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① 異世界転生
しおりを挟むああ、またか。
校舎に向かうまでに広がるガーデンで、ミルクのような艶やかな髪の毛が花々にベールをかけている。
小さく呻き声を上げた後に、ピクリと華奢な指で雑草を掴んだ彼女の周りには星の欠片がちらちらと光り舞った。
ガンガンと脳みその中央部まで響く痛みに吐き気を催しながら、ミルクティー色の瞳がそっと瞼の下から光を纏って開く。
「……え……なに……?」
草花の上に倒れていた身体を手をついて起こし、辺りを見回す。
その表情にはすぐに不安が表れる。
「ここ……どこ……?」
彼女は瞬時に目元を歪ませ、泣きそうになった。まだ頭が痛い。
「私、救急車にいたはずじゃ……」
最後に聞いた、胸を切迫するほど耳をつんざく音を思い出し、急いで立ち上がろうとする。しかしその足元は自分が着ている長い優雅なシフォンのようなスカートの裾を踏みつけ、再び転んでしまった。
「いた……っ」
もはや目尻には涙が浮かぶ。彼女は上半身を起こし、視界に入る自らの手を見やる。
それを見るなり、彼女の顔は青ざめた。滑らかで丁寧に手入れされたその肌。宝石のような色で施された爪。彼女は何かを確かめようと、何度も握り、開いた。するとその手はいとも簡単に言うことを聞く。これは確かに自分の手なのだろう。
彼女は額にじんわりと汗を滲ませながら、慣れない手つきで髪の毛を撫でる。シルクのような指通りに、染めたとは思えないほど自然な淡い色。肩の下までとくと、すとん、と元の位置に戻っていく。
「嘘……」
口元が震え出した。頬をペタペタと触ってみれば、肌荒れとは無縁の生まれたてのようなもちもち感。その輪郭は無駄がなく、端正な骨格であることが分かる。
ガーデンに座ったままの彼女は、自らの着ている服にも目を落とす。絹織物で出来たクリーム色のボレロの淵には、グレーのラインが入っている。その下に着ている同系色のワンピースは、先ほど踏んでしまったところが汚れていた。白い襟が上品にあしらわれているが、彼女の知識ではそれはまるでどこかの学校の制服のようだった。
放心したまま顔を上げると、何人かの制服を着た生徒らしき人たちがちらちらとこちらを横目に通り過ぎていく。その視線に気づいた彼女はようやく立ち上がる。
足元に落ちていた黒い学生鞄に気づき、それを拾い上げる。花びらがついていたのを払うと、重力に柔く押されていくようにふわりと落ちていった。
鞄を手に持つと、彼女はごくりとつばを飲み込む。もう頭は痛くなかった。
いまだ信じられないと言いたげな表情をしているが、次第にその口角は不器用に上がっていく。
「まさか……嘘でしょ……?」
興奮を秘めた小さな叫びが零れた。
爛々としていく瞳に映されるのは、前に本で見たことがある豪華絢爛な宮殿のような建物。
彼女は確信する。
ここは異世界だ。まさか自分の身に起こるとは思っていなかっただろう。
転生というおとぎ話のような出来事に、こんな形で巡り合うとは。
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