ままならぬ太陽に月はじれったい ―冷徹眼鏡公爵とツンデレ伯爵令嬢の不器用な結婚―

26.溢れる想い⑧

「大好きです……！　ブルーム様、大好きです……！」

　エルやノクスの前にも関わらず、波打つ金色の髪をひらひらと靡かせ自らブルームの懐に飛び込んでみせた。

「ソ、ソソ、ソフィー……っ！？」

　突然の愛しき妻の抱擁に愛しき夫は動揺する。しかしソルフィオーラは想いが溢れすぎて彼の状態に気づいていない。

「ブルーム様、好き……っ。愛しています……！」
「────っ」

　小柄なソルフィオーラがブルームの身体に抱き付くと、ちょうどいい具合に胸元に納まる。
　ブルームの逞しい胸元に頬を摺り寄せる。愛おしさが止まらない。彼の体温にうっとりとする。彼の脇の下に手を通し、まるでぬいぐるみを抱き締めるかのようにぎゅうと抱き付く。
　こんな感覚は生まれて初めてだった。
　恋の先にはこんな感情もあるのだと知る。────ずっと抱き締めていて欲しい。ずっと彼の腕の中にいたい。

　彼に、抱かれたい。

「────ソフィー……っ」

　そう思ったのと同時に顎を持ちあげられ、上を向かされた。
　出会った時は眼鏡を掛けていたからレンズ越しだった。しかし今は透明な板も何もない。そのままの彼の視線が降り注ぐ。
　感情の灯火を孕んだ、熱い眼差しが。

「ブルーム様……」

　熱っぽいサファイアの双眸に見つめられ、名前を呼ぶことしか出来なかった。
　その先にあるものを望んでいたから。いや、その後に来る・・と分かっていたから、名前を呼ぶ以外の言葉はいらなかった。
　二人の距離がゆっくりと近付く。まだ触れてもいないのに、肌がブルームの熱を捉えて熱くなる。
　ソルフィオーラは近づく熱にうっとりとしていた。彼の熱を想像して、無意識に瞼が下りる。
　それは恥ずかしいからではない。彼を受け入れるための姿勢だ。
　彼の体温はすぐそこにまで迫っていた。