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愛に鳴き続ける
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ボスコ族にとってもっとも大切にされている存在大いなる精霊。木の間から差し込む太陽光に照らされ変わらず神々しい姿だ。
大地にしっかりと根を張り、結界のように大きく大きく葉を広げ我らボスコ族を見守ってくれている。
神聖な場所に、三人の姿があった。
一人は胸元に族長の証である紋様を刻んだ黒髪の青年。
残るボスコ族の若き男女。どちらもまだ幼さを残した顔立ちをしてはいるが、つい先日成人したばかりの二人だ。七日後に婚姻の儀を行い夫婦となる。
今日は婚姻の儀の前に、大いなる精霊へ夫婦となることを約束する『誓約の儀』のためこの場所を訪れていた。
必ず夫婦となり、惜しみない愛を注ぐこと。
婚姻の儀までの七日間離れて暮らすことになる二人が、変わらぬ想いと互いが健やかに過ごせるよう祈りを捧げる。
そして、自分の代わりに相手を、相手の代わりに自分を守るよう互いの精霊を交換するのだ。
膝を折り大樹へ祈りを捧げていた二人が立ち上がり、向かい合う。
オルトゥルスはそれに合わせて声を掛けようとする。
「次に、精霊を……」
「――――……ぁあっ」
……が、どこかから響いた鳴き声に言葉を切った。
少し遠いが、確かに聞こえた。というか、今もほんのり小さな鳴き声が耳に入ってくる。
オルトゥルスは辺りを見回し――――ある一点に目を止めて、改めて若い二人に向き直った。
若い男女の耳には届いていないようで、不自然に言葉を切ったオルトゥルスを不思議そうに眺めている。
オルトゥルスはコホンと一つ咳ばらいをする。
「次に、精霊交換だ。言葉は分かるな?」
そして何事もなかったように再開した。
頭には先ほど遠目に捉えた兄夫婦の姿を思い返して。
(……ハッ、やっぱり兄弟だな)
自分には『よくやるな』と呆れた言葉を投げかけていたくせに。母は違えど、自分たち二人は間違いなく兄弟だと思う。
(お前らこそ、よくやるよ……)
重なり合うようにあそこにいた兄夫婦へ。
オルトゥルスは胸中で呆れの呟きを漏らした。
◆
「あっ、アんっ…、まっ、て……ひァッ! まって、ばると……っ!」
大樹が遠くに見える木の上で、にちゃにちゃと淫猥な水音が響く。ヒューレシアは木の幹に背を預け漏れ出てしまう嬌声を必死に抑えるが敵わず、与えられる刺激に震えていた。短くなった紅の髪が汗でぺたりと頬に張り付く。
――――ああ、絶対に聞こえている。間違えなく聞こえている。
(だって、目合った……!)
「まって、まっ……ひぁっ、あっ、ぁン…アアッ!」
制止の声をかけても、聞こえているのかそれともわざと聞こえないふりをしているのかお構いなしに貪られる。バルトゥルスの舌が快感に膨らんだ肉芽を突いて、震えが最高潮に達した。
どぷりと蜜が垂れて、ヒューレシアは空まで響きそうなほどの甘い悲鳴を上げた。絶頂で膝がガクガクと震える。
崩れ落ちそうなヒューレシアの足を膝の裏から掬い上げ、バルトゥルスがたっぷりの潤いに溢れたそこへ硬い熱を添え一気に突き入れた。
「ひぁあっ…! ばる、ばるとぅるすぅ……っ」
「ヒュー、シャ……っく、締まるな……ッ!」
侵入する感覚にバルトゥルスが呻く。
だがそれも一瞬のこと、すぐに動き始めた。
狭い木の上で足場もギリギリに激しく交わる音が響く。
(……一体どうして、こんな場所でこんなことしてるんだっけ……っ?)
