ままならぬ太陽に月はじれったい ―冷徹眼鏡公爵とツンデレ伯爵令嬢の不器用な結婚―

蒼凪美郷

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26.溢れる想い②

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「エルってば対応がとても紳士で────」

 思案を巡らせながら二人のやり取りを見守っていると、ソルフィオーラと不意に目が合った。
 言葉が不自然に途切れて、澄んだ青の瞳にブルームが映る。
 目尻が僅かに垂れ下がって、彼女から小さな微笑みを返された。
 胸の奥が小さく痛んだ。僅かに奔った苦しさに、ブルームは膝の上の拳を握りしめた。
 今になって気づいてしまった。不安に思うことなど何もなかったのだ。 

 ────こうしてぎこちなく見つめ返してくれる青空色には、いつもブルームへの恋情が灯っていたのに。

「……本当に、良かった」
「……ブルーム様?」

 無意識に漏れた呟きに妻が首を傾げる。どうかしたのかと気遣うような素振りに心がぽっと温かくなった。
 あんなみっともないことをしてみせたというのに、自分に向けられるソルフィオーラの眼差しの温かさよ。やはり、彼女は自分にとっての太陽なのだ。
 無意識に自分の口が発した声に実は内心焦ったが、言った事は本心だった。
 だからブルームはそのまま抱えている想いを口にすることにした。

「……二人が無事で、本当に嬉しいと心から思っている。────それだけに、二人には本当に申し訳ないことをした。何度謝っても足りない……私が愚かだった」
「……そんな、もう──」
「いや、謝らせてくれソフィー。私は危うく二人の絆まで壊すかもしれなかったのだ。本当にすまなかった」
「ブルーム様……」

 まだ何か言いたそうにソルフィオーラの唇が小さく開いていた。だが、言葉にすることを迷い結局飲み込んだのを見て、ブルームはそのまま続ける。

「……そんな私がこんなことを言う権利はないかもしれない。それでも私は……ソフィーと未来を繋いでいきたい。もちろん、これからも変わらずエルにはソフィーのそばにいて貰いたい」

 一度言葉を止めてブルームはソルフィオーラの隣に目を向けた。
 エルもこちらに注目していた。途中で口出しすることもなく、ブルームの話に静かに耳を傾けてくれているようだった。
 真剣なまなざしに応えるように、ブルームは真摯な思いを込めて告げた。

「────そのためならば、何だってする。だから、ソフィー、エル。私にして欲しいことがあれば何でも言って欲しい」

 そうしてブルームは頭を下げ、静かに二人の反応を待った。
 シーンと静まり返った室内。その間はとても長く感じられた。 

「……何でも、ですか?」

 しばし間があって、控えめな声がようやく耳に届いてブルームは顔を上げた。
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