世界は平和ですか?Ⅱ

ふえん

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018話 遺伝ですか?勇者さま。

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「もうっ!!」

「えっ?、、何で?、何でルチアちゃん・・・」

もっと良い所だけ受け継げば良いのに、、

ルチアは思う・・・『この親子は、、、もう!』






フェンも自分の考えが矛盾しているのは解る。

自分で他人の為に犠牲になるのは良しとするのに、他人が自分の為に犠牲になるのは嫌だと言うのだから。

フェンが聞く側の立場でこれを聞いたなら、何を身勝手な!と思うだろう。

だがこれはフェンだからこそ…力を持つ者、、勇者だから言える事なのかもしれない。

普通の人に『犠牲になる覚悟で知らない他人を助けろ』というのも酷な話しなのだ。

当然、その『知らない他人』よりも『大切な人』が他に居て、死ぬ訳にはいかないかもしれないのだから。

その大切な人が居なかったとしても、『自分が大事』、、『自分の命が一番大事だ』と思っている人も居るのも仕方がない…極、当たり前な考え方だとも言える。

誰もが『死にたくない』と思うのは生物なら本能的に当たり前なのだから。

フェンの様に鍛練を重ね、危険に直面しても生き残れる可能性が高いからこそ『助けよう』という行動は現実的なのだ。

助けようと割って入ったのに、敗北した挙げ句、対象者を逃がす時間すら稼げなかったのでは、ただの無駄死にだ。

勝利するか、最低でも対象を逃がす時間を稼げるからこそ、助けに入る意味が有る。

当然、自分自身も無事に切り抜けられれば一番良いのは言うまでもないのだが。

思考が複雑化した人間の中には、そんな場面に出会さなくても、『死にたい』という者も出て来るが、そういう者がそんな場面に都合良く出会す事など皆無だ。

その点、キッドとキャスティ父娘の行動は理解出来る。

・・・親が子を、子が親を・・・

フェンは当然な感情、、普通な親子に在る筈の愛情だと思うし、羨ましかった。

だが、その親子の愛情が深ければ深い程、それを壊した時、壊した相手は、、深く怨まれるのだ。

またキッドさんが首を掻き切ったりした日には、キャスティからフェンは…

キッドさんが勝手に、、、という理屈は通らない。

フェンは正直、王都へ行かせたくない・・・来て欲しくないのだ。

「キャスティさんが行くのは大変危険です。それを承知で行くと言うのですか?」

「勿論!あなたも危険なのは同じですよね?なら私が行かない理由にはなりません!」

キャスティの瞳には迷いは微塵も無い。

フェンはキッドを見る。

『キャスティさんが行くのは大変危険なんですよ?』

無言で、親子の情に訴える・・・心配、、ですよね?

だが、キッドには通じなかった。

「娘を宜しくお願いします!」

、、いえ、、『宜しく出来そうにない』、危険だから引き留めて欲しいのですが?

キャスティには『勇者パーティ』に入って欲しいのですよね?

なぜ薦めるの??、、これは正反対な行動ですよね?

フェンは一人、、、パーティーなど組んでおらず、ソロなのだ。

しかも、国から追われる身なのだ。

勇者パーティに、と、言うなら・・・

例えば、自分でパーティを組んで人助けを続けた方が余程、世の為、人の為になるだろう。

それを進んで国から追われる身であるフェンと同行して…自らも追われる身になりたいとでも?

いっそ、このまま大司教とルチアと一緒にキャスティとキッドさんも獣王に捕まって人質になった事にした方が余程マシだと思う。


うーん、どうすれば・・・。

あっ!、、そうだ!

「分かりました。今日からキャスティさんは僕のパーティの一員です。」

「いいの?…勇者…パーティ…仲間?」

「はい。宜しくお願いします、キャスティさん。」

嬉しい、、けど、、、??

