15 / 15
桜木恵子の殺人美学
拉致、そして──
しおりを挟む目が覚めると、無機質な白い天井が私を迎えた。
「あ、先生。目を覚ましましたよ……大丈夫ですか? 痛い所はありますか?」
全身に均等に重力を感じていた私は、怠い身体を左手で支えながら上体を起こすと、周囲を見渡した。
「……ここ、どこ?」
「ここは病院です。あなたは歩道の真ん中で倒れてたんです。同級生の方が救急車を呼んでくれたみたいですよ?」
ナース服を着た看護師が、私の顔を覗き込むようにして言った。
「あ、えと……痛っ」
今一つ状況が掴めずに、今日の出来事を振り返ろうと思考を巡らせた。しかし、額に電流のような痛みが走り、記憶の回路が即座に遮断される。
「やっぱりまだ痛みますよね。またすぐ戻ってきますから、少しだけ待ってて下さいね……もう、先生どこに行ったのかしら」
看護師の女はそう言い残して部屋を出て行った。
カチャリ
え、鍵?
女をベッドの上で見送った私は、不審に思いながらもゆっくりと上体を倒した。膨らんだ枕に頭が沈む。
まぁ、どうでもいいか……何だかさっきまで楽しい夢を見ていた気がする。夢の中で、私の欲望が開放されて、自由を手に入れた感じがした。もう一度眠れば同じ夢を見れるだろうか。
微睡み、瞼を静かに閉じようとしたその時。胸騒ぎがして閉じかけた瞼を開けた。
何か、何かがおかしい。
重たい頭を擡げながらベットから這い出ると、胸の中でざわざわと蠢く違和感が膨張していく感覚に襲われた。
ここは、どこだ。病院じゃない。それっぽく似せてるけど、違う。そう言えば、さっきの看護師もどこかで見た事がある。どこだ、いつ会った? そもそもなんの目的で私を連れ去ったんだ──
先程とは打って変わって素早く働く思考回路。自分に危険が迫っている事を本能的に理解した私は、周囲を警戒しながら、女が出て行った方とは逆に位置する窓へ歩み寄った。
あの女が戻って来る前にここを出なければ……。
緊張から少しずつ早まる心音。どくどくと血液が全身を駆け巡り、覚醒する脳。
窓の外は闇に覆われており、今が何時なのかの検討が全くつかない。
どこ? 窓を開閉するストッパーがどこにも無い。
一面ガラス張りの窓に舌打ちしながら、周囲を見渡す。
畜生。あそこしか出口がないんじゃん。
私は先程女が出て行った扉に手を掛け、開けようと試みたが、やはり鍵が掛かっているようで、全く動かない。その時、扉の向こう側から、カツンと靴音が聞こえてきた。
! もう戻ってきた……どうする? ベッドに戻って寝た振りをする? それともどこかへ隠れる? それとも──
0
お気に入りに追加
3
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
『忌み地・元霧原村の怪』
潮ノ海月
ホラー
とある年の五月の中旬、都会から来た転校生、神代渉が霧野川高校の教室に現れる。彼の洗練された姿に女子たちは興味を示し、一部の男子は不満を抱く。その中、主人公の森月和也は、渉の涼やかな笑顔の裏に冷たさを感じ、彼に違和感を感じた。
渉の編入から一週間が過ぎ、男子達も次第に渉を受け入れ、和也の友人の野風雄二も渉の魅力に引き込まれ、彼の友人となった。転校生騒ぎが終息しかけたある日の学校の昼休み、女子二人が『こっくりさん』で遊び始め、突然の悲鳴が教室に響く。そしてその翌日、同じクラスの女子、清水莉子が体調不良で休み、『こっくりさん』の祟りという噂が学校中に広まっていく。その次の日の放課後、莉子を心配したと斉藤凪紗は、彼女の友人である和也、雄二、凪沙、葵、渉の五人と共に莉子の家を訪れる。すると莉子の家は重苦しい雰囲気に包まれ、莉子の母親は憔悴した姿に変わっていた。その異変に気づいた渉と和也が莉子の部屋へ入ると、彼女は霊障によって変わり果てた姿に。しかし、彼女の霊障は始まりでしかなく、その後に起こる霊障、怪異。そして元霧原村に古くから伝わる因習、忌み地にまつわる闇、恐怖の怪異へと続く序章に過ぎなかった。
《主人公は月森和也(語り部)となります。転校生の神代渉はバディ訳の男子です》
【投稿開始後に1話と2話を改稿し、1話にまとめています。(内容の筋は変わっていません)】

糠味噌の唄
猫枕
ホラー
昭和60年の春、小6の町子は学校が終わって帰宅した。
家には誰もいない。
お腹を空かせた町子は台所を漁るが、おやつも何もない。
あるのは余った冷やご飯だけ。
ぬか漬けでもオカズに食べようかと流し台の下から糠床の入った壺をヨイコラショと取り出して。
かき回すと妙な物体が手に当たる。
引っ張り出すとそれは人間の手首から先だった。
廃村双影
藤雅
ホラー
【あらすじ】
かつて栄えた山間の村「双影村(そうえいむら)」は、ある日を境に忽然と地図から消えた。
「影がふたつ映る村」として伝説化していたこの地には、村人の誰一人として生還できなかったという恐ろしい記録が残る。
現在、都市伝説ライターの片桐周(かたぎり あまね)は、ある読者からの匿名の情報提供を受け、「双影村」の謎を調査することになる。心霊スポットとしてネット上で囁かれるこの村は、政府の機密指定区域にもなっており、公式には「存在しない村」だという。しかし、片桐は仲間たちとともにその禁断の地へと足を踏み入れてしまう。
そこには、「自分の影が増えると死ぬ」という奇妙な現象が存在し、次第に仲間たちが恐怖に飲み込まれていく。
50話に渡るこの物語は、失われた村の秘密、影の呪いの正体、そして片桐自身が背負った宿命を解き明かす壮絶なジャパニーズホラーサスペンスである。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。


Cuore
伏織
ホラー
(「わたしの愛した世界」の加筆修正が終わったら続き書きます。いつになることやら)
二学期の初日、人気者の先生の死を告げられた生徒達。
その中でも強いショックを受け、涙を流して早退することになった主人公。
彼女は直感的に「先生の死には何か重大な秘密がある」と感じ、独自に調査をしようとします。
そんな彼女を襲う噂、悪夢、…………そして先生の幽霊。
先生は主人公に何を伝えたくて現れるのか、それを知るため、彼女は更に調査を進めていきます。
ペルシャ絨毯の模様
宮田歩
ホラー
横沢真希は、宝石商としての成功を収め、森に囲まれた美しい洋館に住んでいた。しかし、その森からやってくる蟲達を酷く嫌っていた。そんな横沢がアンティークショップで美しい模様のペルシャ絨毯を購入するが——。
透影の紅 ~悪魔が愛した少女と疑惑のアルカナ~
ぽんぽこ@書籍発売中!!
ホラー
【8秒で分かるあらすじ】
鋏を持った女に影を奪われ、八日後に死ぬ運命となった少年少女たちが、解呪のキーとなる本を探す物語。✂ (º∀º) 📓
【あらすじ】
日本有数の占い師集団、カレイドスコープの代表が殺された。
容疑者は代表の妻である日々子という女。
彼女は一冊の黒い本を持ち、次なる標的を狙う。
市立河口高校に通う高校一年生、白鳥悠真(しらとりゆうま)。
彼には、とある悩みがあった。
――女心が分からない。
それが原因なのか、彼女である星奈(せいな)が最近、冷たいのだ。
苦労して付き合ったばかり。別れたくない悠真は幼馴染である紅莉(あかり)に週末、相談に乗ってもらうことにした。
しかしその日の帰り道。
悠真は恐ろしい見た目をした女に「本を寄越せ」と迫られ、ショックで気絶してしまう。
その後意識を取り戻すが、彼の隣りには何故か紅莉の姿があった。
鏡の中の彼から影が消えており、焦る悠真。
何か事情を知っている様子の紅莉は「このままだと八日後に死ぬ」と悠真に告げる。
助かるためには、タイムリミットまでに【悪魔の愛読書】と呼ばれる六冊の本を全て集めるか、元凶の女を見つけ出すしかない。
仕方なく紅莉と共に本を探すことにした悠真だったが――?
【透影】とかげ、すきかげ。物の隙間や薄い物を通して見える姿や形。
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
表紙イラスト/イトノコ(@misokooekaki)様より
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる