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23.沈む月②
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「…………」
職員たちが作業する音や声を背後に無言で階段を上がる。
二階で主に仕事をしているのはブルームなので、階段を昇りきると一気に静寂さを増す。
背中に突き刺さるノクスの視線を受けながら一階と同じ青い絨毯の上を進む。
一番南側にある執務室に入ったところで沈黙は破られた。
「……今朝屋敷を出て行ったよ」
「……そうか」
誰が、とは聞かなかった。聞くまでもないから。
ソルフィオーラが出て行った事実に胸が苦しくなる。昨日の今日で早速の行動……彼女が受けたショックは余程のものだったということだ。
自分はその事実を受け入れるべき。醜い嫉妬に動かされて妻の大切な人を傷つけたのだから。
────そう、頭では分かっているのだが。
(……辛いな)
執務机に置かれた書類の束から一枚手に取り目を通そうとしても、内容が頭に入ってこない。
目はそこに向いているのに意識だけが向かない。
読み取った文字は全て意識の彼方に通り抜けて、頭に残らない。
あんなにも恋焦がれた太陽が、自分のもとを去った。自業自得だとしても、その事実はやはりショックだった。
「ねぇ、ブルーム。どうしてあんなことしたんだい?」
「…………それは」
口内で続きの言葉が消えていく。
醜い嫉妬に動かされた、と正直に告げたら流石にノクスも呆れるかもしれない。……もう呆れられているかもしれないが。
長年傍で仕えてくれた幼馴染までいなくなったら、立ち直れそうにない。そう思ったらブルームは黙る事しか出来なかった。
しかし、その後のノクスの言葉でだんまりは続けられなかった。
「エルさんと奥様のことはブルームも予め知っていただろう?」
「……予め知っていた?」
何の事だろうか。ノクスの発言にピンと来ないブルームは眉を顰めた。
本来はあり得ない事柄。一介の騎士、しかも異性が令嬢の嫁ぎ先についてきた。そしてその騎士は令嬢の傍に侍り身支度まで手伝っている。
自分を差し置いて二人の事情をノクスは知っていたというのか。だというのなら何故教えてくれなかったのか。
不可解さに眉間の皺も深まるがノクスもまたブルームの反応に首を傾げていたので、つられてブルームも首を傾げる。
「……ノクス?」
「……もしかして、知らない?」
執務室に二人分の声が重なって落ちる。
「知らないって、何をだ?」
「……手紙が、あっただろう?」
「手紙……?」
ブルームの返しに、ノクスは言葉を失ったようだ。ぽかーんと口を開けて呆ける様子は珍しい。
いや、そういえばこの前も見た気がする。まだ童貞であることを告げた時もこんな表情をしていた。そんなことを思い出している場合ではないのだが。
「え? ……え? う、うそでしょ……?」
そうしてあの時のように我に返ったノクスの声には明らかな動揺が滲んでいた。
職員たちが作業する音や声を背後に無言で階段を上がる。
二階で主に仕事をしているのはブルームなので、階段を昇りきると一気に静寂さを増す。
背中に突き刺さるノクスの視線を受けながら一階と同じ青い絨毯の上を進む。
一番南側にある執務室に入ったところで沈黙は破られた。
「……今朝屋敷を出て行ったよ」
「……そうか」
誰が、とは聞かなかった。聞くまでもないから。
ソルフィオーラが出て行った事実に胸が苦しくなる。昨日の今日で早速の行動……彼女が受けたショックは余程のものだったということだ。
自分はその事実を受け入れるべき。醜い嫉妬に動かされて妻の大切な人を傷つけたのだから。
────そう、頭では分かっているのだが。
(……辛いな)
執務机に置かれた書類の束から一枚手に取り目を通そうとしても、内容が頭に入ってこない。
目はそこに向いているのに意識だけが向かない。
読み取った文字は全て意識の彼方に通り抜けて、頭に残らない。
あんなにも恋焦がれた太陽が、自分のもとを去った。自業自得だとしても、その事実はやはりショックだった。
「ねぇ、ブルーム。どうしてあんなことしたんだい?」
「…………それは」
口内で続きの言葉が消えていく。
醜い嫉妬に動かされた、と正直に告げたら流石にノクスも呆れるかもしれない。……もう呆れられているかもしれないが。
長年傍で仕えてくれた幼馴染までいなくなったら、立ち直れそうにない。そう思ったらブルームは黙る事しか出来なかった。
しかし、その後のノクスの言葉でだんまりは続けられなかった。
「エルさんと奥様のことはブルームも予め知っていただろう?」
「……予め知っていた?」
何の事だろうか。ノクスの発言にピンと来ないブルームは眉を顰めた。
本来はあり得ない事柄。一介の騎士、しかも異性が令嬢の嫁ぎ先についてきた。そしてその騎士は令嬢の傍に侍り身支度まで手伝っている。
自分を差し置いて二人の事情をノクスは知っていたというのか。だというのなら何故教えてくれなかったのか。
不可解さに眉間の皺も深まるがノクスもまたブルームの反応に首を傾げていたので、つられてブルームも首を傾げる。
「……ノクス?」
「……もしかして、知らない?」
執務室に二人分の声が重なって落ちる。
「知らないって、何をだ?」
「……手紙が、あっただろう?」
「手紙……?」
ブルームの返しに、ノクスは言葉を失ったようだ。ぽかーんと口を開けて呆ける様子は珍しい。
いや、そういえばこの前も見た気がする。まだ童貞であることを告げた時もこんな表情をしていた。そんなことを思い出している場合ではないのだが。
「え? ……え? う、うそでしょ……?」
そうしてあの時のように我に返ったノクスの声には明らかな動揺が滲んでいた。
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