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呪いの正体
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ラドルはリンカを背負ったサルサと街の宿屋に入った。
ボロボロで薄汚れた服で背負われるリンカに怪しさを感じた宿屋の主人には、「野獣に襲われて命からがら逃げてきたんです」と、それっぽいことを言って部屋を借りた。
リンカをベットに寝かせるとラドルは一度外に出て、食料と一般的なポーションを買ってから部屋に戻る。
「リンカさんのポーションが残ってたら良かったのに」
「別にいい。食って休めば治る」
ラドルはガツガツと食事を済ませ、一緒に買ったポーションを数本飲み干した。
「ポーションを水のように飲める人なんてそうはいませんよね」
「あぁ、普通なら魔力酔いで逆におかしくなるだろう」
ふたりは悲しげな表情でベッドで眠るリンカを見た。
サルサはベッドに横になりながらリンカが目覚めるのを待っていた。
一時間が経過してサルサがウトウトし始めた頃。曇っていた空が明けて窓から差しこむ月明りがリンカの顔を照らしたとき、彼女はその光に反応を示す。
「サルサ起きろ」
夢の世界に落ちようかという狭間で現実に引き戻されたサルサは、眠さとダルさに包まれながら体を起こした。
「女が目を覚ましたぞ」
サルサが横を見ると、リンカが状況を確認している。
「ここは……?」
彼女は教会を出てシンから逃げようとしたときに、大きな衝撃を受けたところから記憶が曖昧だった。ぼんやりと考えていたが、シンが自分を殺そうとした記憶がよみがえり、体を小さくすぼませた。
それを見たサルサが彼女を案じて声をかける。
「リンカさん。もう大丈夫です」
横にいるサルサを見てようやく状況を把握し、すぼめた体の力を抜いた。
「シンさんはっ?」
「彼はですね、ちょっとやり過ぎてしまったのでお仕置きされました」
「お仕置き?」
小さな声で復唱したリンカに、サルサは指を差して言った。
「お仕置き人です」
部屋の隅に立つ者が二本のローソクに照らされている。それがラドルだとわかったリンカは、体をビクリと大きく動かした。
「……ラドルさん」
ハイテール山でラドルを必要以上に怖がらなくなったとはいえ、彼女がそんな驚きを見せたのは、ラドルのただならぬ雰囲気を感じたからだ。
風の無い部屋で二本のローソクの炎が揺れたのと同時にラドルは口を開いた。
「前に話を聞いた村の呪いの件。その謎が解けた」
「えっ?!」
彼女の反応を見てラドルはさらに目を細める。
「もう一度確認する。おまえは湖の精霊に精清水を作る力を与えられた。その力によって村人の体に蓄積した毒素を浄化・排出させて村人を助けていた。だが重篤化した者は精清水の力では治癒させることができなかった。そうだな?」
リンカは小さくうなずいていた。
「その後、精清水を使って作ったポーションの作用が通常の物より効果が高いことを知り、それを使って重篤化した者を治療した。間違いないな?」
「……はい」
言葉を溜めて返事をする。
「その能力を知ったことでおまえは今のように強力なポーションを作ることもできるようになった。村の奴らはどんどん元気になっていき、その噂が広がって多くの冒険者が訪れるようになった。予想ではこの頃にシンと知り合ったんじゃないか?」
リンカはこくりと首を縦に振った。
「作ったポーションをさらに魔術で強化するという賢者と呼ばれる者たちの技によって村人を救うことができたわけだが……。それを教えたのはシンなんだろ?」
「はい。シンさんからポーションを強化することを教わりました」
「だが、怪我や病気に特効のポーションによって村の名が売れ、人が集まり始めた矢先に呪いが始まった」
ここでラドルの声質が切り替わる。
「そうです……。鉱山の毒ガスの影響をそれほど受けていなかった人や立ち寄った冒険者にも症状が現れて、何人も死んでしまいました。苦しむ人にポーションを与えても一時的に元気になるのですが、結局は死んでしまったんです」
「冒険者も死んでしまうことから毒素の影響ではなく村の呪いだと言われるようになったんでしたね」
小さな声で話す彼女に、サルサは悲しげに言葉を足す。
「そうです。村の人たちは苦しむ家族や友人のために、わたしに呪いも打ち消すようなポーションを作ってくれと頼んできました。わたしもそれに全力で応えようと一生懸命作ったんです。でも……」
リンカは最後まで村人のために尽くし、最後のひとりを看取ったあと村を出たのだ。
「シンは……、村の呪いの正体を知っていたんだろうぜ」
ビクッと体を震わせる。
「無力な自分に嘆くおまえをシンは利用するために仲間に引き入れた。おまえは利用されていたことをどこかで感じながらも、自分の居場所としてあいつを利用していたんだろ?」
「そんなことはっ!」
リンカは今までにない大きな声で強く否定した。
「おまえも村を出たあとに気付いたんじゃないのか? 呪いの正体に」
返事をしないで黙り込むリンカの心を覆い隠すように、再び雲が月明りをさえぎった。そんなリンカにラドルは結論を突き付ける。
