夫の不貞現場を目撃してしまいました

秋月乃衣

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国王陛下と王弟殿下

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サイラスの母は大国出身の姫君であり、その血には歴史ある高貴な血筋をいくつも宿していた。
それに対して自国の侯爵家出身の母を持つ、当時王太子だった兄、リヒャルト。
リヒャルトよりもサイラスが王位を継ぐ事への正統性を訴えるのは、サイラスの母だけではなかった。

サイラスとしては兄王を尊敬しており、王位には微塵も執着した事はない。
むしろ兄を影から支える今の立ち位置が、自分に合っていると思う程だ。
王より遥かにしがらみもない立場。そして一代限りでも問題のない公爵位も王より賜わった。

王の私的な部屋へと通されると既に兄王、リヒャルトがサイラスを待っていた。
アッシュグレーの髪にサイラスと同じくサファイヤの瞳を宿している。

サイラスはリヒャルトへ毒殺事件の調査経過を話した後、もう一つの報告へと移った。

「それと陛下、ミレーユに婚約を受けて貰えました」
「それは良かった!」

リヒャルトが心の底から喜んでくれている事が伝わる。彼はいつだって弟を思う良き兄。

「結婚後も、陛下のため国のためにこの身を捧げるつもりでございます」

「しかし婚約したのなら、今迄のような調査方法は改めないといけないな。婚約者、妻を悲しませないようにせねば」

サイラスは今迄結婚はおろか、婚約者もおらず調査のためならばと、女性に近づいて情報を引き出す事も少なくなかった。
お陰で貴族間ではプレイボーイと噂され、その美しい容姿も相まって、夜会に出席すれば必ず女性陣に取り囲まれてしまう。

「お心遣い、有り難く存じます。その代わり子を設けるつもりは御座いませんし、彼女にも理解し……」

「サイラス」

言い切る前にリヒャルトはぴしゃりと言い放った。温和な笑みだったのが、今は真摯な瞳の色を宿している。

「子は神からの授かり物だ。そのような事、気にせずともよいのだ。
それに其方の子という事は、私の甥や姪となる存在でもある。其方とミレーユ嬢の子ならさぞかし可愛かろう。出来ればいずれ私に合わせておくれ」

さんざんサイラスの母親、すなわちリヒャルトからすれば継母に当たる女性から「お前は王位に相応しくない」と言われ続けた兄王。
腹違いの弟を憎む事なく、むしろ常に幸せを願ってくれている優しい兄。

今迄は兄の邪魔にならぬよう、子を残す事は頭になかった。
ミレーユへの思いを再び告げた日、子が出来ない身体にしていると言ったが、それは行為の前に薬を飲んでいた場合。
王家に伝わる避妊の薬を飲めば、回避出来ると思っていたから。つまり飲まなければ、生殖能力はそのままという事。

兄からの許しを得たので、もし結婚後自分との間に子供が出来たら産んでくれるだろうかと、ミレーユに改めて尋ねる事が楽しみとなった。
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