6 / 6
6話 さよなら
しおりを挟む
「啓太くん?」
声に気づき、顔を上げる。あの子だった。あの子にやっと会えた。
「うそ、嘘だろ……本当か……?」
「やっぱり啓太くんだ。久しぶり」
ふふっと笑う、優しい声。
「なぁ、どうして俺を呪ったんだ?生きているんじゃないのか?」
すると、あの子は急に顔を曇らせる。少しうつむき気味に答える。
「私は死んだよ。やっぱり、あのときの衝撃で忘れてたんだね」
あの子は俺の額にそっと触れる。触れながら、ゆっくり話し始めた。
「私が飛び降りたい、って言ったとき、君はもちろんいいよって快諾した。それで、この高台の公園に来た」
そこまでの記憶はあるが、言い出したのはあの子だったのか。
「2人で飛び降りて、私は死んだ。君は運良く生き残ることができた。君は生きていたから、入院することになった」
思い出した。2人で飛び降りたんだ。かすかに覚えている記憶がある。痛みに悶え苦しみながら、頭から血を流しているあの子に手を伸ばした。けれど俺自身もそこで力尽きてしまった。そのあと発見されて病院に運ばれたんだ。
「なんで俺を呪ったんだ?やっぱり、生き残った俺を恨んでいたのか?」
あの子は首を振った。
「ううん。違うよ。君に、『幸せにならないと死ねない呪い』をかけたの」
「……え?」
あの子は俺の顔を優しく両手で撫でる。
「君が触れた患者さんは、身体の病気で亡くなってしまった。看護師さんは、運悪く事故にあった。どっちもただの偶然なんだよ。私は死ぬ寸前に神様に祈ったの。どうか、啓太くんだけでも幸せな人生を送ってほしいって」
「……」
「私、もう行かなくちゃ。」
「まって!まってくれよ!」
あの子の手のひらが透けていっている。あの子の手を掴もうとしても、すり抜けてしまう。
「君には響ちゃんがいるでしょ?響ちゃんに命の危機が迫ってるよ。啓太も早く行かないと」
「そ、そんな……」
スマホを見ると、「今までありがとう」というメッセージが表示されていた。あの子は光になって消えていった。全てを思い出した俺は、高台の公園へと全力で走っていった。体力のない俺は、息を切らしながら、口の中で血の味を味わいながら走っていた。
「響!響!」
展望台に、手すりを越えようとする響さんがいた。急いで駆け上がり、響さんを抱きしめる。
「えっ、えっ……?青陽さん……?」
「ごめん!触れてあげられなくて……頼む、響さんは死なないでくれ……!」
「青陽さん……」
俺は勢いに任せて叫んだ。
「頼む!俺の大切な人になってくれ……!どんなに辛くても、響さんと過ごしている時間は幸せだった。楽しかった。これ以上大切な人を死なせたくないんだ……!」
「どういうこと、ですか?」
振り返る響さんに、あの子のことを話した。
「俺には元カノがいたんだ。あの写真の人だ。自慢の彼女だった。でも俺は、あの子の望むことならなんでもやる気でいたし、やってしまった。だからあの子とこの展望台から飛び降りてしまった」
「え……」
「しかも俺は、頭を打った衝撃でそのことを忘れてしまっていた。最低だ……。それをさっき思い出させてもらったんだ」
息継ぎする間もなく、吐き散らしたので息が切れてきた。ハァハァと息をしながら、響さんに伝えた。響さんは、目に大粒の涙をためていた。
「青陽さん……」
「ごめん、ごめんね……。情けないお兄さんでさ」
響さんの頭を優しく撫でていた。これからはずっと一緒にいる。もうあの子の失敗を繰り返さない。
「これからはずっと一緒にいるから」
それから1年後。俺は響さんと同棲を始めた。
「こんなに食器いる?」
「それはいるの!俺の大事な限定のお皿とかマグカップなの!」
もう、響さん、ではなく響ちゃんと呼んでいる。
「響ちゃんは荷物少なくない?」
「私はそんなに必要なものないし……いらないものは全部断捨離してやるぜ!」
と、響ちゃんは親指を立ててグッとしてみせた。
「そっかそっか。今日のお昼は何食べたい?俺が作るよ」
「だめ!いつも自分1人で作ろうとするじゃん!私だってご飯くらい作れるんだよ?」
「はは、じゃあ一緒に作るか」
2人でキッチンに立つ日が来るなんて思わなかった。卵の焼けるいい匂いがする。今日のお昼はオムライスだ。
声に気づき、顔を上げる。あの子だった。あの子にやっと会えた。
「うそ、嘘だろ……本当か……?」
「やっぱり啓太くんだ。久しぶり」
ふふっと笑う、優しい声。
「なぁ、どうして俺を呪ったんだ?生きているんじゃないのか?」
すると、あの子は急に顔を曇らせる。少しうつむき気味に答える。
「私は死んだよ。やっぱり、あのときの衝撃で忘れてたんだね」
あの子は俺の額にそっと触れる。触れながら、ゆっくり話し始めた。
「私が飛び降りたい、って言ったとき、君はもちろんいいよって快諾した。それで、この高台の公園に来た」
そこまでの記憶はあるが、言い出したのはあの子だったのか。
「2人で飛び降りて、私は死んだ。君は運良く生き残ることができた。君は生きていたから、入院することになった」
