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秘密の部屋
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先程ぶつかって来た女性はマデリーンに間違いないが、自分が気付いてしまったように、相手もミレーユに気付いただろうか。
不安が押し寄せ、こっそり後ろから観察してみるが、マデリーンはこちらを振り返りはしなかった。
そして知り合いらしき男の人がマデリーンに声を掛けて、そのまま何やら話し始める。近くにユージオらしき人物がいないか確認しながら、二人の会話の聞こえる位置に移動した。
「今夜も君はアレを求めに?」
「ええ、そうよ」
「相続の粉か。怖い人だね」
男がくつりと笑う。
(相続の……粉……?)
相続の粉、それは最近この王都で蔓延していると噂になっている毒薬の事だ。その名の通り、遺産相続に絡んだ殺害方法によく用いられていると聞く。最近は貴族間で解毒剤が、高値で飛ぶように売れているらしい。
(何故そんな物を……扱っているのは惚れ薬だけではなく毒薬まで?)
突然の物騒な名称に、まさかという思いでミレーユは身を硬くした。と、その時ーー
人々の騒めきが一層大きくなり、皆が一斉に奥の扉から出てきた人物に注目し始めたので、ミレーユも同じく眼を向ける。
そこは簡易な舞台のように、低めの段差で出来た舞台。その上には謎の魔法陣や蝋燭など、何かの儀式でもするかのようだった。
その奥の扉から出てきたのが、山羊の仮面に黒ロープ姿の女性。
山羊頭を被った女性が招待客達に向き合うと、途端に室内の人々は静かに彼女の言葉を待った。そして彼女は口を開く。
「皆様、今宵は大変喜ばしい特別な夜となりました!新鮮な生贄が手に入ったので、若返りの秘薬の儀式が行える事となりました」
声はゾフィーの物だった。そして静寂の中、ゾフィーは続けた。
「新鮮な胎児の生贄です」
それを聞いた途端、招待客達は歓喜の声を上げ、盛大な拍手が沸き起こる。
(何ですって!?)
ミレーユは短い悲鳴を上げてしまったが、幸いにも人々の声と拍手により掻き消され、誰も気には止めなかった。
余りの禍々しさに、ミレーユは立っているのがやっとなほど、吐き気がこみ上げて来た。
皆がゾフィーの儀式に夢中になっている。そのうちに、自分がこの部屋に入る時に使用した、扉にまで歩いていき、震える手でドアノブに手を掛けた。
そこからは急いで部屋を出ると、足早に階段を降りた。あんな部屋にいたら、恐怖で気がおかしくなりそうだった。
階段を降ると、使用人がまだ立っていたので勘ぐられないよう歩みを戻した。
仮面があって良かった。きっと自分は今、とてつもなく顔色が悪いはずだ。
(どうしよう、今すぐ邸から出たいけど、一度メインホールの招待客に紛れてから帰る方が、怪しまれなくてすむかしら……?)
思索しながら廊下を歩いていると、ホールの入り口付近に立っていた黒の帽子シャツにジャボ、トラウザーズに、チャコールの上着。全体的に黒い衣装を纏い、仮面さえも黒を使用している。
そんな黒衣の男の隣を横切ろうとした時、ふいに腕を掴まれた。
「いやぁっ」
先程の事もあり、ミレーユは取り乱す。それを男はより強い力で抑えようとしてくる。
「ミレーユっ!」
その男は自分の名前を呼んだ。
不安が押し寄せ、こっそり後ろから観察してみるが、マデリーンはこちらを振り返りはしなかった。
そして知り合いらしき男の人がマデリーンに声を掛けて、そのまま何やら話し始める。近くにユージオらしき人物がいないか確認しながら、二人の会話の聞こえる位置に移動した。
「今夜も君はアレを求めに?」
「ええ、そうよ」
「相続の粉か。怖い人だね」
男がくつりと笑う。
(相続の……粉……?)
相続の粉、それは最近この王都で蔓延していると噂になっている毒薬の事だ。その名の通り、遺産相続に絡んだ殺害方法によく用いられていると聞く。最近は貴族間で解毒剤が、高値で飛ぶように売れているらしい。
(何故そんな物を……扱っているのは惚れ薬だけではなく毒薬まで?)
突然の物騒な名称に、まさかという思いでミレーユは身を硬くした。と、その時ーー
人々の騒めきが一層大きくなり、皆が一斉に奥の扉から出てきた人物に注目し始めたので、ミレーユも同じく眼を向ける。
そこは簡易な舞台のように、低めの段差で出来た舞台。その上には謎の魔法陣や蝋燭など、何かの儀式でもするかのようだった。
その奥の扉から出てきたのが、山羊の仮面に黒ロープ姿の女性。
山羊頭を被った女性が招待客達に向き合うと、途端に室内の人々は静かに彼女の言葉を待った。そして彼女は口を開く。
「皆様、今宵は大変喜ばしい特別な夜となりました!新鮮な生贄が手に入ったので、若返りの秘薬の儀式が行える事となりました」
声はゾフィーの物だった。そして静寂の中、ゾフィーは続けた。
「新鮮な胎児の生贄です」
それを聞いた途端、招待客達は歓喜の声を上げ、盛大な拍手が沸き起こる。
(何ですって!?)
ミレーユは短い悲鳴を上げてしまったが、幸いにも人々の声と拍手により掻き消され、誰も気には止めなかった。
余りの禍々しさに、ミレーユは立っているのがやっとなほど、吐き気がこみ上げて来た。
皆がゾフィーの儀式に夢中になっている。そのうちに、自分がこの部屋に入る時に使用した、扉にまで歩いていき、震える手でドアノブに手を掛けた。
そこからは急いで部屋を出ると、足早に階段を降りた。あんな部屋にいたら、恐怖で気がおかしくなりそうだった。
階段を降ると、使用人がまだ立っていたので勘ぐられないよう歩みを戻した。
仮面があって良かった。きっと自分は今、とてつもなく顔色が悪いはずだ。
(どうしよう、今すぐ邸から出たいけど、一度メインホールの招待客に紛れてから帰る方が、怪しまれなくてすむかしら……?)
思索しながら廊下を歩いていると、ホールの入り口付近に立っていた黒の帽子シャツにジャボ、トラウザーズに、チャコールの上着。全体的に黒い衣装を纏い、仮面さえも黒を使用している。
そんな黒衣の男の隣を横切ろうとした時、ふいに腕を掴まれた。
「いやぁっ」
先程の事もあり、ミレーユは取り乱す。それを男はより強い力で抑えようとしてくる。
「ミレーユっ!」
その男は自分の名前を呼んだ。
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