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第一章 勇者のはじまり 〜理想の彼女とビッチな魔族長〜
川のほとりで
しおりを挟むさらさらと小川のせせらぎが聞こえる中、ぱしゃんと水飛沫が上がる音が重なる。見ればルルミティが惜しげもなく裸体を晒し、川へと飛び込んだところだった。
悩ましい肉感的なボディラインに、ぽよんぽよんと揺れる鞠のようなおっぱい。眼福である。長い髪をかき上げる仕草がセクシーだ。水の冷たさにきゃっきゃとはしゃぎ、ルルミティが振り返る。
「タキさまっ、とっても気持ちいいですよっ」
(……ルルミティ、マジで最高か)
そんな彼女を多喜は川べりの岩に腰を下ろし眺めていた。
夢のような時間を過ごしたあと、汚れた身体を清めたいという話になった。さすがに汗やなんやらでべったべたのままで過ごすわけにはいかない。何か無いかと小屋内を探していた時壁に貼られた地図に気づいた。それにより少し歩いた場所に川がある事を知り、多喜たちは再び森へと出ることにした。
「……腹、減ったなぁ」
茜さす空を見上げ呟けば、ぐるると腹が鳴る。
食事はヴァイスたちと食べたパニッチが最後。その後騒動が起きて今に至るので、空模様から考えてかれこれ半日近く経っていることになる。ついでに喉も乾いた。川の水を飲もうかとも考えたが日本人の胃は弱いので腹を下す可能性が高いので諦めた。火を起こし川水を蒸留する方法もあるがそれをするにも道具が無い。
食料も無い、水も無い、道具も無い、そして行く当ても無い。無い無い尽くしである。
「タキさま、どうかしましたか?」
ぼーっと考えている間にルルミティが川から上がっていたようだ。小屋に布(封の開いていない袋にあったもの)を肩に掛け問うてくる彼女の髪はまだ濡れていた。髪の先から雨が降っている。
「……ルルミティ、ちょっとこっち来て」
「はい」
多喜がちょいちょいと手招けば、ルルミティが素直に応じる。彼女は従順な性格のようだ、特に訝しむことなく多喜の足の間に納まった。
多喜は肩に載った布を手に取り、彼女の蒼黒の髪を包んだ。
「こら、髪もちゃんと拭かなきゃだめだろ」
「えっ、あっ…ひゃあっ」
それからわしゃわしゃと髪を揉み込むように手を動かす。驚いたルルミティが小さく声を上げた。
せっかく綺麗な髪をしているのに、ちゃんと乾かしてあげなければ勿体ない。乱暴にせず、一房ずつ手に取り丁寧に水分を吸い取る。施設にいた妹分たちにしてやったのと同じように。数分かけて彼女の髪を労わってやる。
ルルミティはというと、小さく驚いたてはいたもののその後は大人しく多喜の行動を受け入れていた。
「よし、もういいよ」
「あっ、ありがとうございます……」
たっぷり水分を吸った布を取り、多喜は満足げに頷く。あとはブラシとドライヤーがあれば完璧なのにとそれだけを惜しく思いつつ。
戸惑いがちにルルミティが礼を述べたのを聞いてハッと我に返った。
「あっ、ごめん! ルルミティ! 施設にいたころの癖で、つい……!」
多喜は慌てて頭を下げた。
施設を出て一年も経っているのに癖が残っていることに驚いた。
おませだった妹分たちはアイドルのようになりたいと髪を伸ばしていたくせに面倒がって髪を乾かそうとしない。いつも髪からぽたぽたと水を垂らしてパジャマを濡らす。それでついつい世話を焼いているうちに毎日の習慣となったのだ。髪を結ってやるようになったのもそれからだ。
しかしルルミティは大人の女性。子ども扱いしてしまったことを怒っているのかもと思い多喜は詫びる。
すると振り向いたルルミティも釣られるように慌てたようにぺこぺこと頭を下げた。
「い、いえ、そんな! こんなことされたのは初めてだったものですから……私も驚いてしまいすみません。……その、タキさま、シセツというのは?」
「ああ。えっと施設は……孤児院って言えば分かる? 俺、親いなかったんだ」
多喜は簡潔に自身の生い立ちについて話した。
生後1か月くらいで施設に預けられたこと、そのため両親の顔も名前も知らないということ。同じような境遇の子供達と共に十七年暮らしたこと。
「俺がいた所は年の離れた子ばっかりで、それでさっきルルミティにやってあげたように世話やいてたら習慣付いちゃったみたいでさ」
「そうだったのですか。タキさまは優しいのですね」
「優しい、かな? なんていうか年長者だったから、俺が守ってやんなきゃみたいに思ってたからさ……」
「はい、とても立派だと思います」
ルルミティに肯定され、多喜はくすぐったい気持ちになった。
柔く微笑む彼女の蒼い双眸に温かなものを感じて、まるで母親に認められて嬉しい子供のような気分だ。表情が自然と綻んでいく。
「……ありがとう。ルルミティにそう言われて、俺嬉しい」
「だって、本当の事ですから……」
そう言ったルルミティはふっと遠くを見るような目になった。それからぽつりと言葉を紡いだ。
────わたしも、タキさまと暮らせたら良かったのに……。
ルルミティは悲愴な面持ちで言葉を連ね、これまでのことを明かす。
この時彼女が年上だと知って驚いたが、それ以上に彼女の過ごしてきた人生が想像以上に酷く衝撃が大きかった。
蔑まれ、罵られ、影に隠れ、ありのままに生きることを許されない。
そんな悲惨な過去に多喜も表情を曇らせた。
「そうか、ルルミティは天族と魔族のハーフだったのか……」
「はい。ハーフなんてそうそういません……なのでタキさまに初めて会った時はとても驚きました」
「だろうな、俺この世界の住人じゃないし」
彼女の出自を聞いた多喜は納得し呟いた。道理で肌色が他の天族とは違うわけだ。
まるでみにくいアヒルの子。普通と違うからと除け者にするのはどんな世界でも同じのようだ。多喜も幼いころに親がおらず施設育ちだからと軽く虐めを受けた覚えがあった。それでもルルミティに比べれば遥かにマシな程度であるが。
「……俺も、早くこの世界に来たかったよ」
もっと早く出会えていたら、何十年もルルミティに凄惨な生活なんて送らせなかったのに。
しかし異世界召喚されたのは偶然選ばれたからだ。奇跡に等しい経験をしたから彼女に出会えた。それならば、これからの人生をありのままのルルミティで生きられるように最大限の努力をしよう。そうするためにはまず────知ることだ。
「なあルルミティ。どうして胸が大きいとダメなんだ?」
まず肝心なところから聞くことにする。胸に関しては多喜にとって最も重要な事柄だ。 一体何故巨乳が忌み嫌われる存在なのか、どうしても意味がわからない。
ルルミティは少し考え込み、やや間を置いてから話し出した。
「そうですね……昔からこの国ではみだりに肌の露出をしてはいけないと定められています。特に胸は神聖な部分だから夫だろうと恋人だろうと決して晒してはいけないと……」
「ふぅん……」
なるほど、そもそも法律か何かで定められているというわけか。多喜の観察眼が発動しなかったのは巨乳=悪とされている以前にそういった事情があったからだろう。確かにおっぱいは聖なる場所すなわち聖域だ、うん。夫でも恋人でも晒してはいけないくらいに神聖で……と納得しかけて、フリーズ。
(あれ?)
「……ってことは、天族の男たちはみんなおっぱい見たこと無いってこと?」
「はい、そうなります」
「なんて勿体ねぇんだっ!!!!」
多喜は思わず叫んだ。
おっぱいを見たことが無いなんて有り得ない。それはつまりおっぱいの良さを知らないということだ。
マシュマロのように柔らかい感触! 弾力! そして生で見るおっぱいの迫力と言ったら……!!
