28 / 95
二部
27/親子の通信
しおりを挟むレティと店の前で別れると、ゾマーはゆっくりとした足取りで北寮まで向かった。レティの話は、まだ自分の中でちゃんと消化できていない。それでも、レティが適当なことを言っているのではないと分かっていた。シャドウハイルには、そういう、予知夢みたいなものが見れる力があったと、前に見た本に書いてあったからだ。
ゾマーは右の手首を見た。腕輪が、きらりと輝いている。ゾマーは、おもむろにその腕輪を撫で、頭の中で何かを念じた。
「父さん」
そしてそうつぶやくと、腕輪の鉱石が光り、小さなホログラムのような、立体的な人間が映し出された。ゾマーは、その小さな人間に話しかける。
「父さん、元気か?」
ゾマーに話しかけられたそのホログラムは、ゆったりとゾマーに手を振ると、「久しぶりだな」と答える。
『ゾマー、そっちはどうだ?あまり問題を起こすんじゃないぞ?父さんも庇いきれなくなるだろう?』
「ごめん父さん。迷惑かけるつもりはないんだ」
ゾマーは歩きながら父親との会話を続けた。
『元気なのは良いが、ほどほどにな』
「うん。分かってる」
父親は、毛量の多い眉毛を下げると、ゾマーを愛おしそうに見た。久しぶりに見た息子が元気そうなことが知れただけでも、十分に嬉しかったようだ。
「突然連絡してごめん」
『いや、いいんだ』
「あのさ…そっちは、どう?」
『…ああ、悪くないよ。母さんと一緒に、今日もずっと研究所だ』
ゾマーの気まずそうな質問に、父親はにっこりと笑ってみせる。
「そっか。ならいいんだ。…ほら、代表が代わったって、噂で聞いたからさ」
『お前たちのところまで届いているか…当然だが』
「うん。あんまり大々的には言われてないけどさ、一応、みんな興味あることだから」
『知ろうとする気持ちは大事だな』
ゾマーは、ふと足を止めた。辺りはもう薄暗くなってきた。
「ランドルフは、どうしてるの?」
『……彼は、…ああ』
父親は、明らかに動揺した。無理もない、ランドルフは恩師だ。
『ああ、そうだ。手紙を、受け取ったんだ』
「手紙?」
『そう。もう知っていると思うけど、ランドルフはもうずっと姿を見せていない。そうなる前に、私に手紙をくれてね』
「どんな?」
ゾマーは、待ちきれない様子で聞いた。
『大した内容じゃないが…旅に出る、と、それだけ書いてあった』
「それだけ?」
『ああ。あとは、研究所への感謝も書いてあった。まるで、これから隠居するみたいにさ』
「…でも、ランドルフは辞めるなんて言ってないよな?」
『それは私たちも実のところ聞いていない。今の代表、ダッドレアが、突然来て、そう言ったんだ。ランドルフはやめると。執政府もそれを受諾したと』
「…なんで」
ゾマーは、納得できない、と呟いた。
『正直、私たちも困惑している。しかし手紙には、術もかけられていないから、ランドルフの生死すら分からないんだ』
「ちょっと、不謹慎だろ」
『すまない。しかし、彼が今どこにいるのか、知る者はいないんだ。そういうことも覚悟しておかないと…』
父親は、参った、と頭を掻いた。
「で、新しい代表はどうなんだ?」
『ダッドレアは、まぁ、研究者としての歴も浅いし、お飾りみたいなもんだよ。近代科学魔法には詳しいようだが。私たちに日々指示ばかりしている。あの研究をしろ、急げ、もっと早く、と』
父親はため息を吐いた。どうやら、相当こき使われているらしい。
『前よりも執政府の意向が反映されることも多くなったしな。はぐらかしてはいるが、ダッドレアは不器用な男だ。そこら辺を隠すことが下手でね』
「……執政府」
ゾマーは、不快に眉を上げる。
「父さん、無理はしないでね。母さんも」
『ああ。ゾマーも、身体に気を付けてな。無茶するなよ』
そうして親子は会話を終えた。ゾマーは、再びゆっくりと歩き出した。
この世界の中心で、何かが起きようとしているのかもしれない。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と
鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。
令嬢から。子息から。婚約者の王子から。
それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。
そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。
「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」
その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。
「ああ、気持ち悪い」
「お黙りなさい! この泥棒猫が!」
「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」
飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。
謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。
――出てくる令嬢、全員悪人。
※小説家になろう様でも掲載しております。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
異世界辺境村スモーレルでスローライフ
滝川 海老郎
ファンタジー
ブランダン10歳。やっぱり石につまずいて異世界転生を思い出す。エルフと猫耳族の美少女二人と一緒に裏街道にある峠村の〈スモーレル〉地区でスローライフ!ユニークスキル「器用貧乏」に目覚めて蜂蜜ジャムを作ったり、カタバミやタンポポを食べる。ニワトリを飼ったり、地球知識の遊び「三並べ」「竹馬」などを販売したり、そんなのんびり生活。
#2024/9/28 0時 男性向けHOTランキング 1位 ありがとうございます!!
