世界は平和ですか?Ⅱ

ふえん

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021話 理由ですか?勇者さま。

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「お前はミヤさんに会う資格なんて無い!」

初対面の獣人さんに言い切られた。

そうだ。、、とも思う。

だが、そうじゃない。、、とも思う。

『会う資格』って・・・






フェンはミヤの治療を行ってくれている建物に到着する。

もう治って走り回ってたりして・・・

・・・なんて可能性は低いのは理解している。

なにせ、シズのお友達が皆で一晩中掛かっても終わらない程に酷い怪我で、その治療なのだから。

…でも、、獣人さん専門のお医者さんの治療なら、、もしかして…

淡い期待を持って扉を開く。

静まり返った玄関フロアが出迎える。

やっぱり、、、だよね。

予想してはいたけど、やはりミヤの元気な顔が見れないと、否応なくがっかりしてしまう。


「誰、、ですか?」

丁度、一つの部屋から出て来た獣人さんから声が掛かる。

『ビクリッ』と身体を震わせ、こちらを凝視し警戒している様だ。

見た目からして治療を行ってくれている療法師さんだろうか?

「僕はフェン。今ここで治療を受けているミヤの主人です。」

「主、、人・・・?」

聞いた獣人さんの顔が急に強張る。

…そして、あからさまに嫌悪の、、怒りの表情を浮かべる。

フェンを睨む怒りの表情は今にも襲い掛かってきそうに見えた。

「貴方をミヤさんに会わす訳にはいかない!」

初めて会う獣人さんに、なぜこんなに嫌われているのだろう?

あっ!…フェンは自分の失言に気付く。

人間が『獣人の主人』を名乗る。

その意味は、その獣人が『自分の奴隷だ』と言っている様なものなのだ。

慌ててフェンは否定し、弁解する。

「違います、間違いです! 僕はミヤの夫です!」

「夫・・・?」

「ミヤは妻です、、僕は主人、、夫です。」

「・・・・」

獣人さんの蔑んだ表情は消えない。

夫?、、だからどうした!と言わんばかりの表情だ。


それはフェンへの見方が・・・

『奴隷としてこんな目に遭わせた人間』

から、

『自分の妻も守れずに、こんな目に遭わせた人間』

に変わっただけなのだ。


事実、そうだ。

僕はミヤを守れず『あんな身体にしてしまった人間』なのだ。

『そんな人間が今さら何をしに来た!!』

『しかも夫面?、、どの面を下げて顔を出せるのか!』

獣人さんの目は口に出さずとも、そう告げている。

フェンは批難の視線に耐える。

そう。これは僕の判断、、行動の結果なのだ。

誰のせいでもない。・・・僕のせいなのだ。

ミヤは僕の意見を聞いてくれただけだ。

なのに、どうしてミヤが怪我をし、僕が元気でいるのか?


・・・許せない。


僕が、、僕自身ですら自分を許せないのだ。

自分でも許せないのだから、他の人からは更に許せなく映るだろう。

どんなにさげすんだ目で見られても仕方がないのだ。

フェンは耐える、、耐えられる。

実際には良くなったりはしないかもしれないが、自分が耐えた分だけミヤの身体が良くなってくれる…という気さえするのだ。

「何の言い訳も無いの?、、帰りなさい!お前には、ミヤさんに会う資格は無いわ!」

ただ、ただフェンは耐える。


その時、、「やめるにゃ!」という声がした。

・・・その声に続けて「きゃっ!」という声。


ミヤ!、、ミヤの声だ!・・・聞き間違う訳がない!

「ミヤ!」

何か有ったのか?…フェンは思わず獣人の女性を押し退けて部屋へ踏み込む。

薄暗い部屋の中、ミヤを探す…どこ?ミヤ?

「フェンさま、、」 声がする。

「ミヤ!」

見ればミヤは床に居た。

・・・居た、というより、、落ちたの?

ミヤは治療台の上には居らず、床にうつ伏せの状態で顔だけをフェンに向けているのだ。

「…ミヤ、、」

こんな状況なのに、ミヤを見つけ、顔を見ただけで『ホッ』としてしまう自分が居る。

ミヤもフェンの顔が見れた喜びからか精一杯の笑顔を見せている。

先程、フェンに押し退けられ取り残された格好になった獣人さんが追って来て言い放つ。

「出て行って下さい!!、お前に会う権利など無い!」

権利?・・・権利って何なのだろう?

現に、フェンはミヤに、、ミヤはフェンに会えて嬉しく、喜んでいるのに。

何が悪いと、、権利が無いと言うのか。

ミヤも同じ気持ちだったらしく、、叫ぶ。

「そんな事ない!、、フェンさまに、そんな事を言うのは許さないにゃ!」

ミヤの言葉を聞き、そう思ってくれていた、という事だけでフェンは嬉しかった。

「そんな…なぜそんな目に遭わされてまで、、まだこの人間を『さま』付けで呼ぶの?、、」

「何か弱みでも、、それとも他に理由が有るとでも言うの?」

獣人さんは素直な疑問を口にし、ミヤは素直な気持ちで即答する。

「理由?弱み?、、そんなの無いにゃ、そして要らないにゃ!…私はフェンさまの事が好きにゃ。」

「ただ、それだけにゃ。」

「な…ぜ?」 解らない・・・。

手足の自由を奪われ、ただ横たわるだけの状況なのに…なぜミヤさんは、こんな事が言えるの?

無理矢理言わされているのではない。ミヤさんの表情から分かる。

この男に対するミヤの信頼の眼差し。

ミヤさんは本当に、この人間…フェンと言ったか、の事が好きなのだろう。


「ミヤ。」

フェンはミヤを床から抱上げ、抱き締める。

到着して治療する為に離れてから、まだ1日と経っていないのに、、

少し離れて居ただけなのに、久しぶりな気持ち・・・いとしい気持ちがわき上がる。

「ミヤ。」

「フェンさま。」

ミヤをしっかりと抱き締めるが、ミヤの手足はまだダラリと力無く垂れ下がったままだ。

「ミヤ、治療は順調?何ともない?、大丈夫?、痛くない?」

「大…丈夫です、フェンさま。心配しないでにゃ。」

ミヤは、まるで自分を子供の様に心配してくれるフェンに対して、嬉しさと、むず痒さを感じながら言う。

「うん。ミヤ、頑張ってね。僕も頑張って来るからね。」

「・・・頑張って、、来る?…どこか行くのかにゃ?」

「うん。出掛けるけど、ちゃんと治療して早く良くなるんだよ?」

「どこに行くにゃ?」

「・・・王都へ。」

「・・・!!」

と聞き、ミヤは青ざめる。

「・・・まさか・・・嘘ですよね?・・・フェンさま?」

「ううん。本当だよ。王都へ行って来る。」

「駄目!!」 ミヤは驚きを隠せず、叫ぶ。

フェンさまは何を言っているの?

私を、、ミヤをこんな身体にしたのは王国の兵士ではないか。

それを、なぜ?・・・って、、まさか!!

理由、、ミヤは一番有り得ない事だが頭に浮かぶ。

嫌な予感に身体が自然とガタガタと震え、止まらない。

「フェンさま・・・まさか、、そんな、、私の復讐、、なの!?」

「駄目、、絶対に駄目です!、、フェンさまはそんな事…」

「待って!違うよ、ミヤ。誓って僕は復讐に行くんじゃないよ。」

「王都へは、交渉に行くんだよ。ガルンさんの代理と言うか、ファリス教団の代理と言うか…」

「ミヤと僕、、それに皆の居場所を取り戻す為に行くんだよ。」

「だから、、ね、ミヤ。ミヤも早く身体を治して・・・一緒に帰ろ?」

「僕達の家に・・・。」

ミヤも思う。・・・帰りたい、私達の家に。

イーストノエルのあの家に。

「はい。帰りたいにゃ、おうちに。」

「その為に僕も頑張って来るからね。ミヤも早く良くなって。いいね?」

『はい。』と素直に認めたいがミヤは嫌な予感がぬぐえない。

自分をこんな目にあわせた王国を信用出来ないのも無理はない。

その王国にフェンさまが行く・・・心配なのだ。

「フェンさま、、」

フェンの胸に抱かれながらミヤは呟く。

私の為に、、実際には私だけではなく皆の為に、だろうけど『居場所』を取り戻す為に王国へ行くというのだ。

全力で応援して当たり前だと思う。

だが、今は…フェンが会いに来てくれて、顔を見て、抱き締められて、、

「私の、ミヤの、、」続く言葉は声にはならない。

言ってはいけない・・・


『傍に居て欲しいにゃ・・・』


なんて、、、

そう思うのだ。単純に、、純粋に、ただ、それだけが今のミヤの願いだった。

ずっと暮らした家に帰りたいという気持ちは有るが、無理に…絶対に、という事ではない。

フェンが、、フェンさまが一緒に居てくれるのなら、素直な所、『どこだっていい』のだ。

そこが、それがミヤの居場所になるのだから。

家はあくまで場所でしかなく、フェンが危険を冒してまで取り戻す事も無い。

・・・と、ミヤは思っている。

・・・ミヤは、なのだ。

フェンさまが、また別の考えや思いが有って『居場所を取り戻す』と言っているのも理解している。

ミヤじゃ・・・ミヤだけじゃ駄目、ですか?

絶対にフェンさまに聞いてはいけない質問だ。

こんな理不尽な質問でも、フェンさまは真剣に考えてくれるだろう。

そして、思い悩み、苦しむ事だろう。

そして、苦しんだ挙げ句、、答えは出ない、、出せないだろう。

素直にフェンさまの言う通り治療に専念して、フェンの帰るのを待つ。

・・・それが私に出来る唯一の事なのだろう。

それに、フェンが王都へ行くのは『ミヤからのお願い』を叶える為でもあるのだから。

ミヤの為にしようとしてくれている事なのに、当人が邪魔をしてどうすると言うのか?

「一緒に、、(居て欲しいのにゃ!)」 ミヤは言葉を飲み込む。

「一緒に?」

「一緒に、、、居れないのは寂しいのにゃ。早く帰って来て欲しいにゃ!」

一緒に『居て』や『連れて行って』と言われず少しホッとした表情のフェン。

「うん。ミヤ。なるべく早く帰って来るからね。」

「ミヤは、ちゃんと治療を受けて、元気になって待っててね。」

「はいにゃ!フェンさま。」

もう少し頭を撫でてあげたい気持ちを抑えて治療台にミヤを寝かせる。

寝かせる瞬間、顔が近付きミヤがおねだりしているのに気付くが、、

でも、流石に他の獣人さんが見ている前では恥ずかしいので気付かない振りをして離れる。

他の獣人さんから見たら、『動けない同胞に何をしている!』と、また要らない不信感を買うかもだよね・・・っ!!

、、が、途端にミヤが残念そうな、凄く悲しそうな顔をしたのだ。

こんな顔をされたら、誰が見てるからと『恥ずかしい』なんて言っていられない。

「じゃあね、ミヤ。行って来るよ!」

言って、、そっと顔を寄せ、、唇を合わせる。

「にゃ!?、、う、ん。」

諦めていた希望が叶って驚きと同時に嬉しそうな顔をするミヤ。

唇を離しミヤの顔を見て確信する。・・・うん、もう大丈夫だね。良かった♪


・・・後はミヤのもう1つの希望を叶えてあげるだけだ。

フェンは考える。

ミヤの希望・・・仲間達、、獣人達を助ける…王都へ行って、どう交渉するか、を。

フェンは気付かない。

今、この瞬間のミヤの気持ちは『無事に早く帰って来て』だけだった事を。


ミヤも気付かない。

フェンが、以前ミヤが願った望みを実現させる為の行動を起こそうとしている事に。

単に『早く帰って来て』という望みをフェンさまは叶えようとしてくれているのだと思っていた。


「じゃあね、ミヤ。今日は泊まって明日、王都へ向かう予定だからね。」


「はい、フェンさま。ミヤも頑張ります。」













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