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先輩風

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「ヤルキーさん、ありがとうございます。お知り合いでしたか」

「いや、初めて会うと思うけど」

「そうなんですか? 同じ依頼を受けていたので」

「同じって、今日俺が受けた依頼か?」

「はい、確かに契約書が」

「いたかなぁ、あいつ。十六人の大所帯だったから気が付かなかったのかもしれん」

  ヤルキーは席に座った青年を見て記憶を探るが思い出さなかった。

「この依頼を受けたってことは若くしてけっこうな腕前なのか?」

  シズラは再び依頼の契約書が束ねられたバインダーを取り出してパラパラとめくり、あるページで手を止めて目を細めた。

  生年月日や年齢、出身地や冒険者としての経歴などは全て空白。特技の覧もなし。ただ、戦闘技能には『格闘』『魔法』『魔術』『闘技』と、詳細ではないが記載されている。その他に書かれているのは名前と住まいだけだった。

「ランクはD。十日前に登録したばかりですが、Eからひとつ上がってますね。Dの中位ですよ」

「確かにDランクってのが三人いたな。俺と同じオールラウンダータイプなうえに十日でDに上がったってならヤル気は十分か。ただの自信過剰になるのはまずいから、俺が面倒見てやるか」

「ヤルキーさんはお優しいんですね」

「だろ? 今ので惚れちゃったかい?」

「いえ、ずっと前から惚れているので」

  澄ました顔での返答に、ヤルキーは苦笑う。

「まぁ、駆け出しの頃はこんなこともあるからな。なにかの縁だ。先輩風を吹かせてくるぜ」

  ヤルキーは奥の酒場に行って料理を注文した。

「あれ? 今日は飯食ってきたってさっき言ってたじゃねぇか」

「駆け出し冒険者の今後の健闘を祈っておごってやろうと思ってさ」

「ほう、さすがはAランク。時代を担う者への配慮も一流だ」

「俺も同じことをしてもらったから。あんたにな」

  酒場で働く彼は元Aランクの冒険者で、別の町でヤルキーと一緒にパーティーを組んでいたことがあった。五年前に引退し、現在は酒場で働きながら若手の育成をしている。

「それじゃぁサービスしておいてやるよ」

  皿からこぼれそうなほどに盛り付けられた料理が三品お盆に乗せられた。

「ありがとう。でもこの量は青年ひとりでは無理そうだぜ」

「お前も食べるんだよ。なにがあったか知らないが今日のお前は覇気がねぇ。食いたくなくても食っておけ。まだまだ現役バリバリなんだ。あと二十年は最前線でいけよ」

「はいはい、ありがたく頂戴しますよ」

  ヤルキーは料金を払うとずっしりとしたお盆を持って座席に戻った。

「待たせたな」

  ラドルの前に料理を置いて向かいに座ったヤルキー。皿に盛られた唐揚げの山の頂点からひとつ掴むと口に放り込んだ。

「さあ食べろ。きっと明日には依頼主も来るさ」

  ラドルは下を向いたまま唐揚げを摘まんだ。

「せっかくだから自己紹介だ。俺はヤルキー=アルネル。このギルドの運営に携わっているAランク冒険者だ。お前の名前は?」

「ラドル……、姓は無い」

「そうか」

  姓が無いことにはそれなりの理由がある。なのでヤルキーはそれ以上なにも言わなかった。

「ラドル、今日お前が受けた依頼に俺もいたんだが、気付いてたか?」

  そう話題を振るとラドルは少し体をビクつかせた。

「いや、人数が多かったし。オレは端っこにいたから」

  そう言って串焼きの皿に手を伸ばした。

「まだDランクだっていうのによくあの依頼を受けたな。推奨Cランク以上だぜ」

  この依頼は特殊で、受注した冒険者のランクによって報酬が違う。なぜなら報酬目当てで低ランカーが集まっても、いざというときに役に立たないからだ。襲われる確率が低いが、襲われた場合は今回のようにありえない難易度に跳ね上がる可能せいもある。そのため、格安の参加報酬と状況に応じた達成報酬に分かれている特殊な依頼だった。

「報酬も難易度も関係ない。オレの目的に都合が良さそうな依頼だったってだけさ」

  ラドルは下を向いたままもしゃもしゃと食べている。

「そうなのか。だが、今回はひどい目にあったな。俺も久々に命の危機を感じたぜ。あのトウヤって奴のおかげで命拾いしたが……。奴は災難だったな」

「災難?」

「あぁ、あの魔族っぽい奴のおかげでもしかしたら再起不能かもしれん。ちょっと性格がアレな奴だが、実力は化け物だったし引退にならなければいいんだが」

  ヤルキーの話しを聞いてラドルは初めて上目遣いに視線を上げた。

「実力? なんの努力もしないで手に入れた力がか?」

「どうなんだろうな? 異世界からやってきたなんて話を聞いたけど、確かにあの強さだ。神が使わした天使だったりしてな。しかし、その天使も悪魔に負けちまったけどよ」

  再びラトルの肩がビクリと動く。

「トウヤが最初に使った爆裂の魔法で獣人族も森も、へたしたら俺たちも死んでいてもおかしくなかった。だが、なぜか誰ひとり怪我もなく、森の木々もたいした被害はなかった。あれがあの魔族の力だっていうなら敵ながら恐ろしい。でもそのおかげで助かったぜ」

  ヤルキーはそう言いながらゴロゴロ野菜の酢豚を取り皿に分けてラドルに渡した。
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