思い出した。2人で飛び降りたんだ。かすかに覚えている記憶がある。痛みに悶え苦しみながら、頭から血を流しているあの子に手を伸ばした。けれど俺自身もそこで力尽きてしまった。そのあと発見されて病院に運ばれたんだ。
「なんで俺を呪ったんだ?やっぱり、生き残った俺を恨んでいたのか?」
あの子は首を振った。
「ううん。違うよ。君に、『幸せにならないと死ねない呪い』をかけたの」
「……え?」
あの子は俺の顔を優しく両手で撫でる。
「君が触れた患者さんは、身体の病気で亡くなってしまった。看護師さんは、運悪く事故にあった。どっちもただの偶然なんだよ。私は死ぬ寸前に神様に祈ったの。どうか、啓太くんだけでも幸せな人生を送ってほしいって」
「……」
「私、もう行かなくちゃ。」
「まって!まってくれよ!」
あの子の手のひらが透けていっている。あの子の手を掴もうとしても、すり抜けてしまう。
「君には響ちゃんがいるでしょ?響ちゃんに命の危機が迫ってるよ。啓太も早く行かないと」
「そ、そんな……」
スマホを見ると、「今までありがとう」というメッセージが表示されていた。あの子は光になって消えていった。全てを思い出した俺は、高台の公園へと全力で走っていった。体力のない俺は、息を切らしながら、口の中で血の味を味わいながら走っていた。
「響!響!」
展望台に、手すりを越えようとする響さんがいた。急いで駆け上がり、響さんを抱きしめる。
「えっ、えっ……?青陽さん……?」
「ごめん!触れてあげられなくて……頼む、響さんは死なないでくれ……!」
「青陽さん……」
俺は勢いに任せて叫んだ。
「頼む!俺の大切な人になってくれ……!どんなに辛くても、響さんと過ごしている時間は幸せだった。楽しかった。これ以上大切な人を死なせたくないんだ……!」
「どういうこと、ですか?」
振り返る響さんに、あの子のことを話した。
「俺には元カノがいたんだ。あの写真の人だ。自慢の彼女だった。でも俺は、あの子の望むことならなんでもやる気でいたし、やってしまった。だからあの子とこの展望台から飛び降りてしまった」
「え……」
「しかも俺は、頭を打った衝撃でそのことを忘れてしまっていた。最低だ……。それをさっき思い出させてもらったんだ」
息継ぎする間もなく、吐き散らしたので息が切れてきた。ハァハァと息をしながら、響さんに伝えた。響さんは、目に大粒の涙をためていた。
「青陽さん……」
「ごめん、ごめんね……。情けないお兄さんでさ」
響さんの頭を優しく撫でていた。これからはずっと一緒にいる。もうあの子の失敗を繰り返さない。
「これからはずっと一緒にいるから」
それから1年後。俺は響さんと同棲を始めた。
「こんなに食器いる?」
「それはいるの!俺の大事な限定のお皿とかマグカップなの!」
もう、響さん、ではなく響ちゃんと呼んでいる。
「響ちゃんは荷物少なくない?」
「私はそんなに必要なものないし……いらないものは全部断捨離してやるぜ!」
と、響ちゃんは親指を立ててグッとしてみせた。
「そっかそっか。今日のお昼は何食べたい?俺が作るよ」
「だめ!いつも自分1人で作ろうとするじゃん!私だってご飯くらい作れるんだよ?」
「はは、じゃあ一緒に作るか」
2人でキッチンに立つ日が来るなんて思わなかった。卵の焼けるいい匂いがする。今日のお昼はオムライスだ。
0
お気に入りに追加
2
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?
春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。
しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。
美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……?
2021.08.13
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?
石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。
ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。
ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。
「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。
小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。
扉絵は汐の音さまに描いていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる