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その23(ヨシュア視点)

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そもそもオリヴィアがこの国の聖女とされているから、婚約が破棄出来ないのであって。
もし真の聖女がアイリーンだった場合彼女と婚約を結び直せるのではないか。

そう思い続けると、アイリーンが聖女であって欲しいという願望から、もしかしたらアイリーンが聖女かもしれない。次第にそう思い込むようになっていった。



「きっとアイリーンが聖女に違いない」

そしてアイリーン本人にも何度も言うようになっていった。



そうして遂に、国の重鎮達の前で婚約破騒動を引き起こしてしまう事になる。


「治癒魔法で頻繁に怪我を治していたら、人間に元々備わっている自分自身の身体を修復する機能が衰えてしまう。オリヴィアだって昔からそう言ってたよね!?」

「そんなのあいつが適当に言った事かもしれないだろ!」


そう言えば昔、そんな事を言っていたような気がするが、ヨシュアは忘れていた。

婚約破棄をやらかし、謹慎という形で自室に連行されたヨシュアの元に、弟のエフラムがその日のうちに早速会いに行った。だがヨシュアに反省の色はなく、兄弟は初めて怒鳴り合いの喧嘩をしていた。

何故聖女がオリヴィアではなく、アイリーンの方だと言い出したのか尋ねると、そのまま言い合いに発展してしまったのだった。

エフラムが言うように、人間には元々自分の怪我や皮膚を修復する機能が備わっている。
命に関わるような大怪我の止血など、人命救助の名目で治癒魔法を使う事に至っては教会から許可されている。だが頻繁に小さな傷まで治してしまうとなると、人間に元々備わっている機能がサボる事を覚え、衰えてしまう。

ヨシュアのように婚約者であるオリヴィアの身近にいる事で、小さな傷を魔法で頻繁に治癒するのは危険だとオリヴィアは判断したのだった。


「オリヴィアは物心付いた時から、教会で直々に聖女としての力や、能力に付いての教えを受けてきた。そのオリヴィアの言葉を信じないという事は、教会の教えに背くという事だっ。兄上は教会の教えが張ったりで、聖女についての知識がない、彼女が言った事が本当だと言いたいのか!?」

「アイリーンを嘘つき呼ばわりするな!そもそも彼女が真の聖女だと言い出したのは私からだっ」


「兄上にとって真実なんてどうでもいいんだね。自分にとって信じたい、都合の良いもの、耳心地の良いものだけがを信じたくて真実なんて兄上には関係ないんだ…」

悲しげに視線を落とす弟に、ヨシュアは冷たく言い放つ。

「五月蝿い。お前昔からオリヴィアの事が好きだっただろう?良かったな、変わりにお前が婚約者になってやれよ」

エフラムはヨシュアを睨み付けるとすぐに部屋を出た。





「この痴れ者が!」

数日後、会いに来てくれた母親が激怒する様を見て、ヨシュアは流石に焦った。

「は、母上…?母上もアイリーンに会えば彼女の良さがきっと…!」

「会えばですって!?私の前にそのような卑しい平民を連れてくるというのか!そのような事をしたら即親子の縁を切ります。何処まで私と、我がヴェルディエ家の顔に泥を塗れば気が済むのですかお前は!」


立ち上がった側妃は「しばらく何もするな!」と言い残して足早に部屋を出て行ってしまった。

一人部屋に残されたヨシュアは唖然とするしかなかった。
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