ままならぬ太陽に月はじれったい ―冷徹眼鏡公爵とツンデレ伯爵令嬢の不器用な結婚―

蒼凪美郷

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19.月の機嫌 ③

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「ブルームさま。その……突然お伺いして、すみません。わたくし、その……」

 てけてけとソルフィオーラが歩み寄ってきて、もじもじと話し掛ける。
 ちらちらとブルームの方を窺いながら。

 可愛い。
 とても可愛い。
 抱き締めたい衝動に駆られるが、ここは人前。公衆の面前。ブルームはなんとか堪えて、妻の言葉を待つ。

「わたくし、ブルームさまに……その。あ、あ……あ……」

 何か伝えたいことがあるような素振り。
 もしかして、という希望がブルームの中に生まれる。

(ソフィーも私に会いたかったのか……?)

 突然の来訪にとても驚いたが、もしそうなのだとしたらそれはとても喜ばしいことである。
 何故なら、愛しい妻も自分と同じ思いだったということになるからだ。
 つまり、彼女もブルームのことを好いている。
 ブルームの一方通行ではない。両思いなのだ。

「あ、あ……」

 息を飲んで、ブルームはその言葉が放たれるのを待った。
 ノクスだけでなく領民たちまで自分たちの様子を見守っていることにも気付かず、二人の世界の中でちらちらと見つめ合う。

 ぱくぱくと空回りする薄紅のくちびる。
 それがすぅっと大きく息を吸った後、それはようやく放たれた。

(さあ、私に会いたかったと……言ってくれソフィー!)

「────たたかい食事を、お、お届けしたかったのです!」
「私もだソフィー………………む?」

 そのつもりで言葉を返したブルームだったが、噛み合っていない。

「……あたたかい、食事?」
「あ、えと、……はい、そうですわ!」

 聞き返したブルームにソルフィオーラはぶんぶんと頷いて返す。
 告げられた言葉と想像した言葉。合っていたのは頭文字だけであった。

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