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015話 王都ですか?勇者さま。
しおりを挟む時間的に厳しくなった王都への道程も、裏道を教えて貰ったお蔭で予定より少し遅くはなったが8日目の夕方に到着出来、即、謁見の申し出を行なった。
『色々』と有ったけど何とか約束の期日は守れたのだ。
ホッとしたせいか、今日はゆっくり休みたい気分だった。
せっかくの王都だが、早々に宿屋を探し部屋を取る。
食事も外へ出ずに宿屋の食堂で済ませる事にする。
「フェンさま、何か疲れてるにゃ。元気の出る食事でも摂るにゃ」
「うん。そうするよ。」
ミヤが勧めるがままに冒険者に人気という店のスタミナセットとドリンクを頼む。
…ミヤが『猛獣にゃ』とか呟いていたのが気になるけどミヤに任せれば大丈夫だよね…。
パクッ…『何か食べた事が無い不思議な味付けだ。』
パク、パクッ…『何か鼻に抜けると言うか、頭がカーッとしてくる気がする』
ゴクゴク…『このドリンクは…苦くてあまり美味しくない気が、、、』
しばらく食べてから横目で見れば、ミヤが頼んだ『美と健康セット』なる料理を美味しそうに、、と言うか、何かを期待した様な顔をして食べている。
『別にミヤはそんな料理を食べなくても綺麗だし、可愛いよね?』
と、口に出して言ってあげたらミヤがどんなに喜ぶだろうか、、、
なんて乙女心にはサッパリなフェンだった。
・・・でも、、なんだろう? やけにミヤが魅力的に見える気が、、、
、、って言うか、、、違う、、、ミヤが・・・
「あっれー?どうして?ミヤが三人…いや、二人居るよ…ね?何かお得な気分だよ…??」
・・・その後の記憶が無かった。
部屋まで何とかフェンを連れてきたミヤは首を傾げる。
確か…食堂で冒険者が『これを飲めば疲れなんて吹っ飛ぶぜ!!』
と言ってたはずなのに、、、あと『男なら誰でも猛獣になるぜ!』とも。
当のフェンは何かぶつぶつ言ったり、ボーッとしたりしている。
「あー。もー、早く家へ帰りたいな…」なんてボヤきも。
、、せっかく来たのに帰りたいなんて言わないで欲しいにゃ。
、、これは、これは、ミヤのせいなのにゃ!
・・・とは言えない。
「そうにゃ! フェンさま、もう寝るにゃ。そうすれば元気になるにゃ。」
「大丈夫にゃ。ミヤも一緒の布団で隣に添い寝するにゃ。」
「お城からの呼び出しの人が来たらすぐ起こすにゃ。」
「だから安心して寝るにゃ。」
「・・・うん。そうする・・・」
理解しているのかどうなのか?ぼんやりした回答だった。
・・・えっ?、、いいにゃ?一緒の布団で隣で寝るにゃにょ…!?
言ったミヤ本人が内心ドキドキし、驚く。
獣人の姿になってからは、いつも『一緒は駄目』って言われて別々なのに…。
『コクリ、コクリ、、』、、既にフェンはもう夢の入り口だ。
やったにゃ!!・・・とうとうミヤはフェンさまと一線を越えるにゃ。
『行くにゃ!!』
決心して布団に潜り込んでフェンに抱き付く。
フェンもミヤを抱き締めてくれる。
・・ああっ、今からミヤはフェンさまに抱かれて、、
・・・「あっ、、痛っ、、!」
、、、って何か違う、、背骨が、、痛っ!痛いっ、、、。
寝ぼけ心地のフェンが手加減しないでミヤを抱き枕代わりに抱き締めたのだ。
「フェ、フェンさま・・・も、もっと優しく、、にゃ」
『えへへ。モフモフだよねー、ミヤ・・・。』
フェンさま、、、もぅ完全に寝ぼけてるし、、、。
・・・
・・・・
結局、抱き枕代わりにされて、期待した様な事は起こらず猫の姿の時と同じ、一晩中、耳と尻尾をモフモフされただけだった・・・(泣)
翌朝、起きるには起きたがフェンの調子は戻らない。
、、、そうにゃ!村に居た時の様に・・・
リフレッシュの為に街中へ早朝散歩へ出掛けようと言う事になった。
王都の朝は予想を超えて早い。
と言うか、商人の荷物、物流に関しては夜中でも行き来しているのだ。
何が『そんなに忙しいのか』が不明なのだが、なぜか皆が皆、忙しなく急いでいる。
実は忙しなく働いている人達自身でさえ『なぜ急がなければなのか』を
理解していないのかもしれない。
別に時間には余裕が有るけど、周囲が忙しなく動いているから、
『自分も急がないといけない様な気がして』急いでいる人が、この中にどれだけ居る事やら…。
フェンとミヤは一種の『居心地の悪さ』を感じながら歩く。
・・・理由もなく自分が怠けている様な気すらするのだ。
『都会って怖い…』田舎の出の者なら誰でも感じる事だろう。
しかも何をするでもなく、ただ居るだけで疲れるのだ。…精神的に。
ここで日々暮らしている人達は素直に凄いと思う。
『住めば都』なんて言葉も有るが、本当なのか疑問に思う。
そして・・・こんな所で父さんはずっと暮らしていたのだろうか?
