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27.想い抱いて②
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「────あっ! だ、だめですわ……っ!」
と思ったのだが、寸でのところでその瞬間を遮ったのはソルフィオーラの手だった。
「……ソフィー?」
ソルフィオーラの指に唇を押さえられたまま呆けたように愛称を呼べば、彼女はあたふたと焦ってみせながら視線をあちこちに彷徨わせ始める。まるで何かを探すような動きだった。
「あっ、あっ、も、申し訳ございませんブルーム様……! わ、わたくしってば、つい夢中になってしまって……エルたちが見ている前だというのに……って、あら?」
どうやら、エルやノクスの存在を気にしたようだった。
ソルフィオーラは二人が出て行った事に気づかなかったようだ。探している二人が部屋のどこにもいない事を知り、きょとんと首を傾げている。
その様がブルームの目には小動物のように映った。無意識に笑みが零れてしまう。
「……ククッ」
口元を押さえ堪えるように笑う。まるでノクスがよくやる笑い方のようだ。ノクスはブルームをからかって笑うことが多いが、ブルームに彼女をからかうつもりはない。
しかし、あんなにも熱烈な抱擁をしてきたというのに、今更二人のことを気にするとは。
「……本当に可愛らしい人だな、貴女って人は」
「────っ、か、可愛らしいだなんて、そ、そんな……」
込み上げる笑いを堪えながら本音を漏らすと、みるみるうちにソルフィオーラの顔が赤くなっていった。彼女が纏う香りと揃えるかのように真っ赤だ。
そういえば彼女にはまだグレンツェン自慢の果樹園を見せたことが無かった。今度機会を作って連れて行ってあげよう。胸の内で愛しい妻とのデートの計画を立てつつ、恥ずかしそうにもじもじしている彼女をそっと抱き寄せた。
「……本当に、可愛らしいと思っている」
「ブルーム様……」
「そうして褒められると照れて恥じらう姿も。貴女の全部が愛おしい」
ソルフィオーラの手がブルームの背中に回される。
すり……と胸元に彼女が頬ずりした。
「わたくしも……ブルーム様が、愛おしい、です」
一度我に返って恥ずかしくなったのだろう。気持ちを告げる彼女の声は、聞き逃してしまいそうなほど小さかった。
だが、ここは二人だけの世界。音を立てているのは、互いの心臓だけ。
抱き締めたところからソルフィオーラの脈がブルームに伝わり、ブルームの心音はソルフィオーラへと伝わっていく。
お互いに高揚していた。そこでブルームは思う、彼女も同じだと。
「……ソフィー。貴女を、抱きたい」
────やや間を置いて紡ぎ出された返事は。
「……わたくしも、貴方に、抱かれたいです」
ブルームの理性も、枷も、全て取り払ってくれた。
と思ったのだが、寸でのところでその瞬間を遮ったのはソルフィオーラの手だった。
「……ソフィー?」
ソルフィオーラの指に唇を押さえられたまま呆けたように愛称を呼べば、彼女はあたふたと焦ってみせながら視線をあちこちに彷徨わせ始める。まるで何かを探すような動きだった。
「あっ、あっ、も、申し訳ございませんブルーム様……! わ、わたくしってば、つい夢中になってしまって……エルたちが見ている前だというのに……って、あら?」
どうやら、エルやノクスの存在を気にしたようだった。
ソルフィオーラは二人が出て行った事に気づかなかったようだ。探している二人が部屋のどこにもいない事を知り、きょとんと首を傾げている。
その様がブルームの目には小動物のように映った。無意識に笑みが零れてしまう。
「……ククッ」
口元を押さえ堪えるように笑う。まるでノクスがよくやる笑い方のようだ。ノクスはブルームをからかって笑うことが多いが、ブルームに彼女をからかうつもりはない。
しかし、あんなにも熱烈な抱擁をしてきたというのに、今更二人のことを気にするとは。
「……本当に可愛らしい人だな、貴女って人は」
「────っ、か、可愛らしいだなんて、そ、そんな……」
込み上げる笑いを堪えながら本音を漏らすと、みるみるうちにソルフィオーラの顔が赤くなっていった。彼女が纏う香りと揃えるかのように真っ赤だ。
そういえば彼女にはまだグレンツェン自慢の果樹園を見せたことが無かった。今度機会を作って連れて行ってあげよう。胸の内で愛しい妻とのデートの計画を立てつつ、恥ずかしそうにもじもじしている彼女をそっと抱き寄せた。
「……本当に、可愛らしいと思っている」
「ブルーム様……」
「そうして褒められると照れて恥じらう姿も。貴女の全部が愛おしい」
ソルフィオーラの手がブルームの背中に回される。
すり……と胸元に彼女が頬ずりした。
「わたくしも……ブルーム様が、愛おしい、です」
一度我に返って恥ずかしくなったのだろう。気持ちを告げる彼女の声は、聞き逃してしまいそうなほど小さかった。
だが、ここは二人だけの世界。音を立てているのは、互いの心臓だけ。
抱き締めたところからソルフィオーラの脈がブルームに伝わり、ブルームの心音はソルフィオーラへと伝わっていく。
お互いに高揚していた。そこでブルームは思う、彼女も同じだと。
「……ソフィー。貴女を、抱きたい」
────やや間を置いて紡ぎ出された返事は。
「……わたくしも、貴方に、抱かれたいです」
ブルームの理性も、枷も、全て取り払ってくれた。
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