ままならぬ太陽に月はじれったい ―冷徹眼鏡公爵とツンデレ伯爵令嬢の不器用な結婚―

蒼凪美郷

文字の大きさ
上 下
39 / 64

24.駆ける太陽、駆け付ける月②

しおりを挟む
「エル、貴女だけでも……先に逃げてちょうだい」
「いいえ、なりません」
「いいの。……も、もしかしたら、身代金目的かもしれないわ。だ、だからわたくしが人質として、の、残れば……」
「────馬鹿なことを仰らないでください!」

 振り返ったエルに両手を握り締められる。
 カタカタと震え合う華奢な手をソルフィオーラもぎゅっと握り返した。
 真正面から彼女と見つめ合う。恐怖に震えている筈なのに、エルの眼差しは力強い意志に溢れていた。

は、旦那様に誓ったのです。この身を賭してでも、生涯お嬢様を守り抜くと……!」

 ────自分でも馬鹿なことを言っているとは思った。

 身代金目的だとしても、人質が無事な保障はない。すでに相手の仲間を数人倒してもいるのだ。捕まったら酷い目に遭わされることなんて容易く想像できる。
 とても恐ろしい……恐ろしいがそれでも自身が残ってエルが助かるなら────そう思ったのだ。
 震えながらも力強く握り締める手と凛々しい眼差しに圧され、ソルフィオーラは何も言えなくなった。

「だから、さあ……早く!」

 故に、もう一度向けられた背中に頼るしか出来ない。
 涙の滲みだした目を擦りソルフィオーラはエルの背に身を預けた。

「……そばに、いて。エル……ずっと……」

 死なないで、と思いを込めた呟きを細く逞しい背中に落とす。
 足手まといでしか無い自分には願う事しか出来ないが。

「大丈夫、です……。自分が、必ず……!」

 多少よろけながらも、ソルフィオーラを背負いエルは立ち上がった。
 その背に受けた願いに応えるように。
 そのままエルは一歩一歩と踏み出していくが、その速度は到底早いとは言えなかった。

「大丈夫、……大丈夫……」

 そう繰り返すエルの声は自分自身に言い聞かせているようだった。
 青褪めながらも真っ直ぐ前を見据えるエルの横顔に、ふき取ったはずの涙が流れ落ちる。ソルフィオーラは震える肩を抱き締め、目を閉じ願った。

(ああ、お願い……誰か)

「ヒャッハハ! 追いついちまった!」
「もーう、逃がさないぜぇ……!」

 目の前と背後から聞こえてきた男の声がソルフィオーラの願いを断ち切った。
 エルの足がピタリと止まる。
 続いてザッザッと地面を踏み鳴らす音が聞こえ、ソルフィオーラは目を開けた。

「…………ッ!」
「へへっ、オレらからここまでよく逃げたモンだ。女みてーな顔して、やるなぁあんちゃん」

 馬車を襲った賊たちの頭領と思われる大柄の男だった。ソルフィオーラたちが最初に出会った相手だ。
 大柄な男のニヤついた瞳がまっすぐエルに向かう。その手には刃幅の広い剣があった。
 ソルフィオーラたちは完全に行く手を阻まれてしまっていた。前と後ろを追い掛けてきた二人とその間に立つように現れた大男に三方向を塞がれ、ジリジリと太い木の下へと追い詰められる。
 背が木の幹に触れたところで、ソルフィオーラはエルから降ろされた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
【本編完結・番外編不定期更新】 エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

処理中です...