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キスが上手なんだけど……!
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「俺、本当にあんたが好き。根暗な俺に優しくしてくれて、話しかけてくれて、いっぱい美味しいもの食べさせてくれた」
私を見下ろすシュティルの目が露わになっていた。
前髪が流れて、その隙間から紫色の瞳が覗いていたのだ。いつも見えないのに。
初めて見る彼の眼差しは、まるでアメジストのような輝きを持っているように見えて美しい。私はその瞳に見惚れていた。
それに前髪に隠されていた顔が麗しいだなんて誰が予想できただろうか。誰もできないと思う。
初めて知るシュティルの美貌につい見惚れてしまったのがよくなかった。
「好き、大好き」
「シュティ──」
隙を作ってしまったその瞬間に私の唇に柔らかいものが押し付けられていた。
少しカサカサしているから、乾燥しているのだろうか。
シュティルの唇が私の唇を何度も食む。
ゆっくりと味わうように何度も繰り返される口づけに思わずうっとりしてしまう。
口の中に入り込む熱い吐息が何だか心地いい。
肉厚な舌がそっと差し込まれて上顎のあたりをくすぐってくるから、力が抜けそうになる。
この世に生を受けて早二十五年。キスのひとつやふたつくらい経験はある。
と言っても大した経験量ではないけれど。
でも、それでも──これは分かる。
────シュティル、キスが上手過ぎでは!?
「……イヴ」
「な、なによ、その呼び方は……」
しばらく味わってしま──いや、翻弄された後でシュティルが私を甘く呼んだ。
熱を灯した呼び名に思わずドキッとしてしまうと、物理的に離せずにいる手をぎゅっと握り締められる。
「イヴは、俺のこと好き?」
「き、嫌いじゃないわよ。とりあえず離れ」
「よかった、俺たち両想いだ」
嫌いじゃないって言っただけだけど!? どうしてそんなポジティブな受け止め方になるの!?
──と、再びキスが始まったことでツッコミは胸の内でしかできず。
さっきより激しさを増したキスに息が切れる。
苦しくて空いている手でシュティルの肩をばんばんと叩くも、シュティルは私の上から退かない。
それどころか、この行動を「もっと」という意味に受け取ったかのようにキスをより深めてきた。
「ん、んぅー!」
「はぁ、好き。イヴ、大好き」
「シュティ、ちょ、……おねが、待っ」
「俺の事、シュティって呼んでくれるんだ。嬉しい……」
人の話を聞け!!!!!!!!!!
ようやくシュティルのキスから解放された頃には、言葉を紡ぐのも難しいくらいに私は息を切らしていた。
「シュ……待ち、な……いって」
「ああ、イヴ……イヴ……」
銀色の髪をさらさらと揺らしながら、シュティルが少しだけ身体を下げる。
と言っても離れたわけではなく、むしろより近づいたと言うほうが正しいかもしれない。
シュティルの頭は私の胸の上に移動していた。
幸か不幸か、いや不幸か。今日の私は前開きのワンピースを着ていた。
V字に開いた襟から裾の先までジッパーが付いている。着脱がしやすいからとよく好んで着ているものだ。
私自身で着脱がしやすいのであれば、相手が私を脱がすときもやり易いだろう。
先ほどまで私を弄んでいた唇で引き手を摘まみ、シュティルは簡単に私の胸元を露わにしてしまった。
「赤い下着……イヴの白い肌によく似合ってる」
「ん……っ」
シュティルの言う通り、赤い下着で覆った胸にキスが落とされた。
彼の細い指先が下着をずらし、彼の目前に晒された乳首に。
「可愛い……チェリーみたいな色……」
「シュティ、ル。待って、ベオが……っ」
「ベーリ・オルクスなら、お散歩してくるって」
ベオが戻ってくることを言えばこれ以上の事態を避けられると思ったのに。
あの子ってばもう、本当に自由なんだから!
「シュティル、とりあえず待って。やめてってば……っ」
呼吸がようやく落ち着いてきた。
少しだけ身体を起こし、私はシュティルの頭を押す。
「…………だめ、だった?」
彼の頭を押したことで少しだけ前髪が開かれ、再びアメジスト色の瞳が露わになる。
その目が、くぅんと切なく鳴く子犬の如く、私を見上げていた。
可愛げのある瞳にうっと言葉を詰まらせる。
まさか髪で隠したその下で、いつもそんな顔をしていたのだろうか。
私から滋養剤を受け取ったときも、私にドリンクを注文してくるときも、私のご飯を食べて「美味しい」って言ってくれたときも。
綺麗な銀色の下で、その綺麗な顔にいくつもの表情を浮かべていたのだろうか。
────そんな目、ずるい。
シュティルの頭から手を離して、私はその眼差しから逃げるように顔を逸らした。
「……だめじゃ、ない……けど……」
「けど?」
「……わ、わかるでしょ。私に、恋人が……しばらく、いない、ことくらい……したこと、ないのよ……」
しばらくというか、本当は長いこといないのだけれど。
普段のシュティルのように、小さくぼそぼそと正直に告げると、銀色の髪の向こうで彼が目を瞠った──ような気がした。
そして、私はこれを言えば彼が引いてくれるだろうと思ったのだけど。
彼の口角がにっと持ち上がる瞬間を初めて目にして、私は失敗を悟った。
「嬉しい一生大事にする」
「え?」
「イヴ……俺の可愛い嫁……結婚して」
私を見下ろすシュティルの目が露わになっていた。
前髪が流れて、その隙間から紫色の瞳が覗いていたのだ。いつも見えないのに。
初めて見る彼の眼差しは、まるでアメジストのような輝きを持っているように見えて美しい。私はその瞳に見惚れていた。
それに前髪に隠されていた顔が麗しいだなんて誰が予想できただろうか。誰もできないと思う。
初めて知るシュティルの美貌につい見惚れてしまったのがよくなかった。
「好き、大好き」
「シュティ──」
隙を作ってしまったその瞬間に私の唇に柔らかいものが押し付けられていた。
少しカサカサしているから、乾燥しているのだろうか。
シュティルの唇が私の唇を何度も食む。
ゆっくりと味わうように何度も繰り返される口づけに思わずうっとりしてしまう。
口の中に入り込む熱い吐息が何だか心地いい。
肉厚な舌がそっと差し込まれて上顎のあたりをくすぐってくるから、力が抜けそうになる。
この世に生を受けて早二十五年。キスのひとつやふたつくらい経験はある。
と言っても大した経験量ではないけれど。
でも、それでも──これは分かる。
────シュティル、キスが上手過ぎでは!?
