ままならぬ太陽に月はじれったい ―冷徹眼鏡公爵とツンデレ伯爵令嬢の不器用な結婚―

蒼凪美郷

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27.想い抱いて④

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(……ああ、どうしましょう……)

 それはまた新しい戸惑いをソルフィオーラに与えていた。
 どうしてもどかしいのか、気づいてしまった。でも、そんなことを言うのは流石に躊躇ってしまう。

 だって────はしたない女だと思われて、彼に嫌われたくない。

「ブルーム、様……っ」
「────ん、どうした。ソフィー……っ?」

 呼びかけるようなソルフィオーラの声色にブルームも顔を上げる。
 そうして目が合うや否や彼の顔が青ざめていった。

「ど、どどど、どうしたソフィー!?」
「えっ……?」
「私はまた何か不快に思わせてしまったのか!?」

 不安げに刻まれた眉間の皺にちょっとした既視感を得る。
 こんな感じの彼を近い過去にも見たことがなかっただろうか? 考えていた僅かな時間に、眉目秀麗な顔立ちが間近に迫っていた。

 そこでソルフィオーラは彼が焦っている理由にはたと気づく。

 ブルームの手が伸ばされて、ソルフィオーラの目元を拭った。
 無意識に涙を流していたらしい。サファイアの双眸に映った自分と、拭われた時の感覚で初めて気がついた。

「やっぱり、嫌だったか……?」

 不安そうに零されたブルームの声。
 ソルフィオーラを見つめる眼差しは優しく真摯だった。

「……違う、のです。嫌なんかじゃ、ありませんわ……」

 彼の眼差しに、不安に思うことはないと知る。
 首を横に振ったソルフィオーラにブルームはほっとして見せるが、そうすると次は『ではなぜ』という疑問がやって来るだろう。
 それにすぐに答えてやりたい。だが、やはり少々勇気がいる。

「……あの、聞いても嫌わないでくださいますか?」
「私がソフィーを嫌いになるなんてありえない」

 ブルームを見つめて問えば、即座に心強い返事が。
 喉元まで、残っていた想いが昇ってくる。

 大丈夫。
 だけど、でも。
 心配ない。
 素直に口にすれば、彼は受け止めてくれる。

 内なるソルフィオーラが対立し合う。
 そんな彼女の葛藤を知らないブルームはなかなか言わない妻にじれったくなったのだろう。ブルームは苦笑を浮かべた。

「ハハ。本当にどうしたのだ。そんな変なことを──」
「……欲しくて、たまらないのです」
「──言うつもり、な……は?」

 しかしその瞬間が被ってしまって、ブルームはピタリと動きを止めてしまった。
 やっぱり、という不安がソルフィオーラを襲う。だが、言ったものは取り消せない。

「ブルーム様が、欲しいのです……!」

 半ば自棄になって、もう一度言い放った。

「……ソフィー……貴女って人は……!」

 すると二度目の告白に、ブルームがとうとう額を抱えてしまった。ソルフィオーラから少し離れ、額に手をやったまま彼は天を仰いでいた。
 その様に、やっぱりという思いが確信に至りそうになる。
 欲しい、だなんて。はしたなく思われたのだ。
 言わなければ良かった、そんな考えに頭が埋め尽くされていく。
 後悔の念に押し出されて、ソルフィオーラの口からは謝罪の言葉が出ていこうとしていた。
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