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1章 町娘はストーリーを変える

5話

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お昼休み私達は食堂に向かう。
廊下を歩いていると凄い目で凝視される。
……転生して数日、きっとこの世界の昔の私はこんなに目立つことは無かっただろう。
だって前の世界の私も目立たない存在だったから。
それなのにたった一日でこんなにも学園の注目の的になってしまうだなんて。

「……あまり人の目を気にしない方がいいわよアカネ。あれを気にしてたら心が壊れるわ」

彼女は隣で憂鬱そうにそう言った。

「まったく、私に嫌な視線を向けるのは構わないけど貴方に向けるのはどうかしてるわ」

少し顔を膨らませて目を細めて彼らを睨む。

「まぁまぁ、嫌な視線は慣れてるから」

だって学校で馬鹿話してたら凄い顔で陽キャの奴らに見られたし。

「……強がってない?」

「ないよ。レイラこそ強がってるんじゃない?」

「当たり前じゃない、そうやってないと私が持たないわ! ……でも仕方ないのよ全てを背負って立つ運命にあるってそういう事だもの」

……そっか、レイラは王子の婚約者だった。
いずれ国のトップを支え、国に関わる仕事をし国民を護らなきゃいけないんだ。
人に慕われるけど人に妬まれ酷い目に遭う。
それを子供の頃から経験してたんだ。
……そりゃ心を閉ざして冷たい態度をとるよ。
いつも人から悪意しか向けられてなかったなら尚更だよね。

「凄いね、レイラ」

「なっ何よ! 褒めても何も出ないわよ!」

素直に褒められてびっくりして声がうわずる彼女を見て優しく笑った。

「なっ何でそんな朗らかな顔してんのよ! はっ早く行くわよ!」

私の手を引いて彼女はいそいそと歩き出した。

「……あっレイラじゃないか。それとMsアキノシタ」

「レっレオン様」

食堂に入るとたまたま王子と目が合った。
少し強ばった表情をするレイラ。

……この時点で彼女の彼への好感度は高いはずでは?
だって、レイラはレオンが取られると思ってアイリの邪魔をしていたんでしょ?
そんな嫌いな友達に会ったような顔しちゃって。
……とりあえず変な空気になる前に挨拶をしておこう。

「こんにちはレオン様。名前を覚えて頂き光栄です」

「ん、堅苦しくなくていいぞ。貴方の噂は聞いている。この学園に特待生で入学し人望も厚く人柄も良い。レイラとも仲が良さそうだし今後なにか縁があるだろう。まぁよろしく頼むよ」

彼はそう言って手を差し伸べてきた。
私も手を差し出して握手をする。
凄いな王子話してるだけで胃が痛くなる。
はぁ特に何も無くてよかった……。

「ねぇ……見た?」

「えぇ見ましたわ」

……何も無いわけ無かったか。
私達の会話を見ていた人達がざわざわしている。

「レオン様が庶民に手を差し伸べましたわよ!? あの子何者!?」

「ありえないわ! あの平民私達のレオン様に!」

おいおい、やめろよ! 
私の隣にその婚約者がいるんだぞ!?
というか婚約者持ちなのに私達のとか言って大丈夫なの!?
レイラに消されるよ!?

「……あーあ、貴方変なのに目をつけられたわよ」

私を憐れむような目で見てくるレイラ。

「いやっ、いいの!? あれ野放しにして!」

「いいのよ、あれはレオン様親衛隊。彼のファンクラブよ。まぁ私は婚約者だから何も言われないけど、私以外の女の子が彼に近寄ったらその子が泣くまで嫌がらせをやめないわ」

……なにそれ!?
ゲームにはそんなの無かったはずなんですけど!?
そういや、レイラに邪魔されるイベントで大勢の女の子に囲まれた事があったような。
もしかしてそいつらか!?
うわぁ面倒くさっ! あの子ら絶対怒らせないようにしよう。

「それより食べましょご飯が冷えてしまうわ」

椅子に座って並べられた料理を食べる。
いやぁ、こんなに美味しい食べ物が毎日食べれるとか最高すぎではありませんか!

「うーん! 本当美味しい!」

「幸せそうに食べるわね。そうだ本当に私の家に住み込みで働く? この前一人辞めちゃったし人手が欲しいのは事実よ」

「まじ!? お願いしたい!」

アイテムショップのバイトなんて面倒臭い客が多いし、立ってるの辛いからもう嫌だと思ってたんだ!
それにこの食事が毎日食べれるなんて最高じゃないか!

