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1章 町娘はストーリーを変える

27話

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王国を揺るがす結婚式から数日が過ぎた。
私達は平穏な暮らしを取り戻し日々楽しく過ごしている。
この世界での生活にも慣れて街に繰り出すことも多くなった。

「あっ! アカネ様だ!」
 
「ほんとだ! サイン貰おう!」

……前言撤回平穏なんて無かった。

あの後取材が来てパシャパシャ写真を撮られた。
そのせいで私の名は一斉に国中に広まってしまった。
国王と騎士団長が私を英雄と讃えたことが記事になって各地で私フィーバーが巻き起こってるらしい。

……やっぱりこんなイベント起きるのって可笑しくね?

毎度毎度そう思う。
神様は君はなるべくしてそうなったみたいなことを言っていたけど……

「明音! 凄かったよ! まさに君は主人公だ!」

誰も居なくなった静かな場所な大広間に彼は姿を現した。

「神様! どこいってたの!?」

「ごめんごめん。色々あってちょっと姿を消してたんだ」

「もしかして……途中で姿を見せたからこの国の人に追いかけられてたの?」

私がそう聞くと彼は吹き出して馬鹿にするように笑ってきた。

「あははは! そんな訳ないだろー! 僕は転生者にしか見えないんだぜ? まぁ姿を消したりは君らにバレないようにするけど」

……そっそうなんすか。
この人本当に不思議な人だな。
私を守ったりする力はあるのに普段見守るだけでなんもしないんだから。
本当は彼崇めないといけない人なんじゃ?
私バチが当たる気がしてきたよ。

「君は自分の運命に嘆いていたがそんなことはない! 君は得るべくしてこの結果を掴み取った! モブキャラだろうが主人公だろうが君はこうなる運命なんだ! その優しさを忘れるなよ! 秋下明音の今後の人生をご期待ください!」

彼は打ち切り漫画みたいなことを言って私の前から去っていった。

得るべくして結果を掴み取ったって言われてもねぇ……。
もうこんなことに巻き込まれたくないんだけど。
モブキャラはモブらしく楽しく平凡に日常を送らせてくださいよ。
刺激なんて要りませんし恋愛イベントはもっと要らない。
……まぁ恋愛イベは起きてないけど。

そんなことを考えながらブラブラと歩く。
今日は天気も良くて何も起きなくて平和だなぁ。
いやぁこういう日が続けばいいんだけど……

「きゃあああああ! たった助けて!!」

そう思った矢先可憐な少女の叫び声が聞こえた。
私は思わず声の方向へ走り出した。

「……嬢ちゃんどこの子だ? 良いおべべきてどこへいくんだい?」

「離して! 離さないとお兄様が黙っておりませんわよ!」

そこでは不細工な男が女の子の手を掴み気持ち悪い目で彼女を舐めるようにみていた。

「お兄様だって可愛いねぇ……でもそのお兄様は今どこにいるんだい? 助けてくれる人なんていねぇんだよ! さぁ俺と一緒に……」

彼が女の子を連れていこうとして動き出そうとしたら私と目が合ってしまった。

「……何してんの」

怖い顔で睨みつけると彼は獲物が増えたみたいな顔をしてこっちを見る。
だから私はニコッと笑って大きな声を上げる。

「きゃー! 助けて! 私はアキノシタ・アカネ! 最近王国で有名になって王様から認められたか弱き少女! その少女が今! 変質者に襲われかけてますよ! 誰かー! 助けてー!」

「ばっ馬鹿な!? あのアキノシタ・アカネ!?」

私の名前にビクついた彼は思わず彼女の腕を離す。
その瞬間彼女の手を引き凄いスピードで走る。

「……はぁここまで来れば、大丈夫かな」

「助けて頂きありがとうございます!」

金髪のウェーブがかかったボブヘアーが揺れるほどの勢いで彼女は私に頭を下げる。

「気にしないで! 困った時はお互い様!」

馬鹿だなあ私平穏を望むなら自ら問題ごとに首を突っ込まなきゃいいのに。
でも仕方ない女子キャラ好きだったから女子の悲鳴を聞くと体が勝手に動くんだもん。
昔ファイツのイベントで『助けて』ってテキストが出てきて「助けるよ!」って叫んでお母さんにドン引きされたっけな。

「おっお嬢様! どこに行ってらしたんですか!」

「爺! もー! 大変だったんだから!」

思い出にふけっていたら執事が彼女を迎えに来た。
彼女はそうとういい所のお嬢様だな……良かった危ない目に合わなくて。

「おや? こちらは?」

「この方はアキノシタ・アカネさん! 彼女が助けてくれましたの!」

「そうですか……ありがとうございます。アキノシタ様。ミリア様を御守りいただいて」

執事は深深と頭を下げて私にお礼を言った。

「大丈夫ですよ。気にしないでください」
 
「そうだアカネ様! お礼を兼ねて家にご招待しますわ!」

「ええっ!?」

彼女はウキウキしながらそう言った。
彼女の提案に執事はすぐに動き出して連絡を取っている。
……刺激がない一日を過ごしていたはずなのに終わり際に凄いことになっちゃって……。
まぁいっか! もう断罪イベントは無いんだし! 
これからは楽しい異世界ライフを送るぞー!

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