生前はライバル令嬢の中の人でしたが、乙女ゲームは詳しくない。

秋月乃衣

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ヴァシル②

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 ──端の方に行こう。

 室内の隅、窓際のテーブルに本を置き、席に着く。
 家で読む用の推理小説と、植物に纏わる研究書、孤児院での読み聞かせ用の冒険譚と絵本。計四冊。
 さっそくパラパラと本をめくって、中身を確認し始めた。

「随分と読書の幅が広いのですね」
「あ……」

 声を掛けられた驚きで、身体をビクリと跳ねさせる。
 集中していたためか、またしてもヴァシルの気配に気付かなかった。
 彼の視線の先には絵本と低年齢層に人気の冒険譚。
 絵本といっても学園に置かれているとあって、装丁も挿絵も洒落た、飾り用としても大人に人気のあるシリーズである。
 それでも照れくさくなって、慌てて弁明をしていた。

「自分一人で読むのと、慈善事業の一環で孤児院の子供達に読み聞かせる本を選んでいたのです」

 恥ずかしさを隠すように、いきなり饒舌に説明し始める、典型的なオタクの特徴を披露してしまった。

「ああ、成る程。先日授業での詩集の朗読はとても素晴らしかったですからね。それに未来の王太子妃様が慈善事業に熱心なのは、国民としても誇らしい限りです。掛けてもよろしいでしょうか?」
「どうぞ」

 言いながら椅子を引くと、彼はにこやかに微笑んで向かいの席へと腰掛ける。

 ──この状況で無理です、とか言い辛くない?拒否できる方法があるのなら、拒否したいけれど。

 碌な対応が出来ない自分なので、何だか申し訳なくなってくる。

「植物論文ですか」
「ええ……そういえば、アントネスク卿のご領地って……」
「えっ、名前で読んでは下さらないのですかっ?」
「え」

 唖然とした表情で固まるわたしに、ヴァシルは吹き出す。

「セレスティア様って、もっとツンツンしてると思ってたんですけど、子供の頃お会いした時の印象と大分違うというか」
「つんつん……」
「怒らないんですね?」
「……これくらいで怒りません」
「何だか反応もやけに初々しくて可愛らしいし」
「……」

 苦笑いするしかなかった。
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