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Episode 4
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そこには加山海奈と記してあった。
「なに今更照れてるんですか? 私が下で呼んでいる時は博信さんも下で呼んでくださいよ」
ずいっと顔を寄せてくる加山海奈に、博信はどきどきと心臓の鼓動が煩いくらいに鳴っていた。
ふわりとシャンプーの匂いが鼻に香り、博信は耳の先まで顔を赤らめていた。
「み、みな? さん?」
「…………」
「…………」
(やばいな。これは、あれだ。恐らく間違えたやつだ。ほら、この顔。明らかに不審がっているではないか。……というかこの女は何でこんなに馴れ馴れしいんだ! 駄目だ。いろいろと限界だ)
無音の空間が幾許か時を流れる。
そんな中、先に沈黙を破ったのは海奈であった。
「あの、博信さん」
「はい」
「『みなさん』はやめてとほしいとあれ程言いましたよね? これはイントネーションの問題じゃないんですよ。私もう怒っちゃいましたからね」
(あ、名前を間違った訳じゃなかったのか)
博信がほっと胸を撫で下ろしていると、海奈がついとそっぽを向いた。
「あ、あの……えーっと」
博信があたふたとしていると、海奈は膨れ面のままこちらへ向き直った。
(…………綺麗だ)
「今なんと?」海奈が訊いた。
博信は心中で呟いたつもりが、言葉が口から漏れ出ていたらしい。
「はぁ……まぁいいです。何だか博信さんの心の声が聞けたような気がしますし」
膨れ面の海奈は人差し指を突き立てると続けた。
「でもですよ! 次またあんな呼び方したら許しませんからね! 全くもぅ……以後気を付けるように、全く、もぅ」
「なに今更照れてるんですか? 私が下で呼んでいる時は博信さんも下で呼んでくださいよ」
ずいっと顔を寄せてくる加山海奈に、博信はどきどきと心臓の鼓動が煩いくらいに鳴っていた。
ふわりとシャンプーの匂いが鼻に香り、博信は耳の先まで顔を赤らめていた。
「み、みな? さん?」
「…………」
「…………」
(やばいな。これは、あれだ。恐らく間違えたやつだ。ほら、この顔。明らかに不審がっているではないか。……というかこの女は何でこんなに馴れ馴れしいんだ! 駄目だ。いろいろと限界だ)
無音の空間が幾許か時を流れる。
そんな中、先に沈黙を破ったのは海奈であった。
「あの、博信さん」
「はい」
「『みなさん』はやめてとほしいとあれ程言いましたよね? これはイントネーションの問題じゃないんですよ。私もう怒っちゃいましたからね」
(あ、名前を間違った訳じゃなかったのか)
博信がほっと胸を撫で下ろしていると、海奈がついとそっぽを向いた。
「あ、あの……えーっと」
博信があたふたとしていると、海奈は膨れ面のままこちらへ向き直った。
(…………綺麗だ)
「今なんと?」海奈が訊いた。
博信は心中で呟いたつもりが、言葉が口から漏れ出ていたらしい。
「はぁ……まぁいいです。何だか博信さんの心の声が聞けたような気がしますし」
膨れ面の海奈は人差し指を突き立てると続けた。
「でもですよ! 次またあんな呼び方したら許しませんからね! 全くもぅ……以後気を付けるように、全く、もぅ」
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