快楽に思考が飲まれていく中、ヒューレシアはぼんやりと思い返す。
今日は成人したばかりの男女が誓いの儀をやると聞いて見に来たのだ。昔、バルトゥルスと約束を交わしたこの場所で。
遠目で確認できる儀式。族長に先導され若い二人が大いなる精霊の前で誓い合う。
数年前に見たもの。そしてつい一年前に自分たちが行ったもの。懐かしさが込み上げて話していたらなんだかいい雰囲気になって――――
「っ、ヒューシャ……!」
「んアッ、あっ、ああっ! そ、んな、はげし……きこえ、ちゃうよ……おぉっ!」
「…そ、んな可愛い声……もっと、聞かせたらいい……ッ」
「ぜった…もぅ、きかれて、る……ゥンあっ!!」
こうなった。
ぐしょぐしょに濡らされて、ちょっとだけのつもりが止まらなくなって。
ねっとりと蕩かされて、最初の絶頂でつい大きな声が出てしまった。ちらりと大樹の方を見やれば、オルトゥルスがこちらを見て動きを止めていた。だから、間違いなくオルトゥルスは気付いている。
ここで自分たちが交じり合っていることに。
「ひぁっ、アッ、ああっ……ん、あ、ぅああッ」
だがヒューレシアは声を堪えることが出来なかった。
こんな開放的な場所でするのは何も初めてではない。
「婚姻の…儀で、もう、ヒューシャの声は聞かれている……だろう…っ」
「ん、んぅっ、…そ、そう、だけど……んあっあん!」
「……ヒューシャ、っ、そろ、そろ……っく!」
バルトゥルスの腰を打ち付けてくる速度が上がる。
ぱんぱんと激しく強く打ち付けられて、ヒューレシアは何も考えられなくなった。
ああ、意識が白に飲まれていく。
もう何度も何度も味わった感覚が全身を巡る。
「――――っぁあ、アッ、ああああ……っ!」
甘い悲鳴が木霊する。
一年前に行われた二人の婚姻の儀でもこんな風に啼いたことをヒューレシアは思い出す。
婚姻の儀、――――それはボスコ族の皆に二人の愛を証明するための儀式。
集落の反対側に、婚姻の儀のために作られた専用の広場があった。
屋根の高い小屋を中心に十メートルほどの距離を取ってぐるりと足場が作られた円形の広場だ。
儀式は夜に行われるため、参列するのは成人のみ。
小屋を見守るようにぐるりと立ち並ぶ参列者の前で、夫婦となる二人は小屋へと入る。
小屋といっても、その建物には壁というものは無い。そこにあるのは寝台だけ。
屋根から樹皮で作られた天幕が下ろされると、証明の時間となる。
愛し合うのだ。ボスコ族の者たちに見守られている前で。
ヒューレシアがそれを知ったのは儀式の直前のことだった。
あの日は心臓バクバクで、がっちがちに身を硬くしていたがバルトゥルスに絆され、なんとか乗り切った。
もう二度とあんな開放的にする事なんてないと思って。
「ハァ…はぁ、も……バルトゥルス、夫婦になってから、やらしくなった…」
「ヒューシャが可愛いから」
乱れた息を整えながら言えば、ずるりと引き抜かれながらバルトゥルスがけろりと返す。
やっと夫婦になれた二人だ。互いに愛おしさが一段と大きくなったようで、婚姻の儀以来自然と人前でイチャつくようになってしまった。それこそあの日見たオルトゥルスと双子のように。まあさすがに事に及ぶときは今のように多少人目を忍んだ場所を選んではいるが。
しかしヒューレシアは然程悪い気はしなかった。相変わらず恥ずかしくはあるが。何よりもバルトゥルスと触れ合えるのがとても嬉しいのだ。
成人を前に離れ離れとなり、六年を経てようやく結ばれ、何度も数え切れないくらい愛し合った。むしろ毎日してるんじゃないかというくらい、こうしてバルトゥルスと抱き合っているような気がする。
とても、とても幸福感に包まれた毎日。
「ヒューシャ」
「……んっ」
バルトゥルスの大きな身体にすっぽりと収まると、汗の混じった彼の匂いがする。この匂いを感じる瞬間がたまらなく好きだ。ぽっと温かいものに包まれた気がして、ものすごく幸せだと感じる。
バルトゥルスの背中に手を回せば頭に口づけを落とされる。傷があるから少し凸凹している。あれからもう彼が熊の毛皮を被ることは無くなった。
上を向いて黒曜石の瞳と向き合えば、唇に触れられる。そしてキスが降る。
「ヒューシャ、好きだ」
「私も、好きだよ。バルトゥルス」
愛を囁き合って、唇で触れ合う。
そろそろと手が登ってきて、短いヒューレシアの髪を撫でられる。
婚姻の儀のあと、ヒューレシアは髪を切った。奴隷でいた六年、ずっと手入れも何もできず伸びっぱなしで髪はすっかり傷んでいた。いっそばっさり切って、改めて伸ばすことに決めた。伸びきって同じくらいの長さになった頃には、今に負けないくらいの絆が作られていると信じて。
「…ンッ、んぅ……」
空いた唇の隙間からくぐもった嬌声が漏れ出る。
優しく髪を撫でていた手はいつの間にかヒューレシアの胸にあった。頂をくりと捏ねられて、一度発散された熱が身体の最奥で再燃されたのを感じる。
「――ッは、もぅ、またするの……?」
「ヒューシャが可愛いから」
バルトゥルスは何度もそう言う。いつも優しく微笑んで言ってくる彼の顔は本当に幸せそうで……なんだかんだ文句を言いつつ最終的には許してしまう自分である。
婚姻の儀の時にしろ、普段にしろ、今にしろ。結局、彼といられるならどこでもいいのだ。羞恥より、一緒にいられる幸福が私たちの最優先事項。
いつかきっと自分たち夫婦のもとにやってくるだろう命を最高の状態で迎え入れるために、何度でも愛し合って絆を深める。
自分のように小さな子になるか、バルトゥルスのように『熊』となるか。
どっちでもいい。きっと間違いなくいとおしい存在だから。
「…ッア、あん、ばる、ばるとぅるす……ッ!」
「ッ、ヒュー、シャ…―ヒューシャ…ッ」
胎内で熱が弾ける。熱い飛沫が奥にじんわりと染み込むのを感じて、ヒューレシアは甘い悲鳴を上げた。
声が空で反射して、森の中で木霊する。
木の上で愛し合う獣が二匹。小さな熊に大きな熊が被さって、あまりに激しい愛に葉がカサカサと揺れる。
誓いの儀を終え呆れた様子のオルトゥルスが茶化しにくるまで、葉擦れの音はやまず。
最上の幸福感に包まれて、熊たちは愛に鳴き続けた。
大地にしっかりと根を張り、結界のように大きく大きく葉を広げ我らボスコ族を見守ってくれている。
神聖な場所に、三人の姿があった。
一人は胸元に族長の証である紋様を刻んだ黒髪の青年。
残るボスコ族の若き男女。どちらもまだ幼さを残した顔立ちをしてはいるが、つい先日成人したばかりの二人だ。七日後に婚姻の儀を行い夫婦となる。
今日は婚姻の儀の前に、大いなる精霊へ夫婦となることを約束する『誓約の儀』のためこの場所を訪れていた。
必ず夫婦となり、惜しみない愛を注ぐこと。
婚姻の儀までの七日間離れて暮らすことになる二人が、変わらぬ想いと互いが健やかに過ごせるよう祈りを捧げる。
そして、自分の代わりに相手を、相手の代わりに自分を守るよう互いの精霊を交換するのだ。
膝を折り大樹へ祈りを捧げていた二人が立ち上がり、向かい合う。
オルトゥルスはそれに合わせて声を掛けようとする。
「次に、精霊を……」
「――――……ぁあっ」
……が、どこかから響いた鳴き声に言葉を切った。
少し遠いが、確かに聞こえた。というか、今もほんのり小さな鳴き声が耳に入ってくる。
オルトゥルスは辺りを見回し――――ある一点に目を止めて、改めて若い二人に向き直った。
若い男女の耳には届いていないようで、不自然に言葉を切ったオルトゥルスを不思議そうに眺めている。
オルトゥルスはコホンと一つ咳ばらいをする。
「次に、精霊交換だ。言葉は分かるな?」
そして何事もなかったように再開した。
頭には先ほど遠目に捉えた兄夫婦の姿を思い返して。
(……ハッ、やっぱり兄弟だな)
自分には『よくやるな』と呆れた言葉を投げかけていたくせに。母は違えど、自分たち二人は間違いなく兄弟だと思う。
(お前らこそ、よくやるよ……)
重なり合うようにあそこにいた兄夫婦へ。
オルトゥルスは胸中で呆れの呟きを漏らした。
◆
「あっ、アんっ…、まっ、て……ひァッ! まって、ばると……っ!」
大樹が遠くに見える木の上で、にちゃにちゃと淫猥な水音が響く。ヒューレシアは木の幹に背を預け漏れ出てしまう嬌声を必死に抑えるが敵わず、与えられる刺激に震えていた。短くなった紅の髪が汗でぺたりと頬に張り付く。
――――ああ、絶対に聞こえている。間違えなく聞こえている。
(だって、目合った……!)
