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21.燃える月①
しおりを挟む日々の鍛錬を欠かしていないのはブルームも同じであった。
家に帰れなくても絶対に愛用の剣を持っていくのを忘れない。
シンプルな装飾が施された鞘から剣を抜く。
銀色の刃に天辺から少し下り始めた陽射しが反射して、ブルームはその眩しさに目を細めた。
小粒のサファイアが嵌め込まれた柄を握りしめて構え、視線は前へ。
ブルームの正面にはエルが立っている。
愛しい妻を護衛する青年。ブルームと同じように腰に携えた鞘から剣を抜き構えたところだった。
距離を保ち互いに剣先を向け合う。
凛々しい黒の眼差しは真剣だった。
(真剣なのはこちらも同じ。軟弱そうな男に、ソフィーを任せたりするものか……ッ!)
ブルームを突き動かした感情の名は────嫉妬。
しかしブルームにその自覚は無い。
領民や部下たちが見守る中、不安そうな表情を浮かべるソルフィオーラの姿を見つける。
「一切、手は抜かない。私を斬るつもりで、本気でかかってこい」
────時は少しだけ遡る。
◆
「奥様の──エルさんでしたか? とてもお強いそうですね」
燻っていた火に油が注がれたのは、部下の何気ない一言がきっかけだった。
ぬるくなったスープをちまちまと口にしていたブルームの手が止まる。指から滑り落ちてスプーンが器の中に落ちた。
「……何?」
「今奥様のお隣にいらっしゃるのがエルさんですよね?」
食事の最中、時々ちらちらと盗み見ていた妻の姿。
自分と同じ気持ちだと思っていたのに返って来た言葉が予想とは違ったために少しばかり落胆したブルームは、何となく気まずさに襲われてソルフィオーラから離れた所で食事を摂っていた。
部下の言葉にソルフィオーラの方へ目を向ければ、彼の言う通り妻の隣には見目麗しい青年が立っていた。
偶然にもソルフィオーラもこちらを見ていたのかバチッと視線が交わるが、それも一瞬のことで彼女の方から思い切り逸らされてしまった。
まるで目も合わせたくないと言わんばかりに。
会えなかった時間と気持ちのすれ違いは、容易く心に影を落とす。愛しい妻の姿を一目見れてとても嬉しかった筈なのに。
(……どうしてだろうか)
目を逸らされた一瞬は決定打となった。嬉々としていた感情は全て影に飲み込まれてぐるぐると渦巻き始める。
隣で部下が何か話し続けているがブルームの耳に入ってこない。
(私との結婚は、やはり本意ではなかったというのか……?)
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