21 / 37
021話 理由ですか?勇者さま。
しおりを挟む「お前はミヤさんに会う資格なんて無い!」
初対面の獣人さんに言い切られた。
そうだ。、、とも思う。
だが、そうじゃない。、、とも思う。
『会う資格』って・・・
フェンはミヤの治療を行ってくれている建物に到着する。
もう治って走り回ってたりして・・・
・・・なんて可能性は低いのは理解している。
なにせ、シズのお友達が皆で一晩中掛かっても終わらない程に酷い怪我で、その治療なのだから。
…でも、、獣人さん専門のお医者さんの治療なら、、もしかして…
淡い期待を持って扉を開く。
静まり返った玄関フロアが出迎える。
やっぱり、、、だよね。
予想してはいたけど、やはりミヤの元気な顔が見れないと、否応なくがっかりしてしまう。
「誰、、ですか?」
丁度、一つの部屋から出て来た獣人さんから声が掛かる。
『ビクリッ』と身体を震わせ、こちらを凝視し警戒している様だ。
見た目からして治療を行ってくれている療法師さんだろうか?
「僕はフェン。今ここで治療を受けているミヤの主人です。」
「主、、人・・・?」
聞いた獣人さんの顔が急に強張る。
…そして、あからさまに嫌悪の、、怒りの表情を浮かべる。
フェンを睨む怒りの表情は今にも襲い掛かってきそうに見えた。
「貴方をミヤさんに会わす訳にはいかない!」
初めて会う獣人さんに、なぜこんなに嫌われているのだろう?
あっ!…フェンは自分の失言に気付く。
人間が『獣人の主人』を名乗る。
その意味は、その獣人が『自分の奴隷だ』と言っている様なものなのだ。
慌ててフェンは否定し、弁解する。
「違います、間違いです! 僕はミヤの夫です!」
「夫・・・?」
「ミヤは妻です、、僕は主人、、夫です。」
「・・・・」
獣人さんの蔑んだ表情は消えない。
夫?、、だからどうした!と言わんばかりの表情だ。
それはフェンへの見方が・・・
『奴隷としてこんな目に遭わせた人間』
から、
『自分の妻も守れずに、こんな目に遭わせた人間』
に変わっただけなのだ。
事実、そうだ。
僕はミヤを守れず『あんな身体にしてしまった人間』なのだ。
『そんな人間が今さら何をしに来た!!』
『しかも夫面?、、どの面を下げて顔を出せるのか!』
獣人さんの目は口に出さずとも、そう告げている。
フェンは批難の視線に耐える。
そう。これは僕の判断、、行動の結果なのだ。
誰のせいでもない。・・・僕のせいなのだ。
ミヤは僕の意見を聞いてくれただけだ。
なのに、どうしてミヤが怪我をし、僕が元気でいるのか?
・・・許せない。
僕が、、僕自身ですら自分を許せないのだ。
自分でも許せないのだから、他の人からは更に許せなく映るだろう。
どんなに蔑んだ目で見られても仕方がないのだ。
フェンは耐える、、耐えられる。
実際には良くなったりはしないかもしれないが、自分が耐えた分だけミヤの身体が良くなってくれる…という気さえするのだ。
「何の言い訳も無いの?、、帰りなさい!お前には、ミヤさんに会う資格は無いわ!」
ただ、ただフェンは耐える。
その時、、「やめるにゃ!」という声がした。
・・・その声に続けて「きゃっ!」という声。
ミヤ!、、ミヤの声だ!・・・聞き間違う訳がない!
「ミヤ!」
何か有ったのか?…フェンは思わず獣人の女性を押し退けて部屋へ踏み込む。
薄暗い部屋の中、ミヤを探す…どこ?ミヤ?
「フェンさま、、」 声がする。
「ミヤ!」
見ればミヤは床に居た。
・・・居た、というより、、落ちたの?
ミヤは治療台の上には居らず、床にうつ伏せの状態で顔だけをフェンに向けているのだ。
「…ミヤ、、」
こんな状況なのに、ミヤを見つけ、顔を見ただけで『ホッ』としてしまう自分が居る。
ミヤもフェンの顔が見れた喜びからか精一杯の笑顔を見せている。
先程、フェンに押し退けられ取り残された格好になった獣人さんが追って来て言い放つ。
「出て行って下さい!!、お前に会う権利など無い!」
権利?・・・権利って何なのだろう?
現に、フェンはミヤに、、ミヤはフェンに会えて嬉しく、喜んでいるのに。
何が悪いと、、権利が無いと言うのか。
ミヤも同じ気持ちだったらしく、、叫ぶ。
「そんな事ない!、、フェンさまに、そんな事を言うのは許さないにゃ!」
ミヤの言葉を聞き、そう思ってくれていた、という事だけでフェンは嬉しかった。
「そんな…なぜそんな目に遭わされてまで、、まだこの人間を『さま』付けで呼ぶの?、、」
「何か弱みでも、、それとも他に理由が有るとでも言うの?」
獣人さんは素直な疑問を口にし、ミヤは素直な気持ちで即答する。
「理由?弱み?、、そんなの無いにゃ、そして要らないにゃ!…私はフェンさまの事が好きにゃ。」
「ただ、それだけにゃ。」
「な…ぜ?」 解らない・・・。
手足の自由を奪われ、ただ横たわるだけの状況なのに…なぜミヤさんは、こんな事が言えるの?
無理矢理言わされているのではない。ミヤさんの表情から分かる。
この男に対するミヤの信頼の眼差し。
ミヤさんは本当に、この人間…フェンと言ったか、の事が好きなのだろう。
「ミヤ。」
フェンはミヤを床から抱上げ、抱き締める。
到着して治療する為に離れてから、まだ1日と経っていないのに、、
少し離れて居ただけなのに、久しぶりな気持ち・・・愛しい気持ちがわき上がる。
「ミヤ。」
「フェンさま。」
ミヤをしっかりと抱き締めるが、ミヤの手足はまだダラリと力無く垂れ下がったままだ。
「ミヤ、治療は順調?何ともない?、大丈夫?、痛くない?」
「大…丈夫です、フェンさま。心配しないでにゃ。」
ミヤは、まるで自分を子供の様に心配してくれるフェンに対して、嬉しさと、むず痒さを感じながら言う。
「うん。ミヤ、頑張ってね。僕も頑張って来るからね。」
「・・・頑張って、、来る?…どこか行くのかにゃ?」
「うん。出掛けるけど、ちゃんと治療して早く良くなるんだよ?」
「どこに行くにゃ?」
「・・・王都へ。」
「・・・!!」
王都へと聞き、ミヤは青ざめる。
「・・・まさか・・・嘘ですよね?・・・フェンさま?」
「ううん。本当だよ。王都へ行って来る。」
「駄目!!」 ミヤは驚きを隠せず、叫ぶ。
フェンさまは何を言っているの?
私を、、ミヤをこんな身体にしたのは王国の兵士ではないか。
それを、なぜ?・・・って、、まさか!!
理由、、ミヤは一番有り得ない事だが頭に浮かぶ。
嫌な予感に身体が自然とガタガタと震え、止まらない。
「フェンさま・・・まさか、、そんな、、私の復讐、、なの!?」
「駄目、、絶対に駄目です!、、フェンさまはそんな事…」
「待って!違うよ、ミヤ。誓って僕は復讐に行くんじゃないよ。」
「王都へは、交渉に行くんだよ。ガルンさんの代理と言うか、ファリス教団の代理と言うか…」
「ミヤと僕、、それに皆の居場所を取り戻す為に行くんだよ。」
「だから、、ね、ミヤ。ミヤも早く身体を治して・・・一緒に帰ろ?」
「僕達の家に・・・。」
ミヤも思う。・・・帰りたい、私達の家に。
イーストノエルのあの家に。
「はい。帰りたいにゃ、お家に。」
「その為に僕も頑張って来るからね。ミヤも早く良くなって。いいね?」
『はい。』と素直に認めたいがミヤは嫌な予感が拭えない。
自分をこんな目にあわせた王国を信用出来ないのも無理はない。
その王国にフェンさまが行く・・・心配なのだ。
「フェンさま、、」
フェンの胸に抱かれながらミヤは呟く。
私の為に、、実際には私だけではなく皆の為に、だろうけど『居場所』を取り戻す為に王国へ行くというのだ。
全力で応援して当たり前だと思う。
だが、今は…フェンが会いに来てくれて、顔を見て、抱き締められて、、
「私の、ミヤの、、」続く言葉は声にはならない。
言ってはいけない・・・
『傍に居て欲しいにゃ・・・』
なんて、、、
そう思うのだ。単純に、、純粋に、ただ、それだけが今のミヤの願いだった。
ずっと暮らした家に帰りたいという気持ちは有るが、無理に…絶対に、という事ではない。
フェンが、、フェンさまが一緒に居てくれるのなら、素直な所、『どこだっていい』のだ。
そこが、それがミヤの居場所になるのだから。
家はあくまで場所でしかなく、フェンが危険を冒してまで取り戻す事も無い。
・・・と、ミヤは思っている。
・・・ミヤは、なのだ。
フェンさまが、また別の考えや思いが有って『居場所を取り戻す』と言っているのも理解している。
ミヤじゃ・・・ミヤだけじゃ駄目、ですか?
絶対にフェンさまに聞いてはいけない質問だ。
こんな理不尽な質問でも、フェンさまは真剣に考えてくれるだろう。
そして、思い悩み、苦しむ事だろう。
そして、苦しんだ挙げ句、、答えは出ない、、出せないだろう。
素直にフェンさまの言う通り治療に専念して、フェンの帰るのを待つ。
・・・それが私に出来る唯一の事なのだろう。
それに、フェンが王都へ行くのは『ミヤからのお願い』を叶える為でもあるのだから。
ミヤの為にしようとしてくれている事なのに、当人が邪魔をしてどうすると言うのか?
「一緒に、、(居て欲しいのにゃ!)」 ミヤは言葉を飲み込む。
「一緒に?」
「一緒に、、、居れないのは寂しいのにゃ。早く帰って来て欲しいにゃ!」
一緒に『居て』や『連れて行って』と言われず少しホッとした表情のフェン。
「うん。ミヤ。なるべく早く帰って来るからね。」
「ミヤは、ちゃんと治療を受けて、元気になって待っててね。」
「はいにゃ!フェンさま。」
もう少し頭を撫でてあげたい気持ちを抑えて治療台にミヤを寝かせる。
寝かせる瞬間、顔が近付きミヤがおねだりしているのに気付くが、、
でも、流石に他の獣人さんが見ている前では恥ずかしいので気付かない振りをして離れる。
他の獣人さんから見たら、『動けない同胞に何をしている!』と、また要らない不信感を買うかもだよね・・・っ!!
、、が、途端にミヤが残念そうな、凄く悲しそうな顔をしたのだ。
こんな顔をされたら、誰が見てるからと『恥ずかしい』なんて言っていられない。
「じゃあね、ミヤ。行って来るよ!」
言って、、そっと顔を寄せ、、唇を合わせる。
「にゃ!?、、う、ん。」
諦めていた希望が叶って驚きと同時に嬉しそうな顔をするミヤ。
唇を離しミヤの顔を見て確信する。・・・うん、もう大丈夫だね。良かった♪
・・・後はミヤのもう1つの希望を叶えてあげるだけだ。
フェンは考える。
ミヤの希望・・・仲間達、、獣人達を助ける…王都へ行って、どう交渉するか、を。
フェンは気付かない。
今、この瞬間のミヤの気持ちは『無事に早く帰って来て』だけだった事を。
ミヤも気付かない。
フェンが、以前ミヤが願った望みを実現させる為の行動を起こそうとしている事に。
単に『早く帰って来て』という望みをフェンさまは叶えようとしてくれているのだと思っていた。
「じゃあね、ミヤ。今日は泊まって明日、王都へ向かう予定だからね。」
「はい、フェンさま。ミヤも頑張ります。」
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
女神様のたまご
無名小女
ファンタジー
「ねえ、あんた、名前なんていうの?」
「安藤…翼…」
これは天使との出逢いからはじまった。
家でも学校でもいじめられ、不遇な扱いをうけ、自殺をしようとした主人公、翼の前に天使のリリーが現れた。
リリーは言う。
「翼に女神様の候補になって欲しいんだ!願いをひとつ叶えるかわりにね?」
女神様になると願いをひとつ叶えることが出来る。
願った願いを本物にするために翼は女神様になることを決意する。
これは運命の出逢いが生んだ物語…
※ついに完結しました!
新しい話、青桜と双子の秘密もよろしくお願いします(*_ _)
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで
みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める
婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様
私を愛してくれる人の為にももう自由になります
【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」
そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。
彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・
産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。
----
初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。
終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。
お読みいただきありがとうございます。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる