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27.想い抱いて①
しおりを挟む想いを告げられることがこんなにも嬉しいだなんて、思いもしなかった。
愛しい妻からずっと待ち望んでいた言葉を告げられた瞬間、ブルームの身体は歓喜の渦に飲み込まれた。
嬉しいなんてものではない。すごく、すごく、幸せだ。
ずっと見たかった太陽のような笑顔も見ることが出来た。
胸の奥を占める幸福感に、ソルフィオーラとようやく心まで通じ合えたと実感する。
だが、少々困ったことが起きた。
「ブルーム様、好き……っ。愛しています……!」
太陽のごとき明るさを取り戻したソルフィオーラは積極的だった。
胸元に埋められた吐息。背中に回る華奢な手。波打つ金糸の髪から香るハチミツ林檎の匂い。
ブルームは額を抱え、天を仰いだ。
────今すぐにでも彼女を抱きたい。
「……っ?」
押し倒したい衝動を堪え、ハッとなって目を向けた先。
窓辺に立っていた二人が、いない。
すぐさま視線を巡らせると、エルとノクスはドアの前にいた。
ぺこりと頭を下げ、エルが静かに退室する。
それに続くようにノクスも部屋を出て行こうとする──が、その直前、彼の瞳がブルームを映した。
────がんばれ、とノクスの口が動いた。
(な、なにを頑張れと言うのだ……!!)
ブルームは静かに閉じられたドアを睨みつけるが、視線は遮られて向こう側には届かない。
気を遣って出て行ったのだと分かっている。だからこそノクスの言う頑張れの意味もブルームは理解していた。
しかし、良いのだろうか。改めて愛を誓い、想いが通じ合ったからと言って、すぐにそうしてしまって良いものなのだろうか。
確かに今すぐ彼女を抱きたい。
ここには自分たち以外誰もいない。きっとノクス達がうまく人払いしてくれるだろうから邪魔する者もいない。
しかもここはブルームの私室。廊下へと出るドアとは別に寝室へと繋がる方を開けばその先にはベッドが。
ソルフィオーラを抱き締め返そうとブルームの手が宙を彷徨う。
その時、胸元でさわさわと金糸の髪が揺れた。
立ち昇るハチミツ林檎の香り。それがブルームの鼻腔を擽り……トドメとなった。
「────ソフィー……っ」
小さな妻の顎に手を添え、こちらを向かせる。
うっとりとした青空の瞳がブルームを見上げた。
確かな愛情を浮かべた眼差しに高揚が止まらない。
────今すぐ彼女が欲しい!
「ブルーム様……」
小さく名前を呼ばれて、ブルームはソルフィオーラに顔を寄せた。
鼻腔に入り込むハチミツ林檎の香りが濃くなる。甘い蜜を欲するハチの如く、薄紅色の唇に吸い寄せられる。
触れ合う寸前、ソルフィオーラが目を閉じた。長い睫毛は震えもせず、ブルームの愛を受け止めようとしているかのようだった。
もう、何も阻むものはないのだ。
正真正銘、晴れてソルフィオーラの夫となったブルームを止めるものなど何一つないのだ。
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