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桜木恵子の殺人美学
桜木恵子の日常 その1
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「また殺人事件ですってぇ、しかもバラバラ! この辺も物騒になったわね~……引っ越そうかしらぁ」
「ほんとそれよね~! 警察は何してるのかしら、全く……」
朝、高校へ向かう道中で、あちこちから同じ話題が聞こえてくる。
「なぁ、お前あの事件知ってるか?」
「この辺で知らんやつなんかいるのかよ。昨日も新聞に載ってたしな」
「えぇ、新聞なんか読むのかよ……ジジくさいな~」少し前をゆく二人組の男子高校生がゲラゲラと笑っている。
新聞……いいと思うんだけどな。目まぐるしく話題を変えるニュース番組よりよっぽどいい。私みたいなマイペースさんは新聞の方が性に合ってる。
なにより、警察の動向も把握しやすい。
ニュース番組だと『警察は引き続き捜査を行っています』だけしか言ってくれないんだもの。
それに引き換え新聞の素晴らしい事。犯人の特徴がどこまでわかってるとか、犯行に使われた凶器がどうだとか、わかっている範疇で事細かに情報が掲載されているのは少し親切過ぎると思う。
昨日なんて思わず『これならまだまだ殺れそう!』って心の声が漏れちゃったし……。
はぁ、それにしてもこの世はなんて生きにくいのだろう。やりたい事も、倫理に反していれば法で罰せられるなんて……。
まぁでも、某アニメのようにゴリゴリムキムキのモヒカン共がモーニングスターやらマシンガン振り回してる世紀末は、それはそれでか弱い私が生き長らえられるなんて到底思えない。あんなに首が太いと、ピアノ線なんか切れるどころか食い込みさえしなさそう。
そう考えればこの国は丁度いい感じなのかもしれない。要はバレなければいいのだから。
「けいちゃんおはよー!」
ぼんやりと考え事をしていると、後ろから私のあだ名を呼ぶ声が聞こえた。
振り返ると、こちらに向かって手を振りながら走ってくる女子生徒の姿が見えた。篠崎美咲だ。
彼女とは中学からの付き合いで、少し長めの黒い艶やかな髪が清楚な雰囲気に良く映える美人である。目鼻顔立ちも申し分無く、モテる。少しおっちょこちょいな性格が見え隠れするのがギャップ萌えと言うのだろうか、私が男なら告白必至であろう。──愛おしい。
「はぁ、はぁ……ん、はぁ」
「おはよう、美咲」
「お、おあよう……はぁ」
美咲の頬に一筋の汗が流れる。汗を流しただけで醸し出される妖艶な雰囲気に、私はごくりと生唾を飲み込んだ。それにしても一体どこから走ってきたのだろうか、息が相当あがっている。
「わざわざ走って来なくても……このペースなら授業開始の1分前には着くよ?」
「だから、走ってたんじゃん! ふぅ、けいちゃんが、はぁ、1分前ならその後ろにいる私は、確実にアウトだよ! ……いや、1分前でも充分駄目な気がするけど!」
「間に合ってさえいればいいのだよ美咲君」
私は右手の人差し指を空に向けて突き立てながらそう言うと「マイペースさんには付いて行けないよ」と美咲が笑った。
「ほんとそれよね~! 警察は何してるのかしら、全く……」
朝、高校へ向かう道中で、あちこちから同じ話題が聞こえてくる。
「なぁ、お前あの事件知ってるか?」
「この辺で知らんやつなんかいるのかよ。昨日も新聞に載ってたしな」
「えぇ、新聞なんか読むのかよ……ジジくさいな~」少し前をゆく二人組の男子高校生がゲラゲラと笑っている。
新聞……いいと思うんだけどな。目まぐるしく話題を変えるニュース番組よりよっぽどいい。私みたいなマイペースさんは新聞の方が性に合ってる。
なにより、警察の動向も把握しやすい。
ニュース番組だと『警察は引き続き捜査を行っています』だけしか言ってくれないんだもの。
それに引き換え新聞の素晴らしい事。犯人の特徴がどこまでわかってるとか、犯行に使われた凶器がどうだとか、わかっている範疇で事細かに情報が掲載されているのは少し親切過ぎると思う。
昨日なんて思わず『これならまだまだ殺れそう!』って心の声が漏れちゃったし……。
はぁ、それにしてもこの世はなんて生きにくいのだろう。やりたい事も、倫理に反していれば法で罰せられるなんて……。
まぁでも、某アニメのようにゴリゴリムキムキのモヒカン共がモーニングスターやらマシンガン振り回してる世紀末は、それはそれでか弱い私が生き長らえられるなんて到底思えない。あんなに首が太いと、ピアノ線なんか切れるどころか食い込みさえしなさそう。
そう考えればこの国は丁度いい感じなのかもしれない。要はバレなければいいのだから。
「けいちゃんおはよー!」
ぼんやりと考え事をしていると、後ろから私のあだ名を呼ぶ声が聞こえた。
振り返ると、こちらに向かって手を振りながら走ってくる女子生徒の姿が見えた。篠崎美咲だ。
彼女とは中学からの付き合いで、少し長めの黒い艶やかな髪が清楚な雰囲気に良く映える美人である。目鼻顔立ちも申し分無く、モテる。少しおっちょこちょいな性格が見え隠れするのがギャップ萌えと言うのだろうか、私が男なら告白必至であろう。──愛おしい。
「はぁ、はぁ……ん、はぁ」
「おはよう、美咲」
「お、おあよう……はぁ」
美咲の頬に一筋の汗が流れる。汗を流しただけで醸し出される妖艶な雰囲気に、私はごくりと生唾を飲み込んだ。それにしても一体どこから走ってきたのだろうか、息が相当あがっている。
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「だから、走ってたんじゃん! ふぅ、けいちゃんが、はぁ、1分前ならその後ろにいる私は、確実にアウトだよ! ……いや、1分前でも充分駄目な気がするけど!」
「間に合ってさえいればいいのだよ美咲君」
私は右手の人差し指を空に向けて突き立てながらそう言うと「マイペースさんには付いて行けないよ」と美咲が笑った。
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