目を輝かす私を見てくすくすと笑う彼女。

「じゃあお父様に聞いてみるわね。ふふっ休憩時間なんて与えないわよずっと私の所でこき使ってやるんだから」

「はい、お嬢様。私貴方様の為に尽くします。それが私の幸せ。私の生きがい」

召使いっぽくキメ顔で言ったら彼女は顔をくしゃっとして口をタコみたいにしてぷぷぷと笑った。

「てことは? レイラ専属メイドになりゃお城にも行けちゃうってわけか!」


少しおどけてそう言うと彼女は少しくらい顔をして「そうね」と呟いた。

「あっ、ごめん。嫌な事言ったかな……」

申し訳なさそうにすると彼女はハッとして慌てて訂正してきた。

「違っ! 違うのよ! ……いや、違うって言うかなんというか……」

……やっぱり嫌なのかな結婚。
さっきの反応からそうとしか思えない。
でもなんで? 嫌なら昨日あんな涙流さないはずなのに……。

「……レイラもしかして結婚したくないの」

聞いてしまった。
聞くか聞かないか自分でも迷ったがここで聞かなかったら後悔する気がした。

「……うんそうよ」

彼女は静かにそう言った。

「そっか、ごめん。変な事言って」

「いいのよ、言わなかった私が悪いもの」

「ううん、レイラの王子への反応見てたのに気づかなくてごめん」

私の言葉を聞いて彼女は目をぱちぱちさせて困った顔を見せる。

「うそっもしかして顔に出てた?」

「うん、なんか笑顔が引きっつてたよ」

「はぁ……そっかぁ……どうしよう」

顔を机に突っ伏して落ち込むレイラ。

「良ければ相談乗るよ。元々はレイラの悩みを聞くって言って食事誘ったしさ」

ニコッと笑って彼女にそう言うと彼女は少し嬉しそうな顔をして私に「お願いするわ」と言って話し始めた。

「実はね私たちの結婚って策略結婚なの」

……意外な真実。
そこまで深くはゲームでも触れられてなかったからなぁ。

「家って国の中でもトップクラスの家でね王室とのコネクションもあるのよ。……それでね私の家の財産目当てで今の国王は結婚の話をもちかけたのよ」

「なっなんで!? この国ってそんなに貧乏なの!?」

「そうじゃないけど、お金っていくらあっても構わないでしょ。隣国と戦争とかあったら困るし……資金が必要なのよ。でも他の国の王女と結婚するのもアレでしょ? だから私の家に話が来たって訳」

「なっ、なるほど……」

しかし酷いな、まぁこういう事は昔は多かったらしいし仕方ないことなのかもしれないけどさぁ。
自分の娘が可愛くないの? 決められた幸せを歩むことも娘の為かもしれないけど、自由に生きていつ掴めるか分からない幸せの為に頑張るのも人生だと私は思うな。

「私だって自由に恋愛して、皆みたいに自由に遊びたかった。でも私を育ててくれたお父様とお母様に悪いし……結婚を断ったりしたらあの二人の面子に関わるわ。……でも彼は自分の欲望を我慢できなかったわ」

彼女の顔が再び暗くなる。
俯いてとても悔しそうな顔をしていた。

「あの二人がどこで知り合ったか知らないけど、彼はあの子に恋をした。怒りより羨ましいって気持ちの方が強かったわ。このまま婚約破棄してくれないかなとも思った。……でもそうしたら彼らの期待を裏切り顔に泥を塗ることになるわ。そう思うととても胸が苦しくて……」

あぁ、そうか。彼女の涙はとても優しいものだったんだ。
自分のためじゃなくて親のために流したんだ。
……そうなると、王子本当にクズだな。
あいつレイラのこと考えたことあんの?
ただの攻略相手だと思ったが私のお前を見る目は変わったぞ。
お前は悪役王子だ、お前こそがこの物語の悪役だ!
今ここで私がお前を悪役認定するぞ!

心の中で強く叫んだ。

「なんかスッキリしたわ。ありがとアカネ」

彼女の暗い顔は清々しい顔に変わった。

「それなら何より。じゃあいつでも愚痴をこぼせるように早く私をお父様に紹介しといてね。お給料がいいほうにジョブチェンジしたいしさあとご飯食べたいし」

「アカネそればっかりね。何? 鉄板ジョーク?」

「その通り、素直になれない明音ちゃんの笑いを誘う可愛らしい冗談さ」

「ふふっ何言ってるの意味わからないわ」

「いずれわかる日が来る」

馬鹿なことを言ってみると彼女はにこやかに笑って素敵な笑顔を見せる。
なんか前の世界と同じことやってるな私。
気の合う友達と笑いあってご飯を食べる。
……でもこの暮らしが一番だ。
大好きなゲームの世界に転生しなくて良かったって初めて思えたかも。
あの世界なら日々が殺し合いだもんね

「アカネどうかした?」

「ううん、なんでもない。今日も美味しかったですご馳走座でした」

お昼の終わりを告げる鐘がなる。
食堂から教室に戻り午後の授業へ。
今日の学校もあと数時間。
さぁ残りを頑張るか!




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