素直に凄いと思う反面、、、『僕には無理だ』とも思う。
「フェンさま…顔色が悪いにゃ。帰るにゃ。」
「うん。そうする。ごめんね、ミヤ。」
、、、これが『都会酔い』と言うやつだろうか・・・
フェンは小さく呟く。
「都会って怖い、、ね。」
『ただの二日酔いにゃ』、、とは、ミヤは言い出せなかった。
ごめんなさい、、ミヤのせいなんです。。。
宿屋へ帰り食事を済ませた…のだが、、なんでこんなに朝からボリュームが。
都会の冒険者向け?、、何時も?、、これが普通なの?
『出された食事は残さず』の家訓に従い、、無理して全部食べた。
「いつ頃お城からの使いの人来るのかなー。」
部屋に戻ってもフェンはまだシャキッとしない。
「部屋で休んでいれば、その内に来ると思いますにゃ」
「そうだね…そうする…。」
朝食を摂ったらまた気持ち悪くなって来たのだ。
もう一休み出来る…と期待した途端にドアがノックされる。
「イーストノエルのフェン殿。ヘルブム卿からの使者に御座います。」
「御足労お願い致します。」
正直、『えーーー』だった。、、、具合悪いのに…。
「今日、王城で拝謁の予定が有るのですが…。」
「それは承知の上。その前に会談を、と主人は申しております。」
「その後、王城までお送りする予定になっております。」
王様への謁見の手順みたいな物なのかな?
、、政治に興味の無いフェンには『何が正しい』のか全然分からない。
『手順が有るなら仕方ないよね』と、勝手に思い込む。
「今、準備し参りますので外でお待ち下さい。」
使者は素直に出て行く。
・・・『ふっ』と、なぜか女盗賊さんの顔を思い出す。
あれ??…何か大事な事を言われて、、忘れている気がするけど、、
、、まぁ具合悪いせいだよね・・・。
外に出ると立派な馬車が停まっている。
使者が「どうぞ」と促す。
『招待客は自分の馬じゃなくて馬車での送迎付きなんだ。』
ちょっと世界が違うなーって感じが漂っている。
馬車は進む。
正に別世界だった・・・揺れる。
都会の馬車はみんなこんな感じなの?
これなら自分で馬に乗った方がまだマシだと思う、、、
「フェンさま。大丈夫かにゃ?」
・・・ただでさえ気持ち悪いのに密閉された箱の中に入れられ揺らされたら…
、、、気持ち悪いに決まってるよね?
「正直、、ちょっと、もう限界っぽい・・・」
「フェンさまの大ピンチにゃ!」、、ミヤは青ざめる、、
と、思っていたら馬車が止まる。
『具合悪いのに気が付いて停まってくれたのかな?』
『…だよね、、。こんな高そうな馬車の中で吐いた日には…大変だもんね』
が、違った。
単に目的地、ヘルブム卿の邸宅に到着しただけだった…。
即座に促され建物の中へ案内される。
途端に、、うっ。眩しい…建物内が眩しいのだ。室内なのに。
原因は鏡だ。そこらかしこに鏡が有り、その上、額縁がみんな金色、実際本物の金なのだろうが・・・眩しい。
灯りが反射して目が眩むようだ。
『誰だよ!こんな悪趣味な家に住んでるのは!!』口に出しそうだが出さない。
・・・正直、目がチカチカして気持ち悪くて別の物を吐きそうなんだけど、、。
応接室に通され座って待つようにすすめられる。
暫く待つとニコニコした中年の男が部屋に来て挨拶を始める。
「お待ち申し上げておりました、勇者フェン殿」
「私が当家の主、ヘルブム・アール・ガルトと申します。宜しくお願い致します」
「私の事はヘルブムとお呼び下さい。」
…正直、予想が外れた。建物の趣味はともかく挨拶だけは『至ってまともな人』らしい。
具合も悪いので単刀直入に聞く。
「それでヘルブム卿、今日はどういった用件でお招き頂いたのですか?」
「王への謁見に関係ある事なのでしょうか?」
「いえいえ、新しい勇者様の武勇伝など聞けたらと思いまして。」
内心、『謁見の手順に関係無いなら帰っていい?』と思う。
気分も悪く今にも吐きそうなのだ。
だが、無下に扱うのもどうかと思うので早く切り上げようと言い切る。
「武勇伝など有りませんし、私はまだ勇者などではありません。」
