上 下
16 / 17

「俺はいつか家を出て田舎に引き籠ってのんびりゆったり自給自足生活をする男だ」

しおりを挟む
「イヴは本当に俺のこと分かってない」
「え……?」

 シュティルによって目の上から手がどかされて、アメジストの双眸が私を睨んでいるのが目に入った。

「そんなことが俺の障害になると、本気で思ってるの」
「そ、そんなことって……だって、大事なことじゃない……!」
「全然、大事じゃない。そんなの、俺には障害なんかにならない」

 シュティルはきっぱりと言い切った。
 それから、私としっかりと目を合わせて続ける。

「だって、俺はいつか家を出て田舎に引き籠ってのんびりゆったり自給自足生活をする男だ。そんな男に家柄とか育ちとか関係あると思う?」

 自信たっぷりに言い放ったシュティルに私はきょとんと目を瞠る。
 これが恋愛物語の中なら、きっとかっこいいことを言って決めるようなタイミングだと思うのに。
 シュティルが言い放った言葉を頭の中で反芻する。
 そして私は込み上げる感情をこらえきれなくなって、ぷっと噴き出した。

「なんで笑うの」
「だ、だって……雰囲気はかっこいいのに、言っていることは、かっこ悪いんだもの……ふふっ!」

 おかげで涙も引っ込んでしまった。
 私はシュティルに睨まれながら、くすくすと肩を震わせる。

「でも、これでわかったでしょ。俺はイヴに相応しいって。イヴがひっそりと暮らさなきゃいけないっていうなら、俺みたいな男こそお誂え向きだと思うけど?」
「……そう、みたいね」

 これは素直に認めざるを得ない。年下相手にしてやられたような感じがして、ちょっぴり悔しい気もするが。
 でも、自信満々に私の障害を「そんなこと」って言ってのけてくれるなら、これはちゃんと伝えてあげてもいいかもしれない。

「あなたが好きよ、シュティル」

 告げると、シュティルがはっと息を飲んだ。
 魚のように口をぱくぱくとさせている。嬉しいのだろうか、それが言葉にならないみたいだ。
 してやったり、そんな風に思った私はちょっとした優越感に浸る。
 でもそれも一瞬のこと。反撃はすぐに返ってきた。

「無理、ほんと無理」
「え……? あっ、ひゃっ、シュティル──っ」
「イヴ、本当に好き。好き好き、大好き。愛してる──っ」

 するりと下着を取り払われ、かちゃかちゃと金属が擦れる音が聞こえてきたかと思えば、その直後に甘い衝撃が襲ってきた。
 この間、ほんの数秒。
 運動嫌いのくせになんて素早さだろう。唐突に押し入ってきた圧迫感に私は息を詰めた。
 狭い箱の中でぴったりとくっついたまま、何度も何度も揺さぶられる。
 激しい律動に視界でちかちかと星が飛ぶ。
 さっき焦らされたまま燻っていた熱があっという間に火を灯して、私の中で爆ぜた。

 好き、好き、大好き──と耳元で繰り返される。
 もうそれしか言えないのか、と思うくらいに何度も何度も。
 だけど、何回言われても飽きることはない。
 愛を囁かれて嬉しくないわけがないのだ。私は歓喜に震えながらシュティルにぎゅっとしがみついた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

今宵、薔薇の園で

天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。 しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。 彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。 キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。 そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。 彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。

絶倫獣人は溺愛幼なじみを懐柔したい

なかな悠桃
恋愛
前作、“静かな獣は柔い幼なじみに熱情を注ぐ”のヒーロー視点になってます。そちらも読んで頂けるとわかりやすいかもしれません。 ※誤字脱字等確認しておりますが見落としなどあると思います。ご了承ください。

静かな獣は柔い幼なじみに熱情を注ぐ

なかな悠桃
恋愛
叔父の診療所で雑用係として勤めるヴィアは、幼い頃から騎士団所属で三歳上の幼なじみ、リディスに恋心を抱くも全く相手にされてはいなかった。そんな時、彼が美しい令嬢と仲睦まじくいる姿を目撃してしまい・・・。 ※現代以外の物語は初めてですので不慣れな点があるかと思いますが、お手柔らかに読んでいただけると幸いです(;^_^A ※確認はしていますが、誤字・脱字等あるかもしれません。ご了承ください。

【完結】優しくて大好きな夫が私に隠していたこと

恋愛
陽も沈み始めた森の中。 獲物を追っていた寡黙な猟師ローランドは、奥地で偶然見つけた泉で“とんでもない者”と遭遇してしまう。 それは、裸で水浴びをする綺麗な女性だった。 何とかしてその女性を“お嫁さんにしたい”と思い立った彼は、ある行動に出るのだが――。 ※ ・当方気を付けておりますが、誤字脱字を発見されましたらご遠慮なくご指摘願います。 ・★が付く話には性的表現がございます。ご了承下さい。

全年齢ゲームのはずなのに、セッ…しないと出られないって何で!?

桜月みやこ
恋愛
フルダイブ型VRMMO「アーケイディア オンライン」という全年齢ゲームの世界の中で、 遺跡を探検中にパーティーメンバーのギードと一緒に何もない空間に飛ばされてしまったサーラ。 示されたのは脱出クエスト。 達成条件はラブラブセックス──!? 大変今更な「出られない部屋」です。 ※表紙絵はPicrewの「よっこら少年少女」で作成させて頂きました ※この作品はムーンライトノベルズ様・アルファポリス様にて掲載しています

恋人に捨てられた私のそれから

能登原あめ
恋愛
* R15、シリアスです。センシティブな内容を含みますのでタグにご注意下さい。  伯爵令嬢のカトリオーナは、恋人ジョン・ジョーに子どもを授かったことを伝えた。  婚約はしていなかったけど、もうすぐ女学校も卒業。  恋人は年上で貿易会社の社長をしていて、このまま結婚するものだと思っていたから。 「俺の子のはずはない」  恋人はとても冷たい眼差しを向けてくる。 「ジョン・ジョー、信じて。あなたの子なの」  だけどカトリオーナは捨てられた――。 * およそ8話程度 * Canva様で作成した表紙を使用しております。 * コメント欄のネタバレ配慮してませんので、お気をつけください。 * 別名義で投稿したお話の加筆修正版です。

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

処理中です...