上 下
19 / 45

018話 知識ですか?勇者さま。

しおりを挟む



「どうにゃ?、、、ちゃんとついて来てるかにゃ?」

「う、、うーーーん、、」

ミヤが都市での常識的な事柄を説明してくれているのだが、、、

、、、正直、フェンには難しかった。

目の前で『困っている人』が居れば助けるのが普通だとフェンは思う。

手を差し伸べ、助ける、、、今までもそうして来たし、これからも。




街中に戻って来たフェン達は宿を探す。

「あの子の事も有るし、今日は一泊するにゃ。」

フェンも同意する。

ミヤの話しは納得出来る話しだし、教団に預けたのだから心配ないだろう。

・・・とは思うのだが、、、。

フェンの中の性善説、、フェンが今日まで暮らして来た中で作り上げて来た、人間への性善説の基準が揺らいでいるのだ。

、、、実はフェン個人の、ただの思い込みではないか?との思いが拭えない。

いくら神官様が引き受けたとは言っても、心の中の不安が消えないのだ。


フェンの気持ちを察したのかミヤが言う。

「その不安は実際に自分の目で見て確かめなきゃ解決しないにゃ。」

「明日、朝一で教団へ行き、自分の目で見て確かめるにゃ。」

「うん、そうだね、、、」


宿屋が見つかり部屋を取る。

クロスシティーは物流の拠点だけあって、それに伴う人の流れも多い。

その為、宿屋の業界も発展している。

競争原理が働いてどの宿屋も他の都市や町に比べて豪華なのに割安だ。

冒険者が使う一番安い二人部屋でも不必要な程に広い造りになっており、

素泊まりで二人で40ジルド。一番高い二人部屋でも120ジルドほどだ。

まあ、冒険者は安い部屋に泊まるが、宿屋の酒場で『それ以上の散財』をしてくれるのを見越しての価格設定でもあるのだろう。

今までなら割安感が有って素直に『お得』だと喜んだと思う。

だが、今のフェンは素直に思う事が出来なかった。

お金を払う時に、どうしてものだ。

ここの一番高い二人部屋に一泊する事も出来ない値段だなんて、、、、


・・・『』である。


あの子は生きている。感情も有れば、痛みだって感じる。

その子が、店に並べられ『物』の様に売られていたのだ。

あまつさえ、商品価値が無くなったと、処分される寸前だった。

店の男達にとっては『あの子』は人ではないのだ、、ただの『品物』なのだ。

そして男達は言った、、『廃棄する』と。


そして理由はどうあれ、フェンも『獣人を売買する忌むべき人間』になったのだ。

自己に対する嫌悪も有るが、こうも思う。

もし、それで救う事が出来るのならフェンは『何泊でも野宿してもいい』と思う。

馬鹿げた考えなのは解かっている。

王国だけで、いや、この都市だけで一体どれ程の獣人達が居ると思っているのか?

宿代を節約して獣人全員を買い取り自由に、、、出来る訳が無いのだ。

、、、そんな事は不可能な妄想でしかないのは理解しているのに。

だが、そんな考えが頭から離れないのだ、、、


支払いを済ませ、部屋へ入る。

疲れた、、本当に。 頭も回らず考えも整理出来ない。

考え込むフェンを見かねたミヤが言う。

「フェンさま。食事に行くにゃ、何か食べるにゃ。」

ミヤに言われて、食事をしていない事を思い出す。

「そうだね。ごめんね、ミヤ。お腹空いたよね?」

考え込むあまりに一番近くにいるミヤの事さえ考えられなかった。

『これじゃ、駄目だ!』 心の中の自分に言う。

「行こう、ミヤ」

「はい。フェンさま」

疲れを取る為のスタミナセットをミヤに却下されたのが不思議だが、無事に食事を済ませた。



部屋に戻るとミヤが提案する。

「フェンさまは素直過ぎなのにゃ。行動も率直過ぎなのにゃ」

「戦う技術は有っても、駆け引きが出来ないにゃ。」

「特に対人の『交渉事』は壊滅的にゃ、、」


結論的にこうなった、、、『勉強しよう』と。

「机上の知識はあくまで想像にゃ。実際に経験しなきゃだにゃ」

「、、、でも知識としての引出しは多く有った方が良いにゃ」

「少しづつでも勉強するにゃ。まずは対人的な事からにゃ、、」

「ジン様も最初はそうだったとクロネも言ってたにゃ」

、、、爺ちゃんも?、、フェンはピンと来ない。

フェンが物心ついた頃には『爺ちゃん』は『爺ちゃん』だったのだから。

だが、爺ちゃんもそうだった、と言うなら頑張ってみたい気持ちもした。


「まずは今日の事から振り返ってみるにゃ」

教える立場ではあるが・・・内心、ミヤも焦っていた。

疑う事を知らないフェンに社会勉強として裏の社会を見せようと、行った裏通りの店は自分でも衝撃過ぎだったと思う。

予定では食堂で少し金額を多く吹っ掛けられて、、反省する。

、、、くらいのはずだったのだ。


フェンは衝撃を受け、、過ぎたのではないか?

軽い『人間不信』になった様にも見える程に考え込んでしまった。。

フェンが素直で誠実なのは良い所だし、魅力でもある。

その純粋な物を強制的にミヤが穢してしまった様な気がしたのだ。


『フェンさまには、、フェンさまのままでいて欲しいにゃ』


、、、でも、このままじゃ今後、もっと傷付くのにゃ、、。


相反する気持ちにミヤも戸惑っていた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

闇の世界の住人達

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
そこは暗闇だった。真っ暗で何もない場所。 そんな場所で生まれた彼のいる場所に人がやってきた。 色々な人と出会い、人以外とも出会い、いつしか彼の世界は広がっていく。 小説家になろうでも投稿しています。 そちらがメインになっていますが、どちらも同じように投稿する予定です。 ただ、闇の世界はすでにかなりの話数を上げていますので、こちらへの掲載は少し時間がかかると思います。

兄貴がイケメンすぎる件

みららぐ
恋愛
義理の兄貴とワケあって二人暮らしをしている主人公の世奈。 しかしその兄貴がイケメンすぎるせいで、何人彼氏が出来ても兄貴に会わせた直後にその都度彼氏にフラれてしまうという事態を繰り返していた。 しかしそんな時、クラス替えの際に世奈は一人の男子生徒、翔太に一目惚れをされてしまう。 「僕と付き合って!」 そしてこれを皮切りに、ずっと冷たかった幼なじみの健からも告白を受ける。 「俺とアイツ、どっちが好きなの?」 兄貴に会わせばまた離れるかもしれない、だけど人より堂々とした性格を持つ翔太か。 それとも、兄貴のことを唯一知っているけど、なかなか素直になれない健か。 世奈が恋人として選ぶのは……どっち?

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで

みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める 婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様 私を愛してくれる人の為にももう自由になります

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

王子は婚約破棄を泣いて詫びる

tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。 目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。 「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」 存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。  王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

NineRing~捕らわれし者たち~

吉備津 慶
ファンタジー
 岡山県の南、海の側に住んでいる高校二年生の響が、夜遅く家を飛び出し一人浜辺を歩いていると『我をおさめよ、されば導かれん』の声がする。  その声の先には一つのリングが輝いていた。リングを指にはめてみると、目の前にスタイル抜群のサキュバスが現れる。  そのサキュバスが言うには、秘宝を解放するために九つのリングを集め、魔王様と魔族の世界を造るとの事。  そのために、お前を魔族の仲間に引き入れ、秘宝を手に入れる手助けをさせると、連れ去られそうになった時、サキュバスに雷が落ちて難を逃れ、サキュバスが彼の下僕となる。しかしサキュバスの魔封じのクリスタルで、何の力も持たない響は連れ去られてしまう。  しかし、おっちょこちょいなサキュバスのおかげで、現代から未来世界に渡り。未来世界の力を得た響が、その後異世界に渡り、リングを探す事になる。

処理中です...