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サイラスside

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ある日の書斎にて、上がってきたばかりのユージオ・エルランジェ伯爵に関する報告書を受け取り、目を通したサイラスはある可能性に気付いた。
そしてどうしても確かめたくなった。


後日、ミレーユの事について話がしたいとユージオが訪ねて来た。その際にサイラスが彼に言い放った言葉。

『俺は国王陛下の妨げにならならぬよう、子供が出来ない身体にしている。それでも一緒になってくれないだろうかと、あの日ミレーユに告げたんだ』

『ミレーユは、俺さえいれば他に何もいらないと言ってくれた……嗚呼、何度思い返しても、あの日の胸の高鳴りが蘇るようだ……』

サイラスから紡がれた言葉を聞いたユージオの表情は、見ていて痛々しい程だ。それと同時に、報告書に上がってきた情報は真実だったと確信した。ユージオは男性不妊に陥っていた。

──やはりか。

サイラスは心の中でそう呟く。今の言葉はきっとこの男が、ミレーユの口から欲しくて堪らなかった言葉だろう。

となると、やはりマデリーンの腹の子はエルランジェ伯の子ではない可能性が非常に高い。本当に哀れな男だと、サイラスは思わずにはいられなかった。

正直に自分が不能である事を打ち明けて入れば、ミレーユは受け入れてくれたに違いない。
そもそもこの社会において、子供が出来ない事を責められるのは、何故か女性ばかりである。しかし子供が出来れば問題が解決という訳でもない。『跡取り』でないと意味がないのだ。

産まれたのが女児ばかりだと『女腹』などといって、やはり女性に責任を押し付ける。
本当に馬鹿馬鹿しい。

しかしユージオの今の表情が見たいがために、このようなやり方をするとは、相変わらず自分は性格の悪さを再確認した。

(まぁ、エルランジェ伯が自滅してまで守り通したかった事をバラさずにいてやるのだから、むしろ感謝して欲しいくらいだが……)

視線をユージオに向けたまま、サイラスは薄く笑う。

しかしミレーユに嘘を付いてしまった。そこだけは不本意ではあるが……。

王弟という身分であり、兄の政権を脅かしたくないサイラスは、女性との行為の際は薬を使うと決めていた。政権争いの絶えない王家に伝わる秘薬である。

故に薬を使い続ける事を止めない限り不妊である。そう、今までは。

だが国王夫妻はサイラスが子を設ける事を許し、誕生を心待ちにしてくれている。

王の密偵として有益な情報を得るために、女に近づく事もあった過去の自分は、結婚はおろか子を持つことなど考えられなかった。

そんなサイラスにとって唯一の例外、それがミレーユ。

自分を不妊だと思い込んで、負い目を感じているミレーユには、まだ本当の事を伝えない方がいいと考えている。
その事で思い悩むのを止めた方が、心労が減って案外授かりやすいかもしれない。

それに叙爵の際に賜ったベルティエは今まで空席だった家名と領地であり、跡取りは居ても居なくても構わないのだから。


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