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桜木恵子の殺人美学
殺人美学講座 その1
しおりを挟む【第一回 美学講座 開講】
「んー! むうー!!」
「もう、暴れないで下さいよー。もしあなたの拘束が解けるような事があったら、それこそ私もただじゃ済まないんですから……大丈夫! 痛いのは一瞬だけだし! ……たぶん」
小太りの男は上裸で両手足を拘束され、今から何をされるか分からない恐怖からか、或いは上着を纏っていない肌寒さからか、ブルブルと小刻みに震えていた。
しとしとと垂直に落下する雨の音が、静かに鼓膜を揺らす。
私は鼻歌を交えながら真っ黒な手袋を嵌めた。そして手にピアノ線の束を持つと、男に見えるように一本だけスッと伸ばした。
「んー!! んぅんん!!」
「じゃあ、早速始めるね?」
男の背後へ移動すると、首元にピアノ線を一周回した。刹那、力一杯自分の方へピアノ線を引いた。
ぶじゅ ぶちっ
音を立てて切れた首は、中央程進んだ所で止まった。ぱっくりと割れた肉が、歪な音を不規則に発する。
男は頭を重力に逆らう事なくだらんと垂らし、白目を剥いていた。口からは泡を吹き、股間部はじんわりと湿り気を帯びていた。
「あぁ! ごめんね! こんなつもりじゃなかったの! もっとこう、スパッと切れる感じをイメージしてたの! でもでも、さっき『たぶん』って言ってたよね? だから私、嘘はついてないよ。ほんとだよ?」
既に息絶えている様子の男に言い訳をする私の口元は笑っていた。
ぐじゅ、ぶじゅう
なおも奏でられる不協和音は、空気中に霧散しながら雨の音に呑まれ、存在を消してゆく。
「むぅ、これじゃあまだまだ及第点にも程遠いかな……ワイヤーが駄目でこのほっそいピアノ線でも駄目かー……『あの人』は一体どんな道具を使っていたんだろう。でも、半分までは入るんだよね──あ! もしかして首の骨か! 骨って硬いもんね、薄い所とかあるのかも!」
どれどれと言いながら薄くなった男の髪と首根っこを鷲掴むと、勢い良く分断した。
ごきっ ぶちぶち ぐちぃ
ねっとりとした液体が勢いを増しながら体外へ放出される。肉の繊維が細くなりながら糸を引き、薄くなってはブチブチと切れた。
私はサバイバルナイフを逆手に持つと、男のうなじに刃を突き立てた。
「さすが新品。良く切れる」ぶつぶつ言いながら白い頚椎を力任せに抜き出すと、観察するようにじっくりと眺めた。
「この、間のとこかな……うわっ、なんかぷるぷるしたのが出てきた! やっぱそうか! ここの間のとこ狙って切っんだ。やっぱプロは違うわー」
手袋は粘性のある液体を啜り、更にドス黒く変色していた。
「んー……どうしよ。まだ大丈夫そうだし、いろんな関節使って練習してみようかな。……いや、でも引き際かも。雨も止んできたし」
私は地べたに転がっている道具をリュックサックに押し込むと、「バイバイ」と言いいながら肉塊に向かって手を振った。
着ていた黄色いレインコートは真っ赤に染まっていた。
【第一回 美学講座 閉校】
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