世界は平和ですか?Ⅱ

ふえん

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037話 アルシェですか?勇者さま。⑤

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「あ!、、アルシェが…」

それを見たフェンは、とても嬉しそうに優しく微笑む。

なんで?…私?…私を見て…嬉しい…の?

とうの昔に失った…いや、自分から棄てさった筈の感情。

自分で自分が今、どんな顔を、、表情をしているのかすら分からない。

だが、フェンは私の顔を見て、こぼれ落ちそうな笑顔を見せたのだ。

私は今、多分だけど…微笑むなり、笑顔を見せている?…筈だ。

フェンとのやり取りが嬉しくて、、楽しくて、、、

それが、自然と表情に出ているのだろう。

たった…たったそれだけの事で、フェンは、この上なく喜んでくれているのだ。

文字通り、血を流す事でしか存在を認められなかった私なのに…

なぜフェンはそんなに喜んでくれるの?

不思議なのはフェンだけではない。

私も?、、アルシェも自身が不思議でならないのだ。

私を見て喜んでくれているフェンを見て…更にアルシェも嬉しい気持ちになっていた。


誰かの笑顔が見れて嬉しい。


…なんて感情は、アルシェが『いの一番』に棄てた感情なのだから。

私を、、私達を騙す為に人間が使ったのだ。

…笑顔…笑顔…笑顔…それは偽りの仮面だ。

人間の表情で一番信用が置けない、警戒しなければならない表情が笑顔なのだ。

人間は平気で笑顔で騙し、そして本性を現すのだ。


施設でアルシェの血を採取していた人間…

アルシェの身体に傷を刻み付け、アルシェが痛みに声を上げる度に…笑顔になる…笑うのだ。

施設の人間達にとって、アルシェは大事な血の器であり、また玩具でもあったのだ。

今日も人間達は笑う。

アルシェの悲鳴と引き換えに…


…!!…いけない!私…また…思い出して…

見ればフェンまで、アルシェの表情が急に曇ってしまって悲しそうな顔をしている。

あんなにアルシェの表情を見て喜んでくれてたのに…私も嬉しかったのに…

私は今、、、

泣いていた。

施設では『泣く』なんて逆効果だった。

泣いたりしたら、逆に面白がって更にアルシェをいたぶるのだ。

アルシェは泣く事を棄てた。

アルシェは感情も棄てた。

反応を示せば施設の男達を喜ばせるだけなのだから…。

しかし、今、、アルシェは泣いている。

言葉では否定していても、心、、感情は表現してくれと叫び、求めているのだ。

そして理解している。

フェンも言ってくれた。

アルシェ、君の気持ちは?、、と。


私は…私の気持ちは…


今は感情を露にしても誰もアルシェの事を笑ったりしない。傷付けたりしない。

当然、フェンも何もしない、、、あっ!!

我に返ってフェンを見ると、、笑うどころか、アルシェを心配して一緒に泣きそうな顔をしている。


駄目!!!


せっかくの嬉しい気持ちが台無しじゃない!

笑顔を見せたアルシェを見て喜んで微笑んでくれるフェン。

そのフェンを見てアルシェも嬉しかったのに…

私…笑わなきゃ…

だが、自分でもどうすれば良かったのか、、どうすれば笑えるのかが分からない。

笑わなきゃ…

なのに…

笑う事を棄てたあの日から、、月日はアルシェから笑い方すら奪っていたのだ。

笑う…って…どう…?

分からないがアルシェは自分は笑えなくても、フェンに、また微笑んで欲しかった、、笑って欲しかった。

泣きながらもアルシェは、自分で出来うる限りの笑顔を作る。

…ねぇ、フェン…笑って…笑ってよ…


フェンは…見とれた。

泣きながら微笑もうとしているアルシェ…綺麗だった。

ぎこちない笑顔だが、フェンを気遣って微笑む顔に優しさが満ち、涙が耀いていた。

アルシェの笑顔…それは優しさから来る笑顔だった。

フェンは無理に笑顔を見せようとするアルシェが、いたいけで堪らない。

「ごめん。ごめんね、いいんだよ、アルシェ。泣いてもいいんだよ。」

「大丈夫。その間、ずっと傍に居てあげるからね。」

フェンも分かる。

泣いているアルシェがフェンの為に無理をして笑おうとしている事に。

「アルシェ、、好きだよ。、、だから…無理しないで。」

「泣きたい時は泣いていいし、笑いたい時は笑っていいんだよ。」

「どんなアルシェでも、僕は好きだからね。」

なぜか不思議と今度はフェンの言葉が素直に心に入って来る。

今までは、こんな言葉を掛けられたら『嘘よ!』と疑って当然だった。

事実、笑顔と甘い言葉に騙され、私も…同族の皆も酷い目に遇わされて来たのだから。

でも今は…

自分でも信じられないが…言われて…嬉しいのだ。

フェンが私を求めてくれてるのが嬉しいのだ。

そしてアルシェが返す言葉にフェンが一喜一憂してくれるのが嬉しいのだ。

あの施設に居た人間達…気に入らない事が有れば容赦なくアルシェを痛め付ける人間達とは違う。

フェンはアルシェの言葉を、、気持ちを受け入れ、、フェンも自分の気持ちを言葉で返してくれる。

一つ一つ、だ。

アルシェは一つ一つ自分で棄てた物を、確認し、思い出し、取り戻していく。

それにフェンは協力してくれ、見守ってくれる。

…嬉しい…でも、、、

、、酷い。

私が、だ。

何も…ない。

何も無いのだ。

フェンに対して私が出来る事って…?

考えるが、何一つ思い浮かばない。

何も無い私に唯一残された自身の身体でさえ、フェンは手を出してくれない。

身体どころか、奴隷である事さえ否定されて…

ただ、ただ、フェンは言うのだ。…私の事が『好きだ』と。

好きなのはいいのよ!

アルシェは思う。

フェンが他の人間達とは違うんだ!、、って事は、もう解ったから…

私の事を好きだって事も、解ったから…

だから私にも、、アルシェにも…何か、、、

フェンにアルシェがしてあげられる事…

寂しくなる。何も無い自分に…何も出来ない自分に。

こんな私に、何でフェンは優しくしてくれるのだろう?

好きだ…から?

フェンの言葉の通りなら、そうなのだろうけど…

『恋や恋愛に理由なんか無い!』なんて言う人も居るが、、何て曖昧で脆い関係だろうか。

アルシェの事を『好きだ』と言ってくれているフェンも、何も無い私を見て、知って、愛想を尽かすかもしれないではないか…

いや、何も無い相手では、普通、愛想を尽かして当然の筈だ。

アルシェだってそうだ。

相手を思った分、尽くした分、『何か』が欲しいと思うのは当然だと思う。

それは、物でなくてもいい。

尽くした分、相手も自分を思ってくれたなら、それは幸せな事だと思う。

…だけど…

アルシェはフェンが思ってくれているのに、返事の一つも返せないでいる。

こんな私…嫌われて当然だよね…

嫌われる?…フェンに?

人間になんて嫌われても何とも思わない!好かれようとも思わない!

だけど、、フェンに?

、、、嫌われる?

・・・

・・・・嫌っ!!

嫌なのだ。

知らない人間になら嫌われても知った事ではない…返って清々する位だ。

だけど…フェン…に?

恐らくだが、この世界で一人だけの私の味方だろう。

逆に敵なら考えるまでもなく幾らでも居る…例えば、私が友達の仇を討つ為に殺した貴族の家からの追手とか。

そもそも見ず知らずの人間からでも私達一族の持つ毒への恐れから命を狙われる事には事欠かない。

世界の全てから拒絶されているのなら、いっそ死のうか…とも思うが、フェンは私が好きで、大事だと言ってくれた。

…だから私は生きている。

そのフェンに嫌われ、、る?

嫌だ!、、そして怖い。

私が生きる事を唯一認めてくれたフェンに嫌われるなんて…

嫌だ!!

…でも何とかする方法も…ない。

…私がフェンにしてあげられる事なんて…ない。

何で?…何でアルシェには何も無いの?

アルシェは、ポロポロと涙を流す。

先程までの過去の恐怖からの涙ではない。

嫌われたくない!

、、という、感情から来る涙だ。

…と、アルシェは思っているのだが、、、


フェンはそうは思わなかった…悪い方へと考えてしまう。

好きな女の子が目の前で泣き出したのだ。真剣に考える。

アルシェが泣き出す前に有った事…僕が話した事は…

フェンは伝えたのだ、アルシェに。

『どんなアルシェでも僕は好きだよ。』と。

その結果、笑顔だったアルシェが悩み苦しみ、涙を流しているのだ。

もう、、間違いない!

フェンは思う。

アルシェは嫌、、、なのだろう。

自分の持ち主であるフェンからの告白。

好きでもない知らない男から告白されても、嫌なら拒絶すれば良いだけだが、相手は自分の主人なのだ。

持ち物であるアルシェに拒絶する権利など無いだろう。

・・・だから、アルシェは、あんなに悩み苦しんで泣いているの?

ポロポロと涙を流すアルシェをフェンは見ていられない。

「ごめん…アルシェ。もう泣かないで。僕の事が嫌いなら嫌いでもいいんだよ。」

「それがアルシェの気持ちなら、、それでも…いいんだよ。」

えっ!?…何を?…何でそんな話しに…

「そ、そんな事…」

「いいんだよ、アルシェ。ごめんね、、もう好きだなんて言わないから、泣かないでよ、アルシェ。」

「ち、違…」

「アルシェの行きたい所まで一緒に行ってあげるから安心していいよ。」

「アルシェは僕の奴隷じゃないんだから、もう自分の好きに生きて良いんだよ。」

・・・何よ!、、何よ、何よ、何よ!!

自分の好き勝手ばかり言って…私の気持ちなんか、これっぽっちも解ってくれてないじゃない!

何よ!、私に『アルシェの気持ちは?』なんて聞いてたくせに!!

何も、、解ってくれて、、ないじゃ、、ない、、

勝手に自分だけで納得するんじゃないわよ!!

私の、、アルシェの気持ちを勝手に決めつけないでよ!!

フェンの『理不尽さ』に腹が立つ。

それが全てアルシェの事を想っての『理不尽さ』だという事に更に腹が立つ。

何様のつもりよ!!

私の為を想って?

いいや!そういう問題ではない。

勝手に押し付けられた『幸せ』に、どんな価値が在るというのか?

そもそも、また『その幸せの中』にフェンが含まれていないではないか!

何でよ!、何で分かってくれないのよ!、、フェンは…

あんなに私を『好き』と言っておきながら何だと言うのよ!

何で私の気持ちを分かってくれないのよ!!

・・・何で?、、何でよ・・・!!!

あっ!!

唐突にアルシェは気が付いた。

私、、、まだ?

気付いた・・・気が付いてしまった。


言って、、ない?


フェンはあんなに私に『好き』と伝えてくれているのに私は・・・

そう。アルシェは伝えていなかった。

一度としてフェンに対して、アルシェの気持ちを。

それなのにアルシェはフェンが『分かってくれている』つもりになっていたのだ。


いや、でも分かるよね?


・・・なんて言うのもアルシェの勝手な思い込みだ。

言っていない、伝えていない事に対して『何で分からないのよ!』と文句をつけるなんて、なんて理不尽な話だろうか?

結局、私にはフェンの『理不尽さ』を責める権利など無かったのだ。

アルシェの気持ちを知るよしもないフェンは続ける。

「ごめん、アルシェ。嫌だったよね?嫌いな僕から好きだなんて言われたら…」

「もう言わないから安心してよ、アルシェ。」

えっ!?・・・それって・・・

『ゾワリ』とした悪寒がアルシェを襲う。

えっ、えっ、、ちょ、ちょっと・・・どういう・・・

『もう言わない』って?

『好き』ってもう言わないって、、、

私に愛想を尽かしてしまったの?

アルシェの事・・・嫌いになっちゃったの?

私・・・そんな・・・私は・・・

幸せ過ぎてアルシェが信じられなかった幸運が、目の前から消えて無くなろうとしているのだ。

フェンは何度もアルシェに与えてくれたのに・・・

私が手を伸ばさなかったせいで、、受け止めなかったせいで・・・

今、その幸運はアルシェの手のひらから、こぼれ落ちていっているのだ。

ほんの少し踏み出すだけで良かったのに・・・

特に難しい訳でもない。

自分で、ほんの少し手を伸ばしてフェンを抱き締めれば良いだけじゃない!

そして一言、告げれば良いだけよ!


『私も好き』と。


・・・そう。簡単な事だ。

だけど、、その簡単な事さえ出来ずに私は・・・


「泣かないで、アルシェ。もう何もしないから。」

理由は分からないが、フェンはアルシェから嫌われているものと思っているのだ。

何でそうなるのよ!

それに・・・そんなの嫌!

何もしない、、それはアルシェとフェンの断絶を意味する。

今後、『好き』と言ってくれる事もなく、奴隷としての『命令』すら、してくれなくなる、ということ。

唯一、この世界との繋がり、、繋がる理由であるフェンを失う。

それはアルシェの存在する意味を失い、また生きる意味すら無くす事と同じだ。

嫌だ!、駄目!、、このままじゃ私・・・


自分の言葉を聞き、更に悲しみの深くなるアルシェを見てフェンは悩む。

どうして?・・・まだ何か足らないの?・・・どうしたら・・・

今のフェンには言葉を掛けるしか方法が無かった。

フェンはポロポロと涙を流すアルシェを抱き締めてあげたくなるのだが、、

、、嫌われている人間になんか抱き締められたくないよね?

全くの正反対だという事も知らず、勝手にアルシェの気持ちを想いやってしまう。

「ごめん、ごめんね、アルシェ。そんなに僕の事を嫌いだったなんて…」

フェンの言葉がアルシェの心に突き刺さる。

駄目!、、今、、今言わなきゃ!

「違うの!!!」 アルシェは心から叫ぶ。

「えっ??」

何が違うのかがフェンには分からない。

もしかして、、『嫌い』どころか『やっぱり殺したい』とか?

フェンも寂しい気持ちになり悲しくなる。

、、、そんなに嫌われてたなんて、、、

落ち込むフェンにアルシェは言う。


「違う!、、全部違うの!、、私、、アルシェは・・・」



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感想 1

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みんなの感想(1件)

2018.05.05 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

2018.05.10 ふえん

応援ありがとう御座います。
投稿後も気になる部分の添削・修正・加筆などして再投稿を繰り返しています。
当初の予定より、ついつい遅筆気味で、、、
お互い、より良い作品になる様に頑張りましょう。

解除

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