前髪の長い君が好き。

如月ゆっけ

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6話 さよなら

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「啓太くん?」
 声に気づき、顔を上げる。あの子だった。あの子にやっと会えた。
「うそ、嘘だろ……本当か……?」
「やっぱり啓太くんだ。久しぶり」
 ふふっと笑う、優しい声。
「なぁ、どうして俺を呪ったんだ?生きているんじゃないのか?」
 すると、あの子は急に顔を曇らせる。少しうつむき気味に答える。
「私は死んだよ。やっぱり、あのときの衝撃で忘れてたんだね」
 あの子は俺の額にそっと触れる。触れながら、ゆっくり話し始めた。
「私が飛び降りたい、って言ったとき、君はもちろんいいよって快諾した。それで、この高台の公園に来た」
 そこまでの記憶はあるが、言い出したのはあの子だったのか。
「2人で飛び降りて、私は死んだ。君は運良く生き残ることができた。君は生きていたから、入院することになった」
 思い出した。2人で飛び降りたんだ。かすかに覚えている記憶がある。痛みに悶え苦しみながら、頭から血を流しているあの子に手を伸ばした。けれど俺自身もそこで力尽きてしまった。そのあと発見されて病院に運ばれたんだ。
「なんで俺を呪ったんだ?やっぱり、生き残った俺を恨んでいたのか?」
 あの子は首を振った。
「ううん。違うよ。君に、『幸せにならないと死ねない呪い』をかけたの」
「……え?」
 あの子は俺の顔を優しく両手で撫でる。
「君が触れた患者さんは、身体の病気で亡くなってしまった。看護師さんは、運悪く事故にあった。どっちもただの偶然なんだよ。私は死ぬ寸前に神様に祈ったの。どうか、啓太くんだけでも幸せな人生を送ってほしいって」
「……」
「私、もう行かなくちゃ。」
「まって!まってくれよ!」
 あの子の手のひらが透けていっている。あの子の手を掴もうとしても、すり抜けてしまう。
「君には響ちゃんがいるでしょ?響ちゃんに命の危機が迫ってるよ。啓太も早く行かないと」
「そ、そんな……」
 スマホを見ると、「今までありがとう」というメッセージが表示されていた。あの子は光になって消えていった。全てを思い出した俺は、高台の公園へと全力で走っていった。体力のない俺は、息を切らしながら、口の中で血の味を味わいながら走っていた。
「響!響!」
 展望台に、手すりを越えようとする響さんがいた。急いで駆け上がり、響さんを抱きしめる。
「えっ、えっ……?青陽さん……?」
「ごめん!触れてあげられなくて……頼む、響さんは死なないでくれ……!」
「青陽さん……」
 俺は勢いに任せて叫んだ。
「頼む!俺の大切な人になってくれ……!どんなに辛くても、響さんと過ごしている時間は幸せだった。楽しかった。これ以上大切な人を死なせたくないんだ……!」
「どういうこと、ですか?」
 振り返る響さんに、あの子のことを話した。
「俺には元カノがいたんだ。あの写真の人だ。自慢の彼女だった。でも俺は、あの子の望むことならなんでもやる気でいたし、やってしまった。だからあの子とこの展望台から飛び降りてしまった」
「え……」
「しかも俺は、頭を打った衝撃でそのことを忘れてしまっていた。最低だ……。それをさっき思い出させてもらったんだ」
 息継ぎする間もなく、吐き散らしたので息が切れてきた。ハァハァと息をしながら、響さんに伝えた。響さんは、目に大粒の涙をためていた。
「青陽さん……」
「ごめん、ごめんね……。情けないお兄さんでさ」
 響さんの頭を優しく撫でていた。これからはずっと一緒にいる。もうあの子の失敗を繰り返さない。
「これからはずっと一緒にいるから」

 それから1年後。俺は響さんと同棲を始めた。
「こんなに食器いる?」
「それはいるの!俺の大事な限定のお皿とかマグカップなの!」
 もう、響さん、ではなく響ちゃんと呼んでいる。
「響ちゃんは荷物少なくない?」
「私はそんなに必要なものないし……いらないものは全部断捨離してやるぜ!」
 と、響ちゃんは親指を立ててグッとしてみせた。
「そっかそっか。今日のお昼は何食べたい?俺が作るよ」
「だめ!いつも自分1人で作ろうとするじゃん!私だってご飯くらい作れるんだよ?」
「はは、じゃあ一緒に作るか」
 2人でキッチンに立つ日が来るなんて思わなかった。卵の焼けるいい匂いがする。今日のお昼はオムライスだ。
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