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ランチタイム

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 昼食時間、お肉料理と野菜、スープ、小さなパンが乗ったトレイを手にした。

 自分で食事を運ぶなんて、貴族子女なら学園に入って初めて経験する事ではないだろうか?やはり日本人が作ったゲームの影響なのかもしれない。
 食事を自らの手で席まで運ぶという些細な事でも、私は久々の感覚にワクワクしていた。

 トレイを手にしたまま席を探していると、空席の目立つテーブルを発見した。一人だけ女子生徒がポツリと座っている。その子の周りには、何故か他の生徒が寄り付こうとしない。顔を確認すると、その女子生徒はエリカだった。

 何か周りに違和感を感じて様子を伺ってみる。すると複数の生徒が、奇異と嘲笑を混ぜた視線をエリカに向けている事に気付いた。
 クスクスと嫌な笑みを浮かべている。

(どうしたというの?ヒロインであるエリカが孤立するだけでなく、蔑むような態度を取られるなんて……)

 何がおかしいのかと訝しんでいると、どうやらエリカはカトラリーでの食事に慣れていないようだ。
  
 何に対して馬鹿にしているのかは把握したが、その陰湿な態度を理解する事は出来なかった。そもそも『エリュシオンの翼』という作品はヒロインに対して、そのような陰湿な描写がある作品ではなかった筈だ。

 しかし貴族社会に平民が入り込めば、差別は免れない。
 そして国や時代が違っても、貴族制度がなくなっても人間社会における差別や偏見、苛めはきっとなくならない。

 物語ではなく現実なのだから、これは自我のある人間だからこそ当然のように起こり得る問題なのだろう。

 エリカがキョロキョロと辺りを見渡すと、瞬時に嘲笑っていた面々はさっと視線を戻して、何食わぬ顔で談笑を続けたり、昼食を食べたりと切り替えの早さに脱帽だった。
 流石貴族の子女だと、そこだけは感心してしまう。

 確かに食事マナーを知らない人間など、彼らからすると見下されて当然なのだろう。

 直接的な嫌がらせではないにしろ、複数人であからさまに馬鹿にして楽しんでいるのを見せられるのは、気分のいいものではなかった。

 異世界から現れたという彼女は、西洋文化のナイフとフォークを使うのを苦手としている。
 やはり自分と同じ世界、それも日本で生まれ育った『エリュシオンの翼』のプレイヤーなのだろうか?

 だが、ナイフやフォークに不慣れな人を馬鹿にするなど、前世日本人だった身として、わたしは許せなかった。

 ──貴方達なんてお箸も使えないくせに、ラーメンやうどんや蕎麦でさえも、フォークを使って食べるタイプのクセに!

 怒りがふつふつと湧いてきたわたしは、トレイを持ったまま、エリカが座る方へと歩き出していた。

「ここ、良いかしら?」
「あ、どうぞ!」

 驚いた表情を見せたが、エリカは元気よく返事をして了承してくれた。わたしはエリカとは向かいの席に着く。
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