハッとして肩をすくめた。

「さぁ、あなたたち、たくさん作っていたわよね?あなたたちの傑作を披露しちゃいなさい」
「…はい!」

 三人は、声を揃えて返事をした。その元気の良さに、教師たちの顔は綻んだ。

「…………」

 店内が再び賑やかになると、ネリアは一番後ろのテーブル席に座っているダンを見て、アイコンタクトを送り、小さく頷いた。ダンも、それに応えると、瞑想するかのようにそっと目を閉じる。

 メーナたちは、早速料理を配る準備を始めた。三人で並んで作業をしていると、突然、ツィエの手がぴたっと止まった。

「ねぇ」

 そして小声でメーナに話しかけた。メーナがツィエを見ると、その表情はこわばっている。

「…大丈夫かな?」

 不安そうなその声に、メーナは気持ちが引っ張られそうになった。しかし、ツィエの隣にいるメイズが、二人に向かって穏やかに微笑んだ。

「きっと大丈夫よ。私たちは、今できることをやりましょう」

 メーナとツィエは、メイズの顔を見て再び笑顔を取り戻した。眉をきりっとさせ、三人は小さく気合いのガッツポーズをした。
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