「勇者はジン、祖父の称号です。」
「ご謙遜を。フェン様もガルンでは活躍されたとお聞きしておりますよ」
「いえ、モンスターは全て祖父が倒した物です」
ヘルブム卿の目の奥が微かに光った。
「そうでしたか。流石は勇者ジン様です」
「…で、ここからが本番なのですが、フェン殿、、、、」
「今日の謁見の場で『勇者を継承』して貰えないだろうか?」
「私はロベルト公とは懇意にさせて戴いていたのだ」
『勇者を?・・・継承?』おかしな話だ。
勇者は皆それぞれが思い、呼ぶ名前で、国から任命される様な物ではない…。
「お受け出来ません」
・・・と、ハッキリと断ったのに、ああだ、こうだ、と粘られる。
「お受け出来ません!!」
と、つい興奮してしまい・・・吐いた。
途端にヘルブム卿の態度が変わった。
冷たく見下す視線で言う。
「ちっ!あの女盗賊め。失敗したとか言いながら、ちゃんと『毒』を飲ませる事に成功ていたのか…」
「えっ、毒?、女盗賊?」
「あの毒を飲んで即死しないとは勇者の血とは恐ろしい物だな!ふははは…」
・・・何か勝手に悪役っぽく盛り上がってるんですが?
それからヘルブム卿は頼みもしないのに、父さんとの関係、ガルンの事、ファリス大司教補佐の男の話し、フェンへの暗殺、妨害工作についてベラベラと話してくれた…。
「…えっと、、吐いたら気分良くなったので帰って良いですか?」
「な、、に?」
「吐いたら治りました。女盗賊さんは失敗しました。」
「・・・満足、ですか?」
「だっ騙したのかっ!!」
、、、『えーっ!僕のせい?』言い掛かりも甚だしいよね。
「どちらにしてもガルンの住民を殺した件は許されません。今日の謁見で公にします。」
「そうはさせるか!!」
罠が作動した、、今更こんな罠が有るの?と思う様な檻が上から落ちて来てフェンとミヤを閉じ込めたのだ。
「しまった!」・・・完全に油断していた、、、。
「今は殺さん。謁見をすっぽかした罪人として公に殺してやるわ!!」
ヘルブム卿が出て行く。
ヤバい。これはファリスの時と同じ『出来試合裁判』の予感がする。
「ミヤ、何とか出来ない?」
「ミヤは鍵開けスキルなんて持ってないにゃ…」
「困ったね…」
・・・・
・・・・・・
『コン、コン・・・』、、?
、、ノック??、、思わず部屋のドアの方を見てしまう。
「お困り?間抜けな勇者さん?」
「あっ!女盗賊さん!!・・・なんでこんな所に?」
「言ってたじゃない?失敗した女盗賊って。で、閉じ込められてたのよ。」
「まぁ逃げるのなんて簡単なんだけどね♪」
、、、言ってたじゃない?って事は最初から僕達の話を盗み聞きしてたの?
「お願いします。ここから出して下さい。王城まで行かないとなんです!」
「いいわよ。ヘルブム卿も痛い目に遭わせたいしね」
「それと…だからヘルブム卿には気を付けろって伝えたわよね?なんで捕まったわけ?」
「あっ!、、すみません、、忘れてました、、、」
だからあの時、女盗賊さんの顔を思い出したのか、、フェンは納得する。
が、大事な注意だけは本当に忘れていたのだった。
「信じらんない…もう間抜けは卒業ね。…今日から貴方は、お馬鹿、ね。」
「お馬鹿で良いので、とにかく出して下さい。」
「そうね…あと…」
『まだ有るの…?』
「今後、私の事『お姉様』って呼ぶ事、いい?」
えーっ、、、って、今は考えてる時間は無いよね、、
「・・・はい、お姉様」
「よし。じゃ開けるよ♪」
・・・急がなきゃ…謁見の時間は何時からなんだろ?
ヘルブム卿は遅くて乗り心地の最悪な『あの馬車』で行ったくらいだから馬で追えば間に合うよね?
「女盗…お姉様も一緒にお願いします。」
「いいわよフェン。お姉様にお任せよ♪」
三人を乗せた二匹の馬は一路、王城に向けて駆け抜けて行く。
「お姉様・・・お姉ちゃんだね・・・」
妹にお姉ちゃん、、家族が増えるのって、、、嬉しいな。
兄弟姉妹の居ないフェンには新鮮でとても嬉しい事だった。
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