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約束の時間となり、王太子の近衛騎士団サロンへと足を運び、そして今回はその奥の執務室へと通される事になった。


「お待ちしていました」

嬉しそうな笑顔で出迎えたアレクセルだが、突如思い出したように「そうだ」と呟いて、伺うような視線をシルヴィアに向けた。

「あの、言い忘れていた事があるのですが……」
「何でしょうか?」
「シルヴィアは下町のとある店前で、私が馬車に乗っていたのを見たのですよね?」
「そうです」
「そしてその馬車に女性も乗り込んで行ったという事でしたが、その店とは質屋の事ですよね?」

言われてシルヴィアは真顔のままピタリと動きを止め、しばらくして再び口を開いた。

「えっと……どうでしたっけ?お店までは覚えていないのですが」
「シルヴィアは下町に詳しいのですよね?」

ちょっと下町B級グルメを食べに行ったのが知られただけなのに、何故か下町マスターのような印象を持たれているとは。

「いえ、食べ物屋さんしか特に興味ないので、いちいち他のお店まで覚えていないです」
「そうですか……」
 
肩を落として返答するアレクセル。

(私どんだけ下町に馴染んでるように思われてたの?)

部屋に軽快な扉を叩く音が響き渡り、冷然とした声でアレクセルが「入れ」と促す。

「失礼致します」

扉が開き、室内に入ってきたのはまさしく下町で見た長身にロングヘアーの黒髪の美女。真紅の青のドレスに、大粒の宝石のついた宝飾品を身につけ、豪華な身なりがとても似合う。そして、彼女を見紛うはずがないとシルヴィアは思った。

「シルヴィアが見たのって、コレですよね?」
「そ、そうです。この方ですっ」

『これ』と言いながら美女に指を指す。アレクセルは美女に対して、かなりぞんざいな態度を取るようだ。シルヴィアはあの日見た美女を前にして、コクコクと素早く首を縦に振って肯定した。

するとシルヴィアの目の前まで来た美女は突如跪き、騎士の礼をする。その光景はまさに絵画の中にいる『姫と騎士』そのもの。

「姫、またお目にかかれて光栄です」

女性にしては落ちついた、心地の良い低めの声がとても耳心地良く感じる。

この声は……。

「クリス様!?」
「そうです、気付いて頂けて嬉しいな」

黙っていたら、気の強い冷たい美女と思いがちなその人は、綻ばせた表情と話し方で一気に親しみやすい印象へと変化した。間違いない。彼女は男装の麗人で女騎士、王太子ギルバートの近衛騎士クリスティーナ。


「ぜ、全然分かりませんでした!普段も中世的で素敵ですが、お化粧して長い髪だとどんな夜会の花にも負けない、華やかな美女です!」

「団長、可愛い可愛い姫に褒められました!」

瞳を輝かせ、声を弾ませるクリスにアレクセルは冷たく吐き捨てる。

「社交辞令だ」
「酷っ!?」
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