ままならぬ太陽に月はじれったい ―冷徹眼鏡公爵とツンデレ伯爵令嬢の不器用な結婚―

蒼凪美郷

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26.溢れる想い⑥

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(ブルーム様……)

 滲んだ視界に影が映る。でもそれは一瞬のことで、直後ソルフィオーラの頬は大きな温もりに覆われていた。ブルームの手のひらだった。
 久しく感じられる彼の温度に、胸の奥がきゅうと締まる。触れられて嬉しいと、心が歓喜している。胸の奥が締まる度、想いがどんどんと溢れだす。
 それはみるみる内に喉元までせり上がり、言葉にせざるを得ないところまでやって来た。
 ──ああ、想いが溢れる。それを押し留めるかのようにソルフィオーラは頬に置かれた手に自らのを重ねた。
 重ねた手が動き、視界がクリアになった。ブルームの指が涙を拭い取ってくれたおかげで、はっきりと見える。
 澄んだ世界に、好きで、好きで、ずっと恋焦がれていた愛おしい人の顔が。

「わたくしは、ブルーム様を心からお慕いしております」

 サファイアの双眸に映されたソルフィオーラの顔は、晴れやかな笑顔を浮かべていた。
 ソルフィオーラの笑顔を向けられた本人は僅かに目を見張っていたが、彼もまた笑みを返してくれた。

「私もだ、ソフィー。貴女を心から愛している」

 ブルームの言葉と微笑みに、ソルフィオーラの心が想いを告げられた達成感とそれを受け入れられる幸福感に包み込まれた。空を覆っていた雲が流れその間から光が差したように明るくなっていく。
 世界が変わってしまったのだろうか? 目に映る全てがキラキラと輝いているように見える。
 ブルームの瞳からひとときたりとも目を離したくない。サファイアのように美しい瞳をずっと見つめていたい。少し前までは、恥ずかしくてずっとは見ていられなかったのに。
 想いを告げただけでこんなにも幸せな気持ちになれるものなのかと、ソルフィオーラはブルームと青い視線を交え続けた。

「────汝、健やかなるときも」

 ブルームと二人見つめ合う中で奏でられたのは誓いの言葉の一節。
 声がした方を向けばいつの間にか立ち上がっていたノクスがそれを紡いでいた。

「司祭様の代わりに誓いに立ち会うのなら、エルさん一人より二人の方が良いでしょう。僕も付き合います」

 言いながらノクスは紅色が差し込む窓辺へと歩み、エルの傍に立った。二人の視線がほんの一瞬絡み合う。

「奥様は僕に」
「旦那様は自分に」
「ブルームを幸せにすると誓ってください」
「ソルフィオーラ様を幸せにすると誓ってください」

 エルとノクスの言葉が重なって響いた。
 示し合わせたかのような二つの声の調和に、ソルフィオーラはブルームと目を見合わせた。
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