70 / 95
五部
69/試食会
しおりを挟む
カフェ・ジジに集められた教師陣は、ざわざわと話し声を立てている。今日の授業は終わったばかりだ。教師陣は、このカフェの店員であるメーナに呼び出された。
教師は、この場所になかなか来ることはない。教師という立場上、生徒たちの憩いの場の雰囲気を壊すわけにはいかない。そのため、この店内にいること自体が新鮮だった。
「一体、どうしたんでしょうかね」
ウィンストンが、ワクワクした様子でドミニフに声をかける。
「さぁ、なんだか落ち着きませんね」
「おや、どうしてです?明るい雰囲気のお店じゃないですか」
「ここに来ることはないし、慣れないのよ。それに…」
「それに?」
「教師を集めて、何をしようというのかしら?」
ドミニフが、カウンターの向こうで準備をしているメーナたちを気遣うように見た。
「先生…?」
ウィンストンは、いつもと雰囲気の違うドミニフを見て不思議そうな顔をしていた。いつも飄々とした態度で余裕の微笑みをしているドミニフが、少しハラハラしているように見えたのだ。
二人の教師の姿を、後方の席に座っているダンがじっと見ている。
すると、メーナと一緒に準備をしていたツィエが、グラスをマドラーで軽く叩いた。
「みなさん!」
そして明るい声でそう言うと、にっこりと笑った。
「本日はお集まりいただきありがとうございます!」
愛想のいいツィエの声に、教師たちは一斉にそちらを見る。
「みなさんをお呼びしたのは、もうすぐ迎える学年末の感謝祭についてです!先輩たちが卒業後、休みに入る前に、生徒と教師達で感謝祭が行われると思うのですが、そこで、いつもは先生たちがおもてなしをしてくれますが、今年は僕ら生徒も協力したいと思っています」
「…協力?」
前方に座っていたミュエルが首を傾げた。
「はい!何を隠そう、僕とメーナは今、料理の才能に目覚めまして、レパートリーが順調に増えているんです!そこで、それをみんなに振舞いたいなと思いまして…」
「まぁ、素敵」
ドミニフが思わず呟いた。
「それで、今日は僕たちの料理を味見してもらいたいんです。ちゃんと、みなさんの許可が頂きたくて」
その言葉と同時に、二人を手伝っているメイズが大きなケーキを持ってきた。
「どうでしょうか。味見していただいて、合格だったら感謝祭に出す、それを判断していただいてもよろしいでしょうか?」
「判断だなんて…こちらとしては、味見をしなくても歓迎なのですが…」
ミュエルが困惑したように笑った。
「いやいや!ちゃんと人様に出せるものか見ていただきたいです!」
ツィエが慌てて付け足した。
「私たちは毒見ってことですかね」
「ふふふ、いいじゃないの」
こそっと囁いたウィンストンに、ドミニフは微笑んだ。ウィンストンも、その表情は嬉しそうだった。
「どうか、お願いします!」
「お願いします!!」
ツィエが頭を下げると、メーナとメイズもそれに続いた。
「あらぁ、楽しそうね!」
すると、店の奥からネリアが出てきた。教師たちの顔を見て、楽しそうに笑っている。
「いいじゃない!先生たちも疲れているでしょう?今日はこの子たちの料理を食べて、ゆっくり休憩して頂戴な」
「アイハント先生…」
「ミュエル、私はもう先生じゃないわよ」
くすくすと笑うネリアに、ミュエルはハッとして肩をすくめた。
「さぁ、あなたたち、たくさん作っていたわよね?あなたたちの傑作を披露しちゃいなさい」
「…はい!」
三人は、声を揃えて返事をした。その元気の良さに、教師たちの顔は綻んだ。
「…………」
店内が再び賑やかになると、ネリアは一番後ろのテーブル席に座っているダンを見て、アイコンタクトを送り、小さく頷いた。ダンも、それに応えると、瞑想するかのようにそっと目を閉じる。
メーナたちは、早速料理を配る準備を始めた。三人で並んで作業をしていると、突然、ツィエの手がぴたっと止まった。
「ねぇ」
そして小声でメーナに話しかけた。メーナがツィエを見ると、その表情はこわばっている。
「…大丈夫かな?」
不安そうなその声に、メーナは気持ちが引っ張られそうになった。しかし、ツィエの隣にいるメイズが、二人に向かって穏やかに微笑んだ。
「きっと大丈夫よ。私たちは、今できることをやりましょう」
メーナとツィエは、メイズの顔を見て再び笑顔を取り戻した。眉をきりっとさせ、三人は小さく気合いのガッツポーズをした。
教師は、この場所になかなか来ることはない。教師という立場上、生徒たちの憩いの場の雰囲気を壊すわけにはいかない。そのため、この店内にいること自体が新鮮だった。
「一体、どうしたんでしょうかね」
ウィンストンが、ワクワクした様子でドミニフに声をかける。
「さぁ、なんだか落ち着きませんね」
「おや、どうしてです?明るい雰囲気のお店じゃないですか」
「ここに来ることはないし、慣れないのよ。それに…」
「それに?」
「教師を集めて、何をしようというのかしら?」
ドミニフが、カウンターの向こうで準備をしているメーナたちを気遣うように見た。
「先生…?」
ウィンストンは、いつもと雰囲気の違うドミニフを見て不思議そうな顔をしていた。いつも飄々とした態度で余裕の微笑みをしているドミニフが、少しハラハラしているように見えたのだ。
二人の教師の姿を、後方の席に座っているダンがじっと見ている。