異世界転生漫遊記
しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は
体を壊し亡くなってしまった。
それを哀れんだ神の手によって
主人公は異世界に転生することに
前世の失敗を繰り返さないように
今度は自由に楽しく生きていこうと
決める
主人公が転生した世界は
魔物が闊歩する世界!
それを知った主人公は幼い頃から
努力し続け、剣と魔法を習得する!
初めての作品です!
よろしくお願いします!
感想よろしくお願いします!
異世界に転生したけどトラブル体質なので心配です
小鳥遊 ソラ(著者名:小鳥遊渉)
ファンタジー
元々、トラブルに遭いやすい体質だった男の異世界転生記。
トラブルに巻き込まれたり、自分から飛び込んだり、たまに自分で作ったり、魔物と魔法や剣のある異世界での転生物語。余り期待せずに読んで頂ければありがたいです。
戦闘は少な目です。アルフレッドが強すぎて一方的な戦いが多くなっています。
身内には優しく頼れる存在ですが、家族の幸せの為なら、魔物と悪人限定で無慈悲で引くくらい冷酷になれます。
転生した村は辺境過ぎて、お店もありません。(隣町にはあります)魔法の練習をしたり、魔狼に襲われ討伐したり、日照り解消のために用水路を整備したり、井戸の改良をしたり、猪被害から村に柵を作ったり、盗賊・熊・ゴブリンに襲われたり、水車に風車に手押しポンプ、色々と前世の記憶で作ったりして、段々と発展させて行きます。一部の人達からは神の使いと思われ始めています。………etc そんな日々、アルフレッドの忙しい日常をお楽しみいただければ!
知識チート、魔法チート、剣術チート、アルは無自覚ですが、強制的に出世?させられ、婚約申込者も増えていきます。6歳である事や身分の違いなどもある為、なかなか正式に婚約者が決まりません。女難あり。(メダリオン王国は一夫一妻制)
戦闘は短めを心掛けていますが、時にシリアスパートがあります。ご都合主義です。
基本は、登場人物達のズレた思考により、このお話は成り立っております。コメディーの域にはまったく届いていませんが、偶に、クスッと笑ってもらえる作品になればと考えております。コメディー要素多めを目指しております。女神と神獣も出てきます。
※舞台のイメージは中世ヨーロッパを少し過去に遡った感じにしています。魔法がある為に、産業、医療などは発展が遅れている感じだと思っていただければ。
中世ヨーロッパの史実に出来るだけ近い状態にしたいと考えていますが、婚姻、出産、平均寿命などは現代と余りにも違い過ぎて適用は困難と判断しました。ご理解くださいますようお願いします。
俺はアラサーのシステムエンジニアだったはずだが、取引先のシステムがウイルスに感染、復旧作業した後に睡魔に襲われ、自前のシュラフで仮眠したところまで覚えているが、どうも過労死して、辺境騎士の3男のアルフレッド6歳児に転生? 前世では早くに両親を亡くし、最愛の妹を残して過労死した社畜ブラックどっぷりの幸薄な人生だった男が、今度こそ家族と幸せに暮らしたいと願い、日々、努力する日常。
※最後になりますが、作者のスキル不足により、不快な思いをなされる方がおられましたら、申し訳なく思っております。何卒、お許しくださいますようお願い申し上げます。
この作品は、空想の産物であり、現実世界とは一切無関係です。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
スラムに堕ちた追放聖女は、無自覚に異世界無双する~もふもふもイケメンも丸っとまとめて面倒みます~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
どうやら異世界転移したらしいJK田崎 唯は、気がついたら異世界のスラムにどこかから堕ちていた。そこにいたる記憶が喪失している唯を助けてくれたのは、無能だからと王都を追放された元王太子。今は、治癒師としてスラムで人々のために働く彼の助手となった唯は、その規格外の能力で活躍する。
エブリスタにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる