ままならぬ太陽に月はじれったい ―冷徹眼鏡公爵とツンデレ伯爵令嬢の不器用な結婚―

蒼凪美郷

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22.傷ついた太陽③

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「……皆、わたくしのことをまるで太陽のようだと言うけれど、……ちっとも太陽なんかじゃありませんわ。少なくとも、ブルーム様の前で太陽──自分らしく振る舞えていないもの」

 ソルフィオーラ自身、性格は明るい方だと認識していた。
 読んだ本に一喜一憂しては通りかかった侍女の手を止めさせて感想を熱く語ってみせたり(その度にエルに嗜められていたが最終的にはエルが聞き役になってくれていた)。
 ブルームと初めて出会った夜もそうだった。幼い頃から愛読している『魔法の剣と青い月』を彼も読んでいたと知り、好きなシーンについて一方的に語ってしまったのを覚えている。

 ブルームはこの時のソルフィオーラに恋をしたのだ。
 今の自分はあの時彼が恋をしたソルフィオーラとは程遠い。

「……わたくし、ブルーム様を不安にさせてしまったのね。恋した相手が以前と様子が違って、気持ちが不安定になってしまう恋人たちのお話を読んだことがありますもの」

 そしてソルフィオーラは未だに自分の想いをブルームに伝えていない。

 好き。
 愛しています。

 夜を共にする度にそう想っていたが、口に出すには勇気が足りなかった言葉たち。
 図書館デートの時のように、もっと早く、もっと早く一歩を踏み出せていたらきっとこんなことにはならなかった。

『本当によろしいのですか?』

 脳裏に再生されるエルの声。
 ────よろしい訳がない。
 今ならまだ引き返せる。

「ちゃんと想いを伝えずして逃げるなんて……乙女の恥ですわ……っ!」

 ハンカチで涙を拭い力強く言い放つと、エルはきょとんとした後クスクスと笑い始めた。

「……もう、エル。なぜ笑うのかしら?」
「フフッ、申し訳ございません。恋するお嬢様だったあの頃のようで、お可愛らしく思いましてつい」
「……まあ」

 エルの返答にぽっと頬が熱くなった。
 この流れに既視感を覚える。似たようなやり取りを最近した覚えがあるような。
 熱くなった頬を押さえてエルを見やれば、クスクス笑いが止まり今度は柔らかな微笑みが向けられた。

「────ちゃんと想いを伝えられそうですね。今の奥様ならきっと大丈夫です」
「……ええ、きっと。ううん、絶対」

 素直に頷き返す。
 自然と表情が緩み、自分は今微笑んでいるのだと感じる。
 あんなにぐるぐるぐちゃぐちゃしていた頭が今はすっきりしている。
 もう迷いはなくなった。自然と微笑むことが出来たのがその証拠だ。
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