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018話 知識ですか?勇者さま。
しおりを挟む「どうにゃ?、、、ちゃんとついて来てるかにゃ?」
「う、、うーーーん、、」
ミヤが都市での常識的な事柄を説明してくれているのだが、、、
、、、正直、フェンには難しかった。
目の前で『困っている人』が居れば助けるのが普通だとフェンは思う。
手を差し伸べ、助ける、、、今までもそうして来たし、これからも。
街中に戻って来たフェン達は宿を探す。
「あの子の事も有るし、今日は一泊するにゃ。」
フェンも同意する。
ミヤの話しは納得出来る話しだし、教団に預けたのだから心配ないだろう。
・・・とは思うのだが、、、。
フェンの中の性善説、、フェンが今日まで暮らして来た中で作り上げて来た、人間への性善説の基準が揺らいでいるのだ。
、、、実はフェン個人の、ただの思い込みではないか?との思いが拭えない。
いくら神官様が引き受けたとは言っても、心の中の不安が消えないのだ。
フェンの気持ちを察したのかミヤが言う。
「その不安は実際に自分の目で見て確かめなきゃ解決しないにゃ。」
「明日、朝一で教団へ行き、自分の目で見て確かめるにゃ。」
「うん、そうだね、、、」
宿屋が見つかり部屋を取る。
クロスシティーは物流の拠点だけあって、それに伴う人の流れも多い。
その為、宿屋の業界も発展している。
競争原理が働いてどの宿屋も他の都市や町に比べて豪華なのに割安だ。
冒険者が使う一番安い二人部屋でも不必要な程に広い造りになっており、
素泊まりで二人で40ジルド。一番高い二人部屋でも120ジルドほどだ。
まあ、冒険者は安い部屋に泊まるが、宿屋の酒場で『それ以上の散財』をしてくれるのを見越しての価格設定でもあるのだろう。
今までなら割安感が有って素直に『お得』だと喜んだと思う。
だが、今のフェンは素直に思う事が出来なかった。
お金を払う時に、どうしても想像してしまうのだ。
ここの一番高い二人部屋に一泊する事も出来ない値段だなんて、、、、
・・・『あの子が』である。
あの子は生きている。感情も有れば、痛みだって感じる。
その子が、店に並べられ『物』の様に売られていたのだ。
あまつさえ、商品価値が無くなったと、処分される寸前だった。
店の男達にとっては『あの子』は人ではないのだ、、ただの『品物』なのだ。
そして男達は言った、、『廃棄する』と。
そして理由はどうあれ、フェンも『獣人を売買する忌むべき人間』になったのだ。
自己に対する嫌悪も有るが、こうも思う。
もし、それで救う事が出来るのならフェンは『何泊でも野宿してもいい』と思う。
馬鹿げた考えなのは解かっている。
王国だけで、いや、この都市だけで一体どれ程の獣人達が居ると思っているのか?
宿代を節約して獣人全員を買い取り自由に、、、出来る訳が無いのだ。
、、、そんな事は不可能な妄想でしかないのは理解しているのに。
だが、そんな考えが頭から離れないのだ、、、
支払いを済ませ、部屋へ入る。
疲れた、、本当に。 頭も回らず考えも整理出来ない。
考え込むフェンを見かねたミヤが言う。
「フェンさま。食事に行くにゃ、何か食べるにゃ。」
ミヤに言われて、食事をしていない事を思い出す。
「そうだね。ごめんね、ミヤ。お腹空いたよね?」
考え込むあまりに一番近くにいるミヤの事さえ考えられなかった。
『これじゃ、駄目だ!』 心の中の自分に言う。
「行こう、ミヤ」
「はい。フェンさま」
疲れを取る為のスタミナセットをミヤに却下されたのが不思議だが、無事に食事を済ませた。
部屋に戻るとミヤが提案する。
「フェンさまは素直過ぎなのにゃ。行動も率直過ぎなのにゃ」
「戦う技術は有っても、駆け引きが出来ないにゃ。」
「特に対人の『交渉事』は壊滅的にゃ、、」
結論的にこうなった、、、『勉強しよう』と。
「机上の知識はあくまで想像にゃ。実際に経験しなきゃだにゃ」
「、、、でも知識としての引出しは多く有った方が良いにゃ」
「少しづつでも勉強するにゃ。まずは対人的な事からにゃ、、」
「ジン様も最初はそうだったとクロネも言ってたにゃ」
、、、爺ちゃんも?、、フェンはピンと来ない。
フェンが物心ついた頃には『爺ちゃん』は『爺ちゃん』だったのだから。
だが、爺ちゃんもそうだった、と言うなら頑張ってみたい気持ちもした。
「まずは今日の事から振り返ってみるにゃ」
教える立場ではあるが・・・内心、ミヤも焦っていた。
疑う事を知らないフェンに社会勉強として裏の社会を見せようと、わざわざ行った裏通りの店は自分でも衝撃過ぎだったと思う。
予定では食堂で少し金額を多く吹っ掛けられて、、反省する。
、、、くらいのはずだったのだ。
フェンは衝撃を受け、、過ぎたのではないか?
軽い『人間不信』になった様にも見える程に考え込んでしまった。。
フェンが素直で誠実なのは良い所だし、魅力でもある。
その純粋な物を強制的にミヤが穢してしまった様な気がしたのだ。
『フェンさまには、、フェンさまのままでいて欲しいにゃ』
、、、でも、このままじゃ今後、もっと傷付くのにゃ、、。
相反する気持ちにミヤも戸惑っていた。
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