「……イヴ」
「な、なによ、その呼び方は……」
しばらく味わってしま──いや、翻弄された後でシュティルが私を甘く呼んだ。
熱を灯した呼び名に思わずドキッとしてしまうと、物理的に離せずにいる手をぎゅっと握り締められる。
「イヴは、俺のこと好き?」
「き、嫌いじゃないわよ。とりあえず離れ」
「よかった、俺たち両想いだ」
嫌いじゃないって言っただけだけど!? どうしてそんなポジティブな受け止め方になるの!?
──と、再びキスが始まったことでツッコミは胸の内でしかできず。
さっきより激しさを増したキスに息が切れる。
苦しくて空いている手でシュティルの肩をばんばんと叩くも、シュティルは私の上から退かない。
それどころか、この行動を「もっと」という意味に受け取ったかのようにキスをより深めてきた。
「ん、んぅー!」
「はぁ、好き。イヴ、大好き」
「シュティ、ちょ、……おねが、待っ」
「俺の事、シュティって呼んでくれるんだ。嬉しい……」
人の話を聞け!!!!!!!!!!
ようやくシュティルのキスから解放された頃には、言葉を紡ぐのも難しいくらいに私は息を切らしていた。
「シュ……待ち、な……いって」
「ああ、イヴ……イヴ……」
銀色の髪をさらさらと揺らしながら、シュティルが少しだけ身体を下げる。
と言っても離れたわけではなく、むしろより近づいたと言うほうが正しいかもしれない。
シュティルの頭は私の胸の上に移動していた。
幸か不幸か、いや不幸か。今日の私は前開きのワンピースを着ていた。
V字に開いた襟から裾の先までジッパーが付いている。着脱がしやすいからとよく好んで着ているものだ。
私自身で着脱がしやすいのであれば、相手が私を脱がすときもやり易いだろう。
先ほどまで私を弄んでいた唇で引き手を摘まみ、シュティルは簡単に私の胸元を露わにしてしまった。
「赤い下着……イヴの白い肌によく似合ってる」
「ん……っ」
シュティルの言う通り、赤い下着で覆った胸にキスが落とされた。
彼の細い指先が下着をずらし、彼の目前に晒された乳首に。
「可愛い……チェリーみたいな色……」
「シュティ、ル。待って、ベオが……っ」
「ベーリ・オルクスなら、お散歩してくるって」
ベオが戻ってくることを言えばこれ以上の事態を避けられると思ったのに。
あの子ってばもう、本当に自由なんだから!
「シュティル、とりあえず待って。やめてってば……っ」
呼吸がようやく落ち着いてきた。
少しだけ身体を起こし、私はシュティルの頭を押す。
「…………だめ、だった?」
彼の頭を押したことで少しだけ前髪が開かれ、再びアメジスト色の瞳が露わになる。
その目が、くぅんと切なく鳴く子犬の如く、私を見上げていた。
可愛げのある瞳にうっと言葉を詰まらせる。
まさか髪で隠したその下で、いつもそんな顔をしていたのだろうか。
私から滋養剤を受け取ったときも、私にドリンクを注文してくるときも、私のご飯を食べて「美味しい」って言ってくれたときも。
綺麗な銀色の下で、その綺麗な顔にいくつもの表情を浮かべていたのだろうか。
────そんな目、ずるい。
シュティルの頭から手を離して、私はその眼差しから逃げるように顔を逸らした。
「……だめじゃ、ない……けど……」
「けど?」
「……わ、わかるでしょ。私に、恋人が……しばらく、いない、ことくらい……したこと、ないのよ……」
しばらくというか、本当は長いこといないのだけれど。
普段のシュティルのように、小さくぼそぼそと正直に告げると、銀色の髪の向こうで彼が目を瞠った──ような気がした。
そして、私はこれを言えば彼が引いてくれるだろうと思ったのだけど。
彼の口角がにっと持ち上がる瞬間を初めて目にして、私は失敗を悟った。
「嬉しい一生大事にする」
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