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サイラスとユージオ
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人を雇ってまでミレーユを乗せた、馬車の行き先を探らせたというのだろうか。今更それ程執着するとは可笑しな話だ。
「それがどうかしたのかな?」
「ミレーユに……妻に会わせてください。何度ラコスト家に行っても、取り合って貰えなくて……」
『妻』と呟かれた一言により、サイラスは表情こそ変えなかったが、目が微塵も笑っていなかった。
「妻?百歩ほど譲って元妻だとしても、今は私の婚約者だが?」
「な……婚約!?やっぱり……!ミレーユを返して下さい!お願いします!」
テーブルに擦り付けるように頭を下げ、ユージオは何度も「お願いします」と呟き懇願する。
そんな彼を冷ややかな目で、サイラスは見下ろしていた。
「返すも何も、昔から俺の物なんだが?」
一人称を俺に戻し、しれっと言い切るサイラスだが、元々の関係は初恋の幼馴染でそれ以上でもそれ以下でもない。
だがその煽るような物言いを聞いた途端、ユージオは下げていた頭を上げた。
「やっぱり……いつかの夜会での二人を見て違和感があったんだ……。
私と離縁する前から、ミレーユと関係があったのですね!?不貞だ!不貞の挙句、ミレーユは私を捨てたんだ!」
「お前と一緒にするな」
取り乱すユージオにサイラスは冷静だった。
「婚姻が破棄されてから、俺達は婚約したんだ。一緒にしないで頂きたい」
「そんな事が信じられる訳っ……」
「離縁が成立してからラコスト家にすぐに会いに行ったよ。その時言ったんだ、俺は国王陛下の妨げにならならぬよう、子供が出来ない身体にしている。それでも一緒になってくれないだろうかと、あの日ミレーユに告げたんだ」
「!!!」
「ミレーユは、俺さえいれば他に何もいらないと言ってくれた……嗚呼、何度思い返しても、あの日の胸の高鳴りが蘇るようだ……」
「っ……」
拳を握りしめ、身体を震わせるユージオは見ていて痛々しい程だった。
「愛人との子供も産まれるんだろ?」
「……違う。……私の子じゃない。私は……」
言葉を詰まらせたまま黙る彼を前に、極めて冷静な口調で続ける。
「苦しそうだな。ミレーユこそ君と愛人との関係に苦しんでいた。もっともそれ以前から、彼女は夫である君との夫婦関係について、ずっと悩み続けていたようだが」
ユージオの身体がピタリと止まり、同時に表情が強張る。
「……ミレーユはずっと知っていたんですか?」
「いつから知っていたとか、具体的な期間は知らないけど。何時ぞやかの夜会で君と愛人が庭園で不貞に及んでいる現場を見て、涙を流していたよ。その時に偶然通りかかった俺が久々に彼女に声を掛けた訳だが」
サイラスは毒殺容疑のあるマデリーンを監視し、尾行している最中にミレーユと鉢合わせた。
二人の再会のきっかけがユージオの浮気とは。何とも皮肉なものだ。
「今の状況は自分に不都合があるからと、常に逃げ続けた結果だ。臆病な自身が招いた事なのだから、間違ってもミレーユを恨むなよ?今後の人生も常に逃げ続けるか、今迄の自分と向き合って逃げ癖を治すかは君次第だけどね」
返す言葉もなく口籠るユージオを、その目に写す事なく話は終わったと告げる。素早く呼び鈴を手に取り鳴らすと、入ってきた執事にユージオの見送りを頼んだ。
「それがどうかしたのかな?」
「ミレーユに……妻に会わせてください。何度ラコスト家に行っても、取り合って貰えなくて……」
『妻』と呟かれた一言により、サイラスは表情こそ変えなかったが、目が微塵も笑っていなかった。
「妻?百歩ほど譲って元妻だとしても、今は私の婚約者だが?」
「な……婚約!?やっぱり……!ミレーユを返して下さい!お願いします!」
テーブルに擦り付けるように頭を下げ、ユージオは何度も「お願いします」と呟き懇願する。
そんな彼を冷ややかな目で、サイラスは見下ろしていた。
「返すも何も、昔から俺の物なんだが?」
一人称を俺に戻し、しれっと言い切るサイラスだが、元々の関係は初恋の幼馴染でそれ以上でもそれ以下でもない。
だがその煽るような物言いを聞いた途端、ユージオは下げていた頭を上げた。
「やっぱり……いつかの夜会での二人を見て違和感があったんだ……。
私と離縁する前から、ミレーユと関係があったのですね!?不貞だ!不貞の挙句、ミレーユは私を捨てたんだ!」
「お前と一緒にするな」
取り乱すユージオにサイラスは冷静だった。
「婚姻が破棄されてから、俺達は婚約したんだ。一緒にしないで頂きたい」
「そんな事が信じられる訳っ……」
「離縁が成立してからラコスト家にすぐに会いに行ったよ。その時言ったんだ、俺は国王陛下の妨げにならならぬよう、子供が出来ない身体にしている。それでも一緒になってくれないだろうかと、あの日ミレーユに告げたんだ」
「!!!」
「ミレーユは、俺さえいれば他に何もいらないと言ってくれた……嗚呼、何度思い返しても、あの日の胸の高鳴りが蘇るようだ……」
「っ……」
拳を握りしめ、身体を震わせるユージオは見ていて痛々しい程だった。
「愛人との子供も産まれるんだろ?」
「……違う。……私の子じゃない。私は……」
言葉を詰まらせたまま黙る彼を前に、極めて冷静な口調で続ける。
「苦しそうだな。ミレーユこそ君と愛人との関係に苦しんでいた。もっともそれ以前から、彼女は夫である君との夫婦関係について、ずっと悩み続けていたようだが」
ユージオの身体がピタリと止まり、同時に表情が強張る。
「……ミレーユはずっと知っていたんですか?」
「いつから知っていたとか、具体的な期間は知らないけど。何時ぞやかの夜会で君と愛人が庭園で不貞に及んでいる現場を見て、涙を流していたよ。その時に偶然通りかかった俺が久々に彼女に声を掛けた訳だが」
サイラスは毒殺容疑のあるマデリーンを監視し、尾行している最中にミレーユと鉢合わせた。
二人の再会のきっかけがユージオの浮気とは。何とも皮肉なものだ。
「今の状況は自分に不都合があるからと、常に逃げ続けた結果だ。臆病な自身が招いた事なのだから、間違ってもミレーユを恨むなよ?今後の人生も常に逃げ続けるか、今迄の自分と向き合って逃げ癖を治すかは君次第だけどね」
返す言葉もなく口籠るユージオを、その目に写す事なく話は終わったと告げる。素早く呼び鈴を手に取り鳴らすと、入ってきた執事にユージオの見送りを頼んだ。
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