流石のキャスティーも、急にメンバーに加えると言い出せば疑問に思う。

「はい、此方こそ!・・・でも、、なぜ急に?」

答える代わりにフェンは言う。

「では、パーティメンバーのキャスティさんに、早速、初の仕事です。」

「何をすれば?」

「キャスティさんは僕の妹と大司教さんを護って下さい。」

「その御二人を・・・誰から守れば良いのですか?」

「誰から、というのは有りません。・・・襲って来る者達、全てから、です。」

フェンはえて言わない。

襲って来るとしたら、国・・・国軍である、とは。

因みにキャスティに頼むまでもなく、ここは安全なのだ。

それも、この国の中で一番と言える程に。

ルチア達は『人質』とは言っても形だけなのだ。ここには獣王、、ガルンさんが居る。

下手な城に立て籠るよりも安全なのは確実だ。

だが、フェンは敢えて言う。

「これは危険な仕事です。頼めますか?」

「勿論! この命に代えても!」

キャスティは躊躇無ためらいなく答える。


騎士であったなら、騎士の鑑と言われ、尊敬されるのだろうけども・・・

フェンには、、勇者パーティには『命に代えて』とかは要らない。

騎士団じゃないんだから・・・

試しに言ってみる。

「出来ますか?…場合によってはルチアを獣王から護って貰うんですよ?」

漸く気付いたのかキャスティはみるみる青ざめる。

「も、もひ、勿論、、です!」

あ、んだ、、、うん。絶対無理そうだよね。

気持ちは解るよ・・・だって僕でも無理だろうし・・・。

フェンはルチアを見つめ、ルチアが気付いたのを確認し、頷くと言う。

「ルチア、えーっと、僕が帰って来るまではキャスティさんが守ってくれるからね。」

「ちょ、ちょっと待って、、」

・・・と、キャスティが言い切る前にルチアが駆け寄り、そして告げる。

「あ、、あの、、宜しくお願い、します…お姉ちゃん。」

ルチアは恥ずかしそうに上目遣いでお願いする。

「あ、ああ、ああ、、勿論よ! 安心していいのよ。」

ルチアのお願いは必殺技と言える威力が有る、、と思う。

ルチアは『クルッ』と振り向くとフェンの方を向いて、瞳で聞いてくる。

『これでいいの?お兄ちゃん』、、と。

フェンも微笑みながら頷く。

・・・さすがルチアだね♪ ちゃんと僕の考えを理解して実行してくれたのだ。

ニコニコと嬉しそうにルチアも笑う。


何か解せない・・・キャスティは思う。

フェンに上手く嵌められた様な気がしてならない。

折角、勇者パーティに入れたと思ったら最初から別行動だなんて、、、

しかも、殊更、『ここは危険だ!』と言うが、どう見ても獣王とフェンは敵同士ではない。

その獣王がフェンの妹だというルチアを襲うとは到底思えない。

これって体よく同行を断られただけなんじゃ・・・


「勇者フェン、やはり私も同行を…」

「僕の妹を護るのが嫌だとでも?」

急にフェンが不機嫌そうに言う。

明らかに普段とは違う、ルチアも聞いた事の無い苛立った声を上げる。

あれっ?…お兄様…いつになく辛辣です、、、というか、、わざとなの?

ルチアもフェンがキャスティを王都へ行かせたくないのだと薄々気付いてくる。

ここはあたしの出番だね♪

「お姉さん・・・ルチアの事、まもるのがいや・・・なんですか?」

ルチアは少しがっかりした様な、、悲しい感じで呟く。

「いや、そんな事ないよ!ちゃんと守ってあげるよ。」

と、キャスティは否定するが、ルチアは畳み掛ける。

「嘘っ!・・・私を護るのなんか・・・嫌・・・なんですよね?」

「私と一緒に居たくないから、、だから王都に行きたいなんて言うんだ…。」

「私の事・・・きらいならきらいだと言って下さい!」

「そんな!…きらいなんて…きらいな訳ないじゃない!」

キャスティは即答する。

うん、ルチア・・・ちょっと芝居くさい気もするけど、流石だね♪

キャスティさんも、ルチアとは初めて会ったばかりで好きとか嫌いとか、、

・・・普通に判らなくて当然な話しなのに、すっかりルチアのペースにまっている様だ。

まあ、小さなルチアに頼られて甘えられたら、大概の人は嬉しく、お願いを聞いてあげたくなるだろう。

「・・・本当?」

「ああ、本当に本当よ。」

「・・・嬉しい♪」

ルチアはキャスティに抱き付く。

「大丈夫。私が残ってちゃんとルチアちゃんの事を護ってあげるからね。」

キャスティもルチアを受け止めながら言う。

キャスティの肩越しにルチアと目が合う。

『どう?お兄ちゃん、褒めて、褒めて!』

言葉には出さないが、ったりと顔に書いてあるのが見える様な表情だ。

『うん。ルチア、偉いね。』

フェンも口には出さずに微笑みながら大きく頷くとルチアも更にニコニコと微笑む。

それを見てキャスティは思う。

、、そんなに私と居れるのが嬉しいの?、、ルチアちゃんって可愛いなーっ。

ルチアがニコニコと笑ってくれるのが無性に嬉しいのだ。

もし・・・姉妹、、妹が居たら、こんな感じなのかな?

ルチアの笑顔を見てから、勇者としてではなく、単純に守りたいと思えるのだ。

モヤモヤと心の中に生まれる『もっとルチアの笑顔が見たい』という気持ち。

それは、母性本能や母性愛…キャスティには子供は居ないので、保護欲だろうか?

今、ルチアにお願いされたら何でも出来る気がする…。

キャスティがルチアに夢中になっているのを見てフェンも一安心する。


これで、王都へ・・・と。

と、思っていたのだが、、、

「では!、娘に代わって自分がフェン殿のお供を!」

キッドさんが言い出した。

勘弁して下さい・・・やっとキャスティさんが諦めたと思ったのに、、

「こら!キッド!、空気を読めって散々この私が言ってるのに!」

お婆ちゃんからツッコミが入る。

「えっ?ファリス様、なぜ?、、フェン様…お孫様を護衛するのですよ、、」

「、、それが、なぜ『空気が読めない』などと…」

「それが『読めてない』って言ってるのよ!」

・・・そこはルチアもファリスの意見に賛成だ。

お兄ちゃんから『人質役』さえ頼まれていなければ、ルチア自身が付いて行きたい位なのに…


『私だって我慢してるのに!』


急に不満顔になったルチアにキャスティは戸惑う。

えっ?・・・ルチアちゃん、どうしちゃったの?

機嫌の良かったルチアの顔が少しむくれ顔になる。

・・・あー、、でも、ルチアちゃんは『ふくれっ面』も可愛いなー。

字で書いた様子を体現した様な…正に『ぷぅー』とふくれた『ほっぺ』だった。

だが、幾ら可愛くても、やっぱり機嫌良く笑ってくれていた方がいい。

「ルチアちゃん、一体どうしたの?」


『貴女達、親子のせいじゃない!』、、、とは口には出せないけど。


『貴女達がお兄ちゃんを困らせてるのよ!』


全くなのだ。

本人達は『良かれ』と思ってやっている所が始末に終えない。

ファリスお婆様の口振りから見て、昔からキッドさんは場の空気が読めなかったのだろう。

そしてご多分に漏れず、キャスティも『その遺伝子』を引き継いでいるのだろう。

もぅ!・・・ルチアはもっと『プンプン』し始める。

ル、ルチアちゃん、、どうしたら、、、?

キャスティは自分達が原因なのだとは知らずに首をひねる。

、、、どうして??


『もう!、、この親子は!!!』、、ルチアは思う。、、のだが、、


ルチアの事を考えながらルチアの気持ちに全然気付かない二人だった。





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