魔法狂騒譚

冠つらら

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二部

27/親子の通信

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 レティと店の前で別れると、ゾマーはゆっくりとした足取りで北寮まで向かった。レティの話は、まだ自分の中でちゃんと消化できていない。それでも、レティが適当なことを言っているのではないと分かっていた。シャドウハイルには、そういう、予知夢みたいなものが見れる力があったと、前に見た本に書いてあったからだ。

 ゾマーは右の手首を見た。腕輪が、きらりと輝いている。ゾマーは、おもむろにその腕輪を撫で、頭の中で何かを念じた。

「父さん」

 そしてそうつぶやくと、腕輪の鉱石が光り、小さなホログラムのような、立体的な人間が映し出された。ゾマーは、その小さな人間に話しかける。

「父さん、元気か?」

 ゾマーに話しかけられたそのホログラムは、ゆったりとゾマーに手を振ると、「久しぶりだな」と答える。

『ゾマー、そっちはどうだ?あまり問題を起こすんじゃないぞ?父さんも庇いきれなくなるだろう?』
「ごめん父さん。迷惑かけるつもりはないんだ」

 ゾマーは歩きながら父親との会話を続けた。

『元気なのは良いが、ほどほどにな』
「うん。分かってる」

 父親は、毛量の多い眉毛を下げると、ゾマーを愛おしそうに見た。久しぶりに見た息子が元気そうなことが知れただけでも、十分に嬉しかったようだ。

「突然連絡してごめん」
『いや、いいんだ』
「あのさ…そっちは、どう?」
『…ああ、悪くないよ。母さんと一緒に、今日もずっと研究所だ』

 ゾマーの気まずそうな質問に、父親はにっこりと笑ってみせる。

「そっか。ならいいんだ。…ほら、代表が代わったって、噂で聞いたからさ」
『お前たちのところまで届いているか…当然だが』
「うん。あんまり大々的には言われてないけどさ、一応、みんな興味あることだから」
『知ろうとする気持ちは大事だな』

 ゾマーは、ふと足を止めた。辺りはもう薄暗くなってきた。

「ランドルフは、どうしてるの?」
『……彼は、…ああ』

 父親は、明らかに動揺した。無理もない、ランドルフは恩師だ。

『ああ、そうだ。手紙を、受け取ったんだ』
「手紙?」
『そう。もう知っていると思うけど、ランドルフはもうずっと姿を見せていない。そうなる前に、私に手紙をくれてね』
「どんな?」

 ゾマーは、待ちきれない様子で聞いた。

『大した内容じゃないが…旅に出る、と、それだけ書いてあった』
「それだけ?」
『ああ。あとは、研究所への感謝も書いてあった。まるで、これから隠居するみたいにさ』
「…でも、ランドルフは辞めるなんて言ってないよな?」
『それは私たちも実のところ聞いていない。今の代表、ダッドレアが、突然来て、そう言ったんだ。ランドルフはやめると。執政府もそれを受諾したと』
「…なんで」

 ゾマーは、納得できない、と呟いた。

『正直、私たちも困惑している。しかし手紙には、術もかけられていないから、ランドルフの生死すら分からないんだ』
「ちょっと、不謹慎だろ」
『すまない。しかし、彼が今どこにいるのか、知る者はいないんだ。そういうことも覚悟しておかないと…』

 父親は、参った、と頭を掻いた。

「で、新しい代表はどうなんだ?」
『ダッドレアは、まぁ、研究者としての歴も浅いし、お飾りみたいなもんだよ。近代科学魔法には詳しいようだが。私たちに日々指示ばかりしている。あの研究をしろ、急げ、もっと早く、と』

 父親はため息を吐いた。どうやら、相当こき使われているらしい。

『前よりも執政府の意向が反映されることも多くなったしな。はぐらかしてはいるが、ダッドレアは不器用な男だ。そこら辺を隠すことが下手でね』
「……執政府」

 ゾマーは、不快に眉を上げる。

「父さん、無理はしないでね。母さんも」
『ああ。ゾマーも、身体に気を付けてな。無茶するなよ』

 そうして親子は会話を終えた。ゾマーは、再びゆっくりと歩き出した。
 この世界の中心で、何かが起きようとしているのかもしれない。

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