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あれから……
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ミレーユとサイラスが結婚してから、何度目かの季節が巡っていた。
本日は恒例となっている、園遊会に参加するため、ミレーユはギャロワ邸を訪れていた。今回は三歳になる子供達を連れて。
結婚から一年経たずにミレーユが懐妊したのは、男女の双子。
子を授かった時は奇跡だと思い、日に何度も神に感謝を捧げた。
春の盛りとなり、見頃の花が咲き誇るギャロワ邸の庭園。リュシエンヌの四歳の息子、エイベルがミレーユの双子の子供達と、遊んでくれている。
一つしか変わらないはずなのに、子供にとっての一年の差はとても大きく、エイベルは二人より随分とお兄さんに見える。
その光景を、微笑ましくリュシエンヌと見守っていると、ふいに背後から声を掛けられた。
「ミレーユ」
振り返るとそこに立っていたのは、ユージオの母、エルランジェ元伯爵夫人シモーヌ。
驚いたがすぐに取り繕い、シモーヌと共に少し歩いて、リュシエンヌ達から距離を取った。
「お久し振りです、エルランジェ前夫人」
「そんな、他人行儀な呼び方をしなくても」
他人以外の何だというのか。不思議な事を言うシモーヌは、歩みを止めると振り返り、ミレーユの双子の子供に達に視線を向ける。
「あの子達……」
「はい。私とサイラス様の、とても可愛い我が子です」
「あの子達、ユージオと貴女の子供という事は無いわよね……?」
「え……」
シモーヌの言葉に、ミレーユの表情は固まる。
だがすぐに柔らかい声音で、諭すように言葉を紡いだ。
「サイラス様との婚約期間を一年近く設けましたし、それは絶対にあり得ません。それに……」
ミレーユは柔らかな風に靡く、双子の艶やかな美しい黒髪と、キラキラと輝くサファイヤの瞳を愛おしい眼差しで見つめる。
「二人とも、サイラス様の髪と瞳の色を持ち、お顔立ちもとても良く似ています」
ミレーユの言葉を聞きシモーヌは「そうよね、そうよね」と、繰り返して自身に言い聞かせるように呟いた。だがその瞳は、まだ諦めきれない思いで揺れていた。
社交から遠のいていたシモーヌが久々に遊園会に訪れたのは、今日はミレーユが子供達を連れて来ると、どこからか聞き付けて会いに来たからだろうか。
ユージオの方も夜会などに顔を出さず、邸に引きこもっているらしい。いずれエルランジェ伯爵家は、跡継ぎとして親戚筋から養子を迎える事になるだろう。
そんなミレーユ達のやり取りを、遠くから様子を見ていたリュシエンヌの母、ギャロワ侯爵夫人が「今国外から取り寄せたお菓子を頂くところなの、シモーヌもこちらでお話ししましょう」と優しく連れ立ってくれた。
しばらくして、園遊会が終わりを告げる時刻が近づくと、オズインと共にサイラスがミレーユ達の元へと迎えに来た。
ミレーユの付き添いで共にギャロワ邸へと訪れていたサイラスも、邸の方でオズインと談笑しながら、この時間を過ごしていた。
父親を目にした途端、子供達は嬉しそうに「お父様!」と駆けていき、サイラスもそんな二人を優しく抱きとめる。
太陽の下、愛おしい夫と子供達を見守る妻の視線に気付いたサイラスが、ミレーユに微笑みを向けた。
清濁こそがこの世界だとしても、この瞬間は幸福のみの清廉な眩い輝きが、ミレーユ達を包んでいた。
本日は恒例となっている、園遊会に参加するため、ミレーユはギャロワ邸を訪れていた。今回は三歳になる子供達を連れて。
結婚から一年経たずにミレーユが懐妊したのは、男女の双子。
子を授かった時は奇跡だと思い、日に何度も神に感謝を捧げた。
春の盛りとなり、見頃の花が咲き誇るギャロワ邸の庭園。リュシエンヌの四歳の息子、エイベルがミレーユの双子の子供達と、遊んでくれている。
一つしか変わらないはずなのに、子供にとっての一年の差はとても大きく、エイベルは二人より随分とお兄さんに見える。
その光景を、微笑ましくリュシエンヌと見守っていると、ふいに背後から声を掛けられた。
「ミレーユ」
振り返るとそこに立っていたのは、ユージオの母、エルランジェ元伯爵夫人シモーヌ。
驚いたがすぐに取り繕い、シモーヌと共に少し歩いて、リュシエンヌ達から距離を取った。
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「そんな、他人行儀な呼び方をしなくても」
他人以外の何だというのか。不思議な事を言うシモーヌは、歩みを止めると振り返り、ミレーユの双子の子供に達に視線を向ける。
「あの子達……」
「はい。私とサイラス様の、とても可愛い我が子です」
「あの子達、ユージオと貴女の子供という事は無いわよね……?」
「え……」
シモーヌの言葉に、ミレーユの表情は固まる。
だがすぐに柔らかい声音で、諭すように言葉を紡いだ。
「サイラス様との婚約期間を一年近く設けましたし、それは絶対にあり得ません。それに……」
ミレーユは柔らかな風に靡く、双子の艶やかな美しい黒髪と、キラキラと輝くサファイヤの瞳を愛おしい眼差しで見つめる。
「二人とも、サイラス様の髪と瞳の色を持ち、お顔立ちもとても良く似ています」
ミレーユの言葉を聞きシモーヌは「そうよね、そうよね」と、繰り返して自身に言い聞かせるように呟いた。だがその瞳は、まだ諦めきれない思いで揺れていた。
社交から遠のいていたシモーヌが久々に遊園会に訪れたのは、今日はミレーユが子供達を連れて来ると、どこからか聞き付けて会いに来たからだろうか。
ユージオの方も夜会などに顔を出さず、邸に引きこもっているらしい。いずれエルランジェ伯爵家は、跡継ぎとして親戚筋から養子を迎える事になるだろう。
そんなミレーユ達のやり取りを、遠くから様子を見ていたリュシエンヌの母、ギャロワ侯爵夫人が「今国外から取り寄せたお菓子を頂くところなの、シモーヌもこちらでお話ししましょう」と優しく連れ立ってくれた。
しばらくして、園遊会が終わりを告げる時刻が近づくと、オズインと共にサイラスがミレーユ達の元へと迎えに来た。
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太陽の下、愛おしい夫と子供達を見守る妻の視線に気付いたサイラスが、ミレーユに微笑みを向けた。
清濁こそがこの世界だとしても、この瞬間は幸福のみの清廉な眩い輝きが、ミレーユ達を包んでいた。
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