ままならぬ太陽に月はじれったい ―冷徹眼鏡公爵とツンデレ伯爵令嬢の不器用な結婚―

蒼凪美郷

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26.溢れる想い⑤

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「……その前に、聞いていただきたい事があります」

 静かに首を振ったときブルームの表情が僅かに曇った。ピクリと跳ねるように皺を刻んだ彼の眉間……だが、その後にソルフィオーラが続けた言葉に拒否ではないことが伝わったようで、すぐにほっとしていた。その変化も微々たるものだったが、眉間の皺が和らいでいるのが分かりやすいところだ。

(……大丈夫。ぜったい、伝わるわ……)

 きっかけはエルが作ってくれた。
 だから、誓いの前に自分もちゃんと言わなければ。
 ずっと震えっぱなしだった涙腺を堪え、ソルフィオーラはこの機会を逃すまいと口を開く。

「二年前、ブルーム様と出会って……わたくしは恋を知りました」

 紡ぐのは、ずっと言えなかった想い。
 自分を見つめるサファイアの双眸から決して目を逸らさず、ソルフィオーラは思いの丈を口にし続ける。

「わたくしは恋に夢を見ていたのです。だから、結婚するならブルーム様がいいとお父様に宣言しても、この恋が壊れてしまうのが怖くて……わたくしから結婚を申し込むなんて出来ませんでした。だからこそ、あの日セレネイド家から使いの方がいらしたとき、本当に嬉しかった……」

 エルと手を取り合いぴょんぴょん飛び跳ねて、喜びを分かち合った。
 母から『レディはそんな風に飛び跳ねたりしませんよ』とたしなめられても、喜びを溢れさせた。
 まさかブルームも同じ想いだったなんて思わなかったのだ。二年間まったく会いもせずやり取りもしなかったというのに、そこへ奇跡のような出来事が舞い込めば……喜ばないなんて到底無理である。

「……でも、何もしなかったのがいけなかったのだと思います。二年間、ただ思い……ただ、待っていただけだったから、わたくしは臆病になってしまったのです」

 ブルームの前で自分らしく振る舞えず、自分の想いを口にすることもできず。その結果、彼を不安にさせてしまった。
 だからソルフィオーラはブルームだけが悪いなんて思ってはいなかった。
 自分がもっと素直に、勇気を出せていれば────きっと不安になんてさせなかった。
 もっと自分らしく振る舞えていれば、ブルームと笑い合えたのに。

「わたくしも、悪かったのです。わたくしのせいで……不安にさせて、ごめんなさい。ブルーム様……」

 謝罪を口にしたのと同時に、堪えきれなかった涙が零れた。
 ブルームの顔が涙で見えなくなる。だが、耳心地の良い声音で自分を呼ぶ声は聞こえた。穏やかに奏でられる夜想曲のような声で『ソフィー』と愛称を呼ぶ彼の────。
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