残念なことにまだ挟まれたことはないので未知の感覚ではあるが、絶対に気持ちいい。間違いなく気持ちいい。
これを知らないで生きているなんて絶対に損している。
(……そうか、男にも問題があったか……)
おっぱいの良さを知っていればルルミティを取り押さえたり乱暴になんかしない筈だ。そういえばひそひそと囁く侮蔑の声のほとんどは女ばかりだった。女もまたおっぱいの素晴らしさを知らないからネチネチ言えるのだろう。────ルルミティのおっぱいに対する認識も、確認しなければいけない。
「ルルミティ、一つ聞こう。自分の胸をどう思う?」
「……汚らわしいものだと思っていました」
真っ向から尋ねれば、ルルミティは瞳を伏せ過去形で答える。
「今は?」
「……タキさまがありのままがいいと言ってくれました。そして醜いと言われていたわたしのお胸を愛でてくれました。だから今は自信を持って汚れてなんかいないと言えます」
清涼な声がはっきりと告げる。瞼を上げ、まっすぐに多喜を見つめながら。
その眼差しは勇気に溢れ、サファイアの双眸に自身を救った勇者を映した。多喜は彼女の言葉が嘘でないことを確信し頷く。
「そうだ。ルルミティのおっぱいは汚れたものなんかじゃない。人を幸せにする夢が詰まったおっぱいだ」
「はい、タキさまが言うのですから信じます。わたしのお胸は汚れてなんていません」
熱意の籠った多喜の言葉に、ルルミティが素直に頷いた。
「じゃあこれからは胸のことは愛を込めておっぱいと呼ぶんだ。いいね?」
「分かりました」
どこまでも従順なルルミティ。多喜の言ったことにまたも疑問を挟むことなく素直に応じて豊かな双丘の上に手を置いた。
「わたしの……おっぱい……」
ぽっと頬を赤く染め、はぅと悩ましい吐息を漏らし、うっとりした声で言い放つ。ちょうど彼女の腕が乳を挟むような風になっているので、むにゅりと寄せられたおっぱいに視線が向かう。
それに加え、甘美な体験中にも聞いたルルミティの桃色吐息……それらに刺激を受けた多喜の半身がむくりと起き上がり始めズボンを押し上げていた。
(ああ、ルルミティ……可愛過ぎ……っ)
「ルルミティ……っ」
「あっ……」
たまらなくなって、多喜は彼女を抱き寄せ唇を重ねる。それにルルミティも抗うことなく、多喜の背中に手を回し受け入れていた。
互いにぎゅうとしがみつくように身を寄せ舌を絡め合う。最初から激しく濃密な口づけ、甘い果実を夢中になって貪った。
身を寄せればルルミティの豊満な二つの膨らみが多喜に押し付けられ、キスを交わす度にむにゅむにゅと柔らかいものが弾んだ。
甘いキスと最高の感触。昂ぶらないわけがなかった。多喜の猛る半身がルルミティの腹を突く。
「ああっ……タキ、さま……かたくなってます……」
「ルルミティ、さっきみたいにまた……」
多喜の息は荒く、ルルミティも頬を紅潮させ表情が蕩けている。
二人共気分はすっかり高まっていた。
────のだが、突然差した影に気を削がれることになる。
「……えっ?」
黒い影が突然二人を覆った。
驚き顔を上げれば、ぎろりと鋭い目。閃光のような赤眼が自分達を見下ろしていた。
とんでもないのはその大きさだ。闇をその身に纏ったような普通よりも何倍──数十倍も大きなカラスがそこにいた。
腕の中のルルミティがハッと息を呑んだ。
「黒獣……っ!」
「なんだって!?」
近年シュヴァーン国に現れ各地を襲撃しているという黒獣。それが今目の前に現れ、動揺しないわけがなかった。
気配なく出現した巨大なカラス、その様はまるで山だ。天高くそびえ立つ黒き山────
鈍く光る漆黒の翼が大きく開かれ、ギャアッとカラスが鳴く。
威嚇でもしているかのようなポーズだ。これは察するまでもなくピンチなのかもしれない。
(どうする……!?)
多喜は戦う術を持っていない。あまりの恐怖にルルミティが多喜の背にしがみつく。
ぎらりとカラスの赤い眼が妖しく光った気がした。
「これこれ、脅かすでないぞクロノ。すっかり怯えてしまってるではないか」
そこへ鈴のような声が飛び込む。
(……この声って)
聞いたことのあるような声音だった。どこから響いたのか元を探してきょろきょろ見渡せば、カラスの後ろからひょっこりと顔を出した銀色の瞳があった。
その彼女の顔は誰かととても似ていた。
少女と呼ぶに相応しい幼さのある、フランス人形のように整った顔立ち。
誰かと違い肌は活発な印象をもたらす褐色で、白銀の瞳と黄金の髪がとても美しい。
幼くしてシュヴァーン国女王を務めるヴァイスと瓜二つの顔をした絶世の美少女だった。
少女はしゅたっとカラスから飛び降り、戸惑う二人の前でででんと胸を張る。
「迎えに来てやったぞ、異世界からの勇者よ!」
しかし彼女にはヴァイスにはなかったものがあり、多喜の目は顔よりも自然とそこへ向かう。
露出の多い衣服。ホットパンツにビキニという出で立ちの少女が前に突き出した大いなる実り。ルルミティより少し小さいくらいだろうが、ぽよんと弾んだのは見事な膨らみである証拠。
────多喜はカッと目を見開く。
多喜の観察眼はすぐに測定結果を出した。
この美少女はFantasticカップである、と。
相手が『敵』であることを忘れ、多喜は叫んだ。
(巨乳ロリキターーーー!!)
声にすることも忘れるほどに、夢の詰まった素晴らしき出会い。
少女はにかっと太陽のような笑みを浮かべ、声高らかに告げる。
「わらわの名はシュヴァルツっ! 魔族国コルヴォの長であるぞっ」
黒獣に続き、まさかの魔族長様ご登場だった。
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