すると、メーナと一緒に準備をしていたツィエが、グラスをマドラーで軽く叩いた。
「みなさん!」
そして明るい声でそう言うと、にっこりと笑った。
「本日はお集まりいただきありがとうございます!」
愛想のいいツィエの声に、教師たちは一斉にそちらを見る。
「みなさんをお呼びしたのは、もうすぐ迎える学年末の感謝祭についてです!先輩たちが卒業後、休みに入る前に、生徒と教師達で感謝祭が行われると思うのですが、そこで、いつもは先生たちがおもてなしをしてくれますが、今年は僕ら生徒も協力したいと思っています」
「…協力?」
前方に座っていたミュエルが首を傾げた。
「はい!何を隠そう、僕とメーナは今、料理の才能に目覚めまして、レパートリーが順調に増えているんです!そこで、それをみんなに振舞いたいなと思いまして…」
「まぁ、素敵」
ドミニフが思わず呟いた。
「それで、今日は僕たちの料理を味見してもらいたいんです。ちゃんと、みなさんの許可が頂きたくて」
その言葉と同時に、二人を手伝っているメイズが大きなケーキを持ってきた。
「どうでしょうか。味見していただいて、合格だったら感謝祭に出す、それを判断していただいてもよろしいでしょうか?」
「判断だなんて…こちらとしては、味見をしなくても歓迎なのですが…」
ミュエルが困惑したように笑った。
「いやいや!ちゃんと人様に出せるものか見ていただきたいです!」
ツィエが慌てて付け足した。
「私たちは毒見ってことですかね」
「ふふふ、いいじゃないの」
こそっと囁いたウィンストンに、ドミニフは微笑んだ。ウィンストンも、その表情は嬉しそうだった。
「どうか、お願いします!」
「お願いします!!」
ツィエが頭を下げると、メーナとメイズもそれに続いた。
「あらぁ、楽しそうね!」
すると、店の奥からネリアが出てきた。教師たちの顔を見て、楽しそうに笑っている。
「いいじゃない!先生たちも疲れているでしょう?今日はこの子たちの料理を食べて、ゆっくり休憩して頂戴な」
「アイハント先生…」
「ミュエル、私はもう先生じゃないわよ」
くすくすと笑うネリアに、ミュエルはハッとして肩をすくめた。
「さぁ、あなたたち、たくさん作っていたわよね?あなたたちの傑作を披露しちゃいなさい」
「…はい!」
三人は、声を揃えて返事をした。その元気の良さに、教師たちの顔は綻んだ。
「…………」
店内が再び賑やかになると、ネリアは一番後ろのテーブル席に座っているダンを見て、アイコンタクトを送り、小さく頷いた。ダンも、それに応えると、瞑想するかのようにそっと目を閉じる。
メーナたちは、早速料理を配る準備を始めた。三人で並んで作業をしていると、突然、ツィエの手がぴたっと止まった。
「ねぇ」
そして小声でメーナに話しかけた。メーナがツィエを見ると、その表情はこわばっている。
「…大丈夫かな?」
不安そうなその声に、メーナは気持ちが引っ張られそうになった。しかし、ツィエの隣にいるメイズが、二人に向かって穏やかに微笑んだ。
「きっと大丈夫よ。私たちは、今できることをやりましょう」
メーナとツィエは、メイズの顔を見て再び笑顔を取り戻した。眉をきりっとさせ、三人は小さく気合いのガッツポーズをした。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
余命半年のはずが?異世界生活始めます
ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明…
不運が重なり、途方に暮れていると…
確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。
婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜
平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。
だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。
流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!?
魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。
そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…?
完結済全6話
【完結】王太子妃の初恋
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
カテリーナは王太子妃。しかし、政略のための結婚でアレクサンドル王太子からは嫌われている。
王太子が側妃を娶ったため、カテリーナはお役御免とばかりに王宮の外れにある森の中の宮殿に追いやられてしまう。
しかし、カテリーナはちょうど良かったと思っていた。婚約者時代からの激務で目が悪くなっていて、これ以上は公務も社交も難しいと考えていたからだ。
そんなカテリーナが湖畔で一人の男に出会い、恋をするまでとその後。
★ざまぁはありません。
全話予約投稿済。
携帯投稿のため誤字脱字多くて申し訳ありません。
報告ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる