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24.駆ける太陽、駆け付ける月⑥

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「────あの、ソフィー」
「────あの、ブルームさま」

 それを感じていたのはブルームも同じらしかった。
 全く同じタイミングで声を発し、言葉まで被り、そして目が合った。
 まさか被るとは思わなかったソルフィオーラは続けるはずの言葉を飲み込んでしまったが、目だけは逸らさなかった。つい反射的に逸しそうになったが、堪えたのだ。
 ブルームの方も一瞬言葉を飲み込んだようだった。しかし、サファイアの双眸に真剣な色が乗っているのを見て、ソルフィオーラはそのまま黙ることにした。

「……私から、言わせてもらう」

 そう言ってブルームは、ソルフィオーラに手を差し出すために片膝を地についていたのを両膝に変えた。
 それから膝と膝をぴたりとくっつけ、背筋をピンと伸ばす。
 見慣れぬ姿勢にきょとんと首を傾げた時、視線が一度ソルフィオーラから外され、エルを捉え、またソルフィオーラへと戻ってくる。
 どうしたのだろう、そう思った次の瞬間だった。

「────すまなかった!!」

 腹の底から紡ぎ出された張りのある低い声音がその場に響き渡る。
 ソルフィオーラは一瞬何が起きたのか分からず、ただ青空色の瞳をぱちぱちと瞬かせた。
 その目に映るのは額が地面についてしまいそうなほど頭を下げたブルームの姿。まるでひれ伏した姿勢に圧倒される程の熱意を感じる。
 だが目下の者が目上の者にするような行為には戸惑いを覚えてしまう。
 一体誰にそれを向けているのか。彼がこうする前に視線を向けた人物が二人いた。
 その内の一人にソルフィオーラも視線を向けてみれば、彼女もポカンと口を開けブルームを見つめていた。

 彼が向けた視線の先と口にした謝罪を考えれば、これが誰と誰にどう向けられたものなのかは明らかであった。

「ブ、ブルームさまっ!?」
「だ、だんなさま!?」

 一瞬の硬直が解けて我に返る。なんなら抜けたはずの力まで身体に戻ってきたので、二人揃ってブルームに近寄った。
 彼は公爵だ。いや、夫婦の関係に爵位は関係ないがエルは違う。仕えている屋敷の主人に頭を下げられるなど(しかも地面に額をつけてしまうような)、あり得ないことだ。
 故に一番動揺しているのはエルだろう。いつも凛々しい表情がこの時ばかりは剥がれて、年相応の女性らしい顔で慌てていた。

「お、おやめください、だんなさま!」
「本当に、本当に申し訳ないことをした!」

 しかしブルームは顔を上げる様子を見せない。それどころか、頭の先を地面に沈めるくらいの勢いで尚も謝り続ける。
 ソルフィオーラは困り顔でノクスの方を見上げた。彼もブルームの様子にため息を吐いていたが止めようとはしない。目が合って呆れ混じりな微笑みを向けられる。
 そういえばノクスはブルームの幼馴染だった。この時の彼の微笑みにブルームの友人としての気遣いが垣間見えた。
 ────そのまま話を聞いてやって欲しい、そう言われた気がしてソルフィオーラは冷静になり慌てたままのエルの腕をそっと掴んだ。

「……奥様?」

 困惑した黒の双眸にソルフィオーラが映る。その瞳をじっと見つめ返し、黙って小さく微笑んだ。
 ソルフィオーラの微笑みを受けてエルは僅かの間瞠目していた。彼女の表情から戸惑いが少し消える。
 続いて彼女はブルームの背後に立つノクスに眼差しを向けた。ノクスが静かに頷いて、ようやくエルはブルームの行為を受け入れることにしたようだ。
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