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21.燃える月③
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「……くっ!」
やがて柄を握り締めるエルの手が反動で緩むのが見えた。
ブルームがその隙きを見逃す訳が無かった。渾身の力を込めたとどめの一撃を放つ。
「────ハッ!」
「……っあ!」
ギャラリーから感嘆のどよめきが上がった。
弾き飛ばされた剣がくるくると回りながら弧を描いて落ちていく。
剣を弾かれた反動でエルの身体が傾いだ。
少し離れた地面に突き刺さったのとほぼ同時に彼は倒れ、ブルームはエルの白い喉元ぎりぎりへ剣先を突きつけた。
────勝負有り、だ。
見守っていた観衆から大きな拍手が上がる。
剣を下ろし、ブルームは観衆の中に愛しい妻の姿を探し始める。
剣技を披露するのはこれで二度目だが、自分の勇姿を見ていてくれただろうか。
青年が情けなく敗北した姿を見て、何を思っただろうか。
(これで、ソフィーもきっと……)
しかし、全ては予想通りには進まない。
「エル!!」
悲痛な面持ちのソルフィオーラがギャラリーから飛び出して来て、無様に地面に手をつくエルの元へと駆け寄った。
青空のような瞳は涙を浮かべ、彼へ視線を注ぐ。心から気遣っているような眼差しだった。
「ああ、エル……!」
「お、奥様……! 大丈夫ですから……!」
「怪我は? 怪我はしていない……っ?」
信じられないことにソルフィオーラはエルの顔や身体をペタペタと触りだした。ブルームが見ている目の前で。
(何故だ、ソフィー……!)
怪我の有無を確認しているようだが、どうしてそこまでするのかが理解できない。
十年の月日を共にしているとはいえ、男の身体に気軽に触れるなど。
やはりソルフィオーラは彼を愛しているのだと思ってしまう。その証拠にソルフィオーラはブルームには目もくれないでエルを心配し続けている。
ブルームには分からない二人だけの物語がきっとあったのだ。二人の絆を感じる光景に何かが砕けるような感覚がする。ガラガラと音を立てて心の中で何かが崩れていく。
人はその感覚を“失恋”と呼ぶのだが、初恋を経験したばかりのブルームの脳内辞書にはまだその単語はなかった。
やがて柄を握り締めるエルの手が反動で緩むのが見えた。
ブルームがその隙きを見逃す訳が無かった。渾身の力を込めたとどめの一撃を放つ。
「────ハッ!」
「……っあ!」
ギャラリーから感嘆のどよめきが上がった。
弾き飛ばされた剣がくるくると回りながら弧を描いて落ちていく。
剣を弾かれた反動でエルの身体が傾いだ。
少し離れた地面に突き刺さったのとほぼ同時に彼は倒れ、ブルームはエルの白い喉元ぎりぎりへ剣先を突きつけた。
────勝負有り、だ。
見守っていた観衆から大きな拍手が上がる。
剣を下ろし、ブルームは観衆の中に愛しい妻の姿を探し始める。
剣技を披露するのはこれで二度目だが、自分の勇姿を見ていてくれただろうか。
青年が情けなく敗北した姿を見て、何を思っただろうか。
(これで、ソフィーもきっと……)
しかし、全ては予想通りには進まない。
「エル!!」
悲痛な面持ちのソルフィオーラがギャラリーから飛び出して来て、無様に地面に手をつくエルの元へと駆け寄った。
青空のような瞳は涙を浮かべ、彼へ視線を注ぐ。心から気遣っているような眼差しだった。
「ああ、エル……!」
「お、奥様……! 大丈夫ですから……!」
「怪我は? 怪我はしていない……っ?」
信じられないことにソルフィオーラはエルの顔や身体をペタペタと触りだした。ブルームが見ている目の前で。
(何故だ、ソフィー……!)
怪我の有無を確認しているようだが、どうしてそこまでするのかが理解できない。
十年の月日を共にしているとはいえ、男の身体に気軽に触れるなど。
やはりソルフィオーラは彼を愛しているのだと思ってしまう。その証拠にソルフィオーラはブルームには目もくれないでエルを心配し続けている。
ブルームには分からない二人だけの物語がきっとあったのだ。二人の絆を感じる光景に何かが砕けるような感覚がする。ガラガラと音を立てて心の中で何かが崩れていく。
人はその感覚を“失恋”と呼ぶのだが、初恋を経験したばかりのブルームの脳内辞書にはまだその単語はなかった。
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