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マデリーンについて

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 マデリーンが、父親であるブノワ子爵のお茶に、怪しげな粉を混入させようとした。その現場をブノワ家に潜入していた、サイラスの部下によって取り押さえられた。ブノワ子爵の長男も、姉の犯行を証言しており、言い逃れは出来ない状態となっている。

 そして所持していた粉からは毒の成分が検出されるも、彼女は未だ容疑を否認しているらしい。


 公爵邸の庭園が見渡せるテラスで、お茶をしながらミレーユはサイラスから、一通りの報告を受けていた。そしてその内容に表情を曇らせる。

「どうして自分の家族を……」

「容疑そのものを否定しているから、動機は分からない。夫である男爵を殺害した疑惑もあるから、考えられる事は結婚に不満があったとかかな」
「……」
「そもそも今起こっている毒薬事件が、ここまで大きくなっているのは、一人で何人も手に掛ける犯人達がいるからなんだよ。一度きりの犯行で、すぐに所持していた毒薬を処分していれば、怪しまれずに済んだ者も多いだろう」

 どのような理由があれ、人を一人でも手に掛けてしまうと、その後の人生を一生悔やんで生きる者が大半だろう。
 しかし中には、罪を犯しても何とも思わずに、人生を全うする者。そして、何度も罪に手を染めてしまう者まで、いるのだという。
 ミレーユには、説明されたところで、理解する事ができない思考だった。

 一度でも快楽を知ってしまった者は、幾度もその快楽を求めてしまう。

 まるで、この毒の粉に魅せられたかのように。彼女達はこの毒薬での殺人に、快楽を見出し、取り憑かれてしまったのだろうか。


 マデリーンは、若くして家のために年の離れた夫の元に嫁ぎ、その支援金によりブノワ家は救われる事となった。
 自分だけが犠牲になり、弟は思い合った人と結婚して、ブノワ家を継ぐ事となる。マデリーン本人はその怨みから、ブノワ家を根絶やしにして、遺産を自分の物にしようと思っての犯行だった。
 彼女も夫を殺害したきりならば、このまま捕まる事もなく、贅沢な暮らしが保証されていた。
 全てを失うリスクを負ってまで、ブノワ家での犯行に及んだのは、本当に怨みや遺産が目的なのか。
 夫を手に掛けた事により、罪に対する意識が低下してしまったのか。

 それとも毒薬と殺人に、魅入られてしまったのかは、もはやマデリーンにすら分からないのかもしれない。
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