44 / 46
ヴァシル②
しおりを挟む
──端の方に行こう。
室内の隅、窓際のテーブルに本を置き、席に着く。
家で読む用の推理小説と、植物に纏わる研究書、孤児院での読み聞かせ用の冒険譚と絵本。計四冊。
さっそくパラパラと本をめくって、中身を確認し始めた。
「随分と読書の幅が広いのですね」
「あ……」
声を掛けられた驚きで、身体をビクリと跳ねさせる。
集中していたためか、またしてもヴァシルの気配に気付かなかった。
彼の視線の先には絵本と低年齢層に人気の冒険譚。
絵本といっても学園に置かれているとあって、装丁も挿絵も洒落た、飾り用としても大人に人気のあるシリーズである。
それでも照れくさくなって、慌てて弁明をしていた。
「自分一人で読むのと、慈善事業の一環で孤児院の子供達に読み聞かせる本を選んでいたのです」
恥ずかしさを隠すように、いきなり饒舌に説明し始める、典型的なオタクの特徴を披露してしまった。
「ああ、成る程。先日授業での詩集の朗読はとても素晴らしかったですからね。それに未来の王太子妃様が慈善事業に熱心なのは、国民としても誇らしい限りです。掛けてもよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
言いながら椅子を引くと、彼はにこやかに微笑んで向かいの席へと腰掛ける。
──この状況で無理です、とか言い辛くない?拒否できる方法があるのなら、拒否したいけれど。
碌な対応が出来ない自分なので、何だか申し訳なくなってくる。
「植物論文ですか」
「ええ……そういえば、アントネスク卿のご領地って……」
「えっ、名前で読んでは下さらないのですかっ?」
「え」
唖然とした表情で固まるわたしに、ヴァシルは吹き出す。
「セレスティア様って、もっとツンツンしてると思ってたんですけど、子供の頃お会いした時の印象と大分違うというか」
「つんつん……」
「怒らないんですね?」
「……これくらいで怒りません」
「何だか反応もやけに初々しくて可愛らしいし」
「……」
苦笑いするしかなかった。
室内の隅、窓際のテーブルに本を置き、席に着く。
家で読む用の推理小説と、植物に纏わる研究書、孤児院での読み聞かせ用の冒険譚と絵本。計四冊。
さっそくパラパラと本をめくって、中身を確認し始めた。
「随分と読書の幅が広いのですね」
「あ……」
声を掛けられた驚きで、身体をビクリと跳ねさせる。
集中していたためか、またしてもヴァシルの気配に気付かなかった。
彼の視線の先には絵本と低年齢層に人気の冒険譚。
絵本といっても学園に置かれているとあって、装丁も挿絵も洒落た、飾り用としても大人に人気のあるシリーズである。
それでも照れくさくなって、慌てて弁明をしていた。
「自分一人で読むのと、慈善事業の一環で孤児院の子供達に読み聞かせる本を選んでいたのです」
恥ずかしさを隠すように、いきなり饒舌に説明し始める、典型的なオタクの特徴を披露してしまった。
「ああ、成る程。先日授業での詩集の朗読はとても素晴らしかったですからね。それに未来の王太子妃様が慈善事業に熱心なのは、国民としても誇らしい限りです。掛けてもよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
言いながら椅子を引くと、彼はにこやかに微笑んで向かいの席へと腰掛ける。
──この状況で無理です、とか言い辛くない?拒否できる方法があるのなら、拒否したいけれど。
碌な対応が出来ない自分なので、何だか申し訳なくなってくる。
「植物論文ですか」
「ええ……そういえば、アントネスク卿のご領地って……」
「えっ、名前で読んでは下さらないのですかっ?」
「え」
唖然とした表情で固まるわたしに、ヴァシルは吹き出す。
「セレスティア様って、もっとツンツンしてると思ってたんですけど、子供の頃お会いした時の印象と大分違うというか」
「つんつん……」
「怒らないんですね?」
「……これくらいで怒りません」
「何だか反応もやけに初々しくて可愛らしいし」
「……」
苦笑いするしかなかった。
1
お気に入りに追加
193
あなたにおすすめの小説

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた
菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…?
※他サイトでも掲載中しております。

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。

巻き込まれて婚約破棄になった私は静かに舞台を去ったはずが、隣国の王太子に溺愛されてしまった!
ユウ
恋愛
伯爵令嬢ジゼルはある騒動に巻き込まれとばっちりに合いそうな下級生を庇って大怪我を負ってしまう。
学園内での大事件となり、体に傷を負った事で婚約者にも捨てられ、学園にも居場所がなくなった事で悲しみに暮れる…。
「好都合だわ。これでお役御免だわ」
――…はずもなかった。
婚約者は他の女性にお熱で、死にかけた婚約者に一切の関心もなく、学園では派閥争いをしており正直どうでも良かった。
大切なのは兄と伯爵家だった。
何かも失ったジゼルだったが隣国の王太子殿下に何故か好意をもたれてしまい波紋を呼んでしまうのだった。

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした
珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。
色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。
バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。
※全4話。

攻略対象の王子様は放置されました
白生荼汰
恋愛
……前回と違う。
お茶会で公爵令嬢の不在に、前回と前世を思い出した王子様。
今回の公爵令嬢は、どうも婚約を避けたい様子だ。
小説家になろうにも投稿してます。

婚約破棄の、その後は
冬野月子
恋愛
ここが前世で遊んだ乙女ゲームの世界だと思い出したのは、婚約破棄された時だった。
身体も心も傷ついたルーチェは国を出て行くが…
全九話。
「小説家になろう」にも掲載しています。

悪役令嬢の独壇場
あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。
彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。
自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。
正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。
ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。
そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。
あら?これは、何かがおかしいですね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる