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シルヴィアと同僚のテオドール。室長のレオネル。そして近衛騎士アレクセルは改めて絵に向き合った。

描かれているのは湖の風景と鳥。その上から赤黒い文字が細かに浮かび上がっている。
爽やかな絵に不気味な文字と、アンバランス差が不安を煽り、口々に感想を述べていた。

そんな中新たに室内に入ってきた、若い少年の声によって遮られた。

「室長、頼まれてたノートとペンとインクと辞書ですけど……あれ、シルヴィア先輩?」

シルヴィアを前にして目を丸くするのは、ヒューイという、十六歳の魔術師の少年。
少し伸ばした黒髪。年齢の割に落ち着いた雰囲気を纏っている。

「あ、久しぶり」

シルヴィアはヒューイが持ってきた物を一式受け取るため、歩み寄った。手渡された次の瞬間、ヒューイは何かに気付いたように顔を上げた。

「あれ?シルヴィア先輩何だかいい匂いがしますね」
「あ、分かる?最近……」

毎晩薔薇のオイルを垂らした浴槽につかり、体や髪は薔薇の香油で磨かれているから。
気付いて貰えた事が嬉しくて、頬を緩めたのも束の間、瞬時に顔を引きつらせる事になる。

「はい、バスオイルですか?それとも風呂上がりに、全裸で何か塗り込んでるんですか?全身ですか?部分的ですか?」

「!!!!」

レオネルは顔面蒼白になった。

( ヒューイ!後ろ!後ろに旦那のルクセイア公爵様いるから!!公爵閣下固まってこっちガン見してるよ!!そもそもソレ聞いてどうするんだよ!私もいい匂いだと思ってたけど!!)

レオネル自身、こういう事は聞いていいのか分からず悩んでいたが、この聞き方は絶対良くないとだけは分かる。

脂汗を流し続けるレオネル。そしてシルヴィアはゴミを見る目でヒューイに言った。

「ちょっと黙っててもらえます?」
「えっ」


宮廷魔術師とは、女性も含まれているが男性の魔術師の方が数は多い。そんな環境の中シルヴィアがアレクセルに免疫が無かったのは、彼が圧倒的に「モテる男性」だからだ。
そう、この三人は宮廷魔術師の中でも絶妙に女性にモテない要素を持つ、非リア充タイプなのだ。それぞれ見た目は悪くなく、表面上テオドールとレオネルはむしろ女性受けがいい。
そんな彼らだからこそ、シルヴィアも異性として特に意識した事がなかった。

そしてヒューイ自身、驚く事に本人はセクハラの意思は全くなく「女性は変化に気づくと喜ぶ」と言ったアドバイスを知った結果がこれだった。
彼はモテようとしてもモテないのである。

何がいけなかったのか、どこに女性の地雷を踏む要素があったのか分からないまま、ヒューイは僅かに目尻に涙を滲ませたまま零した。

「すみませんでした……戻ります」
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