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桜木恵子の殺人美学
志垣勇の疑問 その2
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音がした方へ首を回すと、桜木恵子の座席に目が止まった。
「あらら、鞄のチャック空いてんじゃん。教科書はみ出てるし。ありゃあ雪崩たな」
のっそりと立ち上がるとそちらへ歩み寄った。
地面には古典教材、数学の問題集、よく分からないメイク道具諸々、よく分からない──
「なんだ、これ」
学校へ持ってくるには異質が過ぎるそれを思わず拾い上げると、想定外の重量に戸惑いが増した。
「ないふ? ナイフだよなこれ。カバー着いてるけど本物か?」
グリップの部分を逆手に持ち、カバーに手を伸ばす。カバーを少しだけずらすと、中から銀色に輝く刃が姿を現した。ゆっくりと奥側へ傾けると、蛍光灯に照らされたそれは銀から眩い白色へと表情を変えた。
「すげー。これ本物じゃん! あいつ変わった趣味あんのな」
ずるり
興奮したオレは一気にカバーを剥ぐと、粘性のある赤黒い液体が糸を引きながら滴ったのを目の端に捉えた。
「あ?」
ビチャ、と飛び散ったそれは、高峰志穂の机にいくつかの斑紋を描いて着点した。
ぬらぬらと輝らされる赤い液体は、さながら血のようだった。──否、血液そのものであった。
「うおぉ?! ……これ、血か? なんで?」
液体の正体を理解した途端、いくつもの疑問符が頭に浮かんだ。
これは血、だよな? もしかしてリスカ? いやでも手首にそんな目立つ裂傷ないし。そもそも何でナイフなんか持ってんだ? ほんとに血なのか? だとすると誰の血だ!
ナイフを手にしたまま硬直していると、廊下から快活な女子の話し声が聞こえてきた。それを聞いたオレは、ハッと我に返ると急いでナイフを仕舞い、それを地面に放った。机に付着した血をカッターシャツで拭ったが、拭いた方へ赤い筋が伸びるだけだった。ゴシゴシと腕を前後させていると、ぷちっと音を立てて手首元にあるカッターシャツのボタンが取れたが、構っている余裕など微塵もない。
「なんだよ、くそ!」
すっかりパニックに陥っていると、女子生徒が寸前まで迫っている事を察した。
やばい、やばいやばいやばい──
知らぬ間に顔面から尋常で無い程の汗が噴き出していた。木枯らしが窓を叩く音が激しさを増す。心臓は今までに無いほど脈打ち、頭に血液が上る。
「でさぁ──」
「まじで? ウケるー──」
もう、駄目だ。
呆然と立ち尽くしたまま廊下側に視線を向ける。
女子生徒の影が教室前の白硝子の向こうに映ると、そのまま通過し、姿を消した。
「ぶふぅ! はぁ、はぁ……はぁ」
心臓発作でも起こしてしまいそうなくらいにドクドクと唸っている心臓を、どうにか落ち着かせようと努めた。
息をすることも忘れ、不足した酸素を脳に送ろうと呼吸が荒くなる。
誰かに見つかる前に、ここを出よう。
オレはフラフラになりながら自分の鞄を鷲掴むと、千鳥足のまま教室を後にした。
「あらら、鞄のチャック空いてんじゃん。教科書はみ出てるし。ありゃあ雪崩たな」
のっそりと立ち上がるとそちらへ歩み寄った。
地面には古典教材、数学の問題集、よく分からないメイク道具諸々、よく分からない──
「なんだ、これ」
学校へ持ってくるには異質が過ぎるそれを思わず拾い上げると、想定外の重量に戸惑いが増した。
「ないふ? ナイフだよなこれ。カバー着いてるけど本物か?」
グリップの部分を逆手に持ち、カバーに手を伸ばす。カバーを少しだけずらすと、中から銀色に輝く刃が姿を現した。ゆっくりと奥側へ傾けると、蛍光灯に照らされたそれは銀から眩い白色へと表情を変えた。
「すげー。これ本物じゃん! あいつ変わった趣味あんのな」
ずるり
興奮したオレは一気にカバーを剥ぐと、粘性のある赤黒い液体が糸を引きながら滴ったのを目の端に捉えた。
「あ?」
ビチャ、と飛び散ったそれは、高峰志穂の机にいくつかの斑紋を描いて着点した。
ぬらぬらと輝らされる赤い液体は、さながら血のようだった。──否、血液そのものであった。
「うおぉ?! ……これ、血か? なんで?」
液体の正体を理解した途端、いくつもの疑問符が頭に浮かんだ。
これは血、だよな? もしかしてリスカ? いやでも手首にそんな目立つ裂傷ないし。そもそも何でナイフなんか持ってんだ? ほんとに血なのか? だとすると誰の血だ!
ナイフを手にしたまま硬直していると、廊下から快活な女子の話し声が聞こえてきた。それを聞いたオレは、ハッと我に返ると急いでナイフを仕舞い、それを地面に放った。机に付着した血をカッターシャツで拭ったが、拭いた方へ赤い筋が伸びるだけだった。ゴシゴシと腕を前後させていると、ぷちっと音を立てて手首元にあるカッターシャツのボタンが取れたが、構っている余裕など微塵もない。
「なんだよ、くそ!」
すっかりパニックに陥っていると、女子生徒が寸前まで迫っている事を察した。
やばい、やばいやばいやばい──
知らぬ間に顔面から尋常で無い程の汗が噴き出していた。木枯らしが窓を叩く音が激しさを増す。心臓は今までに無いほど脈打ち、頭に血液が上る。
「でさぁ──」
「まじで? ウケるー──」
もう、駄目だ。
呆然と立ち尽くしたまま廊下側に視線を向ける。
女子生徒の影が教室前の白硝子の向こうに映ると、そのまま通過し、姿を消した。
「ぶふぅ! はぁ、はぁ……はぁ」
心臓発作でも起こしてしまいそうなくらいにドクドクと唸っている心臓を、どうにか落ち着かせようと努めた。
息をすることも忘れ、不足した酸素を脳に送ろうと呼吸が荒くなる。
誰かに見つかる前に、ここを出よう。
オレはフラフラになりながら自分の鞄を鷲掴むと、千鳥足のまま教室を後にした。
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