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002話 ギルドですか?勇者さま。

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ここ最近、街の空気が何だかおかしい。

どこへもぶつけられない心配や不安が街のペースを乱しているようだ。

 少し歩けば、その原因はすぐに判る。

 「とうとう戦争が始まるらしい」との話題ばかりだ。

 見れば会話の内容だけではなく表情も皆、曇りがちである。



ここ、フェンの住むイーストノエルの町も田舎だが他人事ではなかった。

 町より西へ進むと交易の重要都市であるクロスシティーが有り、

 更に西へ行けば王都ゼノンである。

 戦争ともなればクロスシティー攻略の拠点として、迷惑な話しだが

 この上ない位置に在る町なだけに無関係では居られる訳がない。


そして、この町の特殊性も話を難しくしていた。

この町には領主という者が存在しないのだ。

 王国に所属し領地である以上は国から任命された領主が居て当然なのだが、

 勇者の住む町という事で大幅な自治権が許されているのである。

 町の名前でさえ魔王討伐時、先例に従い「ジン」に変えよう、なんて話も

有ったらしいのだが本人が固辞したそうだ。

 居るのは領主ではなく町長、皆から選ばれた相談役みたいな人だけだ。

 税だけは王国に納めてはいるが「小さな自治国家」の風なのだ。

そこが難しい所で、中立の立場のため双方が判断しかねている。


 王国からすれば自国で味方のはずだが参戦を断られ、戦争の為だと無理を

言って強制的に接収など行なえばどう転ぶか判らない。


 相手国からすれば、敵国の領土である事は間違いなく、重要拠点の

 クロスロードを攻略する上でぜひとも奪いたい町のはずだ。


・・・が、大きな問題がある。

ここ、イーストノエルは「勇者の町」なのである。


 勇者が参戦を断っているのは漏洩なのか意図的なのかは不明だが皆が知っている。

 両国共に「虎の尾」以上の物をわざわざ踏みたいとは思っていない。


 仮に敵対し「勇者参戦」となれば敗戦は確実である。

なにせ世界を我が物にしようとした魔王を倒した勇者である。

 世界を恐怖に震えあがらせた魔王よりも強いはずだ。

 魔王討伐時には権力を望まなかった勇者が、気が変わって


『お前らダメだから俺が統一して平和に治めてやる』

・・・なんて言い出したら冗談事ではなくなってしまう。


そう考えるなら勇者が住んでいるだけでも戦争の抑止力として

平和の為に働いていた、とも言えるのかもしれない。


だが、今回はいつもと違う感じが漂っていたのを誰ともなく気付いて

 いたのだった。







いつもの様に通りを抜け橋を渡ってギルドに到着する。

 扉をくぐり受付へと進むと、いつもの声と笑顔が迎えてくれた。


 「いらっしゃい、フェン君。今日の納品かな?」

 街の雰囲気でモヤモヤした気持ちが救われた気がする。


 「ありがとう。」無意識に本音が出てしまう。

 「??・・・まだ来たばかりで何もしてませんよ?」

 「セリスさんがセリスさんで良かったなって。」

 「私は私ですよ?」

 「はい。だからホッと出来るんです、癒しです。」

 「なっ何を言ってるんですか。おだててもオマケはしませんよ。」

・・・やり取りで相手をホッとさせられるって才能です、セリスさん。。

 当然の様にギルドの受付嬢の中で一番人気が高い。


 「おーおー、公の場で堂々と妹を口説くとは大したもんやのー」

まるで『出番を待っていました!』とばかりに話に割り込まれた、、、


 「あっ、、、えっと誰でしたっけ?」

 「・・・・・・・」

 「冗談ですよ。こんにちはレレスさん。で、口説いてません」

 「リリスやっちゅうねん、で、妹をよろしく頼むで」

 「口説いてないし、頼まれません」

 窓口でなぜか少しショックを受けているセリスさん。


 「自分は高く評価してるんやで。貴重な素材を見つける嗅覚」

 嗅覚?・・・犬扱い?

 「それに貴重なアイテムを手に入れる強運」

 運?・・・実力じゃなく?

 「そして重要なのは、とうとう二段ボケをマスターした事や!」

ボケ?・・・しかも二段?ってかマスターなんてしてないし、、、。

しかも重要って、、、重要なのか?


 「・・・て事で ☆ 妹を宜しく」

 言葉の合間にキラリーンと効果音が付きそうなポーズ付き。


 「可愛く言ってもダメ、どっちにしても頼まれません」

 「そんな事言わんと・・・」

いつまでも続きそうなやり取りに、


 『『お客様!!』』

 『受付の前は他のお客様の迷惑になりますので!』

いつの間にかショックから回復したセリスさんが・・・


「セ、セリスさん、、、目が笑ってないよ?」

 『知りません』

 「癒しは?」

 『迷惑になりますので!』

・・・本当に、、怒ってる。。。

 見れば何人か列を作って待っている。


 、、、すいません。並び直します。

ぷっぷっー、っと笑うジェスチャーをするリリスをスルーして後ろに並ぶ。

 再び並ぶ羽目になったけど不思議と嫌な気分はしない。



セリスさんは人気受付嬢で有名だ。姉のリリスは商人である、有名な。

 個人商ではあるが、大手に負けない取り引きを成功させている。

フェンも貴重な獲得アイテムなどを売る際にはお世話になっているのだ。

まあ、やり手過ぎて「通った後には草すら残らない」と揶揄されたりもするが。

 見た目は『姉妹』だけあってセリスさん同様に綺麗である。

そこが、、、見た目と性格とのギャップが良いと言うファンも多い。

 年齢は・・・と言うと本人は怒るがセリスさんの一つ上、のはずだ、多分。

 初見の人には『セリスの双子の姉です☆』との自称は崩さない。

セリスさんに聞いてもお願いされているらしく「ヒ・ミ・ツ☆」

と何時もはぐらかされてしまう。


・・・もしかして二人とも気を使ってくれたのかな?・・・ないない。

セリスさんなら分かるがリリスは、、、ないよな。


 王国は戦争に向けて動き出し不穏な気配が漂っていたが、


フェンは不謹慎だがちょっとだけ幸せな気がしていた。



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