「村の呪いの正体。それは、おまえの作ったポーションだ」
うつむくリンカの目から涙がこぼれた。
ボロボロで薄汚れた服で背負われるリンカに怪しさを感じた宿屋の主人には、「野獣に襲われて命からがら逃げてきたんです」と、それっぽいことを言って部屋を借りた。
リンカをベットに寝かせるとラドルは一度外に出て、食料と一般的なポーションを買ってから部屋に戻る。
「リンカさんのポーションが残ってたら良かったのに」
「別にいい。食って休めば治る」
ラドルはガツガツと食事を済ませ、一緒に買ったポーションを数本飲み干した。
「ポーションを水のように飲める人なんてそうはいませんよね」
「あぁ、普通なら魔力酔いで逆におかしくなるだろう」
ふたりは悲しげな表情でベッドで眠るリンカを見た。
サルサはベッドに横になりながらリンカが目覚めるのを待っていた。
一時間が経過してサルサがウトウトし始めた頃。曇っていた空が明けて窓から差しこむ月明りがリンカの顔を照らしたとき、彼女はその光に反応を示す。
「サルサ起きろ」
夢の世界に落ちようかという狭間で現実に引き戻されたサルサは、眠さとダルさに包まれながら体を起こした。
「女が目を覚ましたぞ」
サルサが横を見ると、リンカが状況を確認している。
「ここは……?」
彼女は教会を出てシンから逃げようとしたときに、大きな衝撃を受けたところから記憶が曖昧だった。ぼんやりと考えていたが、シンが自分を殺そうとした記憶がよみがえり、体を小さくすぼませた。
それを見たサルサが彼女を案じて声をかける。
「リンカさん。もう大丈夫です」
横にいるサルサを見てようやく状況を把握し、すぼめた体の力を抜いた。
「シンさんはっ?」
「彼はですね、ちょっとやり過ぎてしまったのでお仕置きされました」
「お仕置き?」
小さな声で復唱したリンカに、サルサは指を差して言った。
「お仕置き人です」
部屋の隅に立つ者が二本のローソクに照らされている。それがラドルだとわかったリンカは、体をビクリと大きく動かした。
「……ラドルさん」
ハイテール山でラドルを必要以上に怖がらなくなったとはいえ、彼女がそんな驚きを見せたのは、ラドルのただならぬ雰囲気を感じたからだ。
風の無い部屋で二本のローソクの炎が揺れたのと同時にラドルは口を開いた。
「前に話を聞いた村の呪いの件。その謎が解けた」
「えっ?!」
彼女の反応を見てラドルはさらに目を細める。
「もう一度確認する。おまえは湖の精霊に精清水を作る力を与えられた。その力によって村人の体に蓄積した毒素を浄化・排出させて村人を助けていた。だが重篤化した者は精清水の力では治癒させることができなかった。そうだな?」
リンカは小さくうなずいていた。
「その後、精清水を使って作ったポーションの作用が通常の物より効果が高いことを知り、それを使って重篤化した者を治療した。間違いないな?」
「……はい」
言葉を溜めて返事をする。
「その能力を知ったことでおまえは今のように強力なポーションを作ることもできるようになった。村の奴らはどんどん元気になっていき、その噂が広がって多くの冒険者が訪れるようになった。予想ではこの頃にシンと知り合ったんじゃないか?」
リンカはこくりと首を縦に振った。
「作ったポーションをさらに魔術で強化するという賢者と呼ばれる者たちの技によって村人を救うことができたわけだが……。それを教えたのはシンなんだろ?」
「はい。シンさんからポーションを強化することを教わりました」
「だが、怪我や病気に特効のポーションによって村の名が売れ、人が集まり始めた矢先に呪いが始まった」
ここでラドルの声質が切り替わる。
「そうです……。鉱山の毒ガスの影響をそれほど受けていなかった人や立ち寄った冒険者にも症状が現れて、何人も死んでしまいました。苦しむ人にポーションを与えても一時的に元気になるのですが、結局は死んでしまったんです」
「冒険者も死んでしまうことから毒素の影響ではなく村の呪いだと言われるようになったんでしたね」
小さな声で話す彼女に、サルサは悲しげに言葉を足す。
「そうです。村の人たちは苦しむ家族や友人のために、わたしに呪いも打ち消すようなポーションを作ってくれと頼んできました。わたしもそれに全力で応えようと一生懸命作ったんです。でも……」
リンカは最後まで村人のために尽くし、最後のひとりを看取ったあと村を出たのだ。
「シンは……、村の呪いの正体を知っていたんだろうぜ」
ビクッと体を震わせる。
「無力な自分に嘆くおまえをシンは利用するために仲間に引き入れた。おまえは利用されていたことをどこかで感じながらも、自分の居場所としてあいつを利用していたんだろ?」
「そんなことはっ!」
リンカは今までにない大きな声で強く否定した。
「おまえも村を出たあとに気付いたんじゃないのか? 呪いの正体に」
返事をしないで黙り込むリンカの心を覆い隠すように、再び雲が月明りをさえぎった。そんなリンカにラドルは結論を突き付ける。
「村の呪いの正体。それは、おまえの作ったポーションだ」
うつむくリンカの目から涙がこぼれた。
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