「まって、まっ……ひぁっ、あっ、ぁン…アアッ!」
制止の声をかけても、聞こえているのかそれともわざと聞こえないふりをしているのかお構いなしに貪られる。バルトゥルスの舌が快感に膨らんだ肉芽を突いて、震えが最高潮に達した。
どぷりと蜜が垂れて、ヒューレシアは空まで響きそうなほどの甘い悲鳴を上げた。絶頂で膝がガクガクと震える。
崩れ落ちそうなヒューレシアの足を膝の裏から掬い上げ、バルトゥルスがたっぷりの潤いに溢れたそこへ硬い熱を添え一気に突き入れた。
「ひぁあっ…! ばる、ばるとぅるすぅ……っ」
「ヒュー、シャ……っく、締まるな……ッ!」
侵入する感覚にバルトゥルスが呻く。
だがそれも一瞬のこと、すぐに動き始めた。
狭い木の上で足場もギリギリに激しく交わる音が響く。
(……一体どうして、こんな場所でこんなことしてるんだっけ……っ?)
快楽に思考が飲まれていく中、ヒューレシアはぼんやりと思い返す。
今日は成人したばかりの男女が誓いの儀をやると聞いて見に来たのだ。昔、バルトゥルスと約束を交わしたこの場所で。
遠目で確認できる儀式。族長に先導され若い二人が大いなる精霊の前で誓い合う。
数年前に見たもの。そしてつい一年前に自分たちが行ったもの。懐かしさが込み上げて話していたらなんだかいい雰囲気になって――――
「っ、ヒューシャ……!」
「んアッ、あっ、ああっ! そ、んな、はげし……きこえ、ちゃうよ……おぉっ!」
「…そ、んな可愛い声……もっと、聞かせたらいい……ッ」
「ぜった…もぅ、きかれて、る……ゥンあっ!!」
こうなった。
ぐしょぐしょに濡らされて、ちょっとだけのつもりが止まらなくなって。
ねっとりと蕩かされて、最初の絶頂でつい大きな声が出てしまった。ちらりと大樹の方を見やれば、オルトゥルスがこちらを見て動きを止めていた。だから、間違いなくオルトゥルスは気付いている。
ここで自分たちが交じり合っていることに。
「ひぁっ、アッ、ああっ……ん、あ、ぅああッ」
だがヒューレシアは声を堪えることが出来なかった。
こんな開放的な場所でするのは何も初めてではない。
「婚姻の…儀で、もう、ヒューシャの声は聞かれている……だろう…っ」
「ん、んぅっ、…そ、そう、だけど……んあっあん!」
「……ヒューシャ、っ、そろ、そろ……っく!」
バルトゥルスの腰を打ち付けてくる速度が上がる。
ぱんぱんと激しく強く打ち付けられて、ヒューレシアは何も考えられなくなった。
ああ、意識が白に飲まれていく。
もう何度も何度も味わった感覚が全身を巡る。
「――――っぁあ、アッ、ああああ……っ!」
甘い悲鳴が木霊する。
一年前に行われた二人の婚姻の儀でもこんな風に啼いたことをヒューレシアは思い出す。
婚姻の儀、――――それはボスコ族の皆に二人の愛を証明するための儀式。
集落の反対側に、婚姻の儀のために作られた専用の広場があった。
屋根の高い小屋を中心に十メートルほどの距離を取ってぐるりと足場が作られた円形の広場だ。
儀式は夜に行われるため、参列するのは成人のみ。
小屋を見守るようにぐるりと立ち並ぶ参列者の前で、夫婦となる二人は小屋へと入る。
小屋といっても、その建物には壁というものは無い。そこにあるのは寝台だけ。
屋根から樹皮で作られた天幕が下ろされると、証明の時間となる。
愛し合うのだ。ボスコ族の者たちに見守られている前で。
ヒューレシアがそれを知ったのは儀式の直前のことだった。
あの日は心臓バクバクで、がっちがちに身を硬くしていたがバルトゥルスに絆され、なんとか乗り切った。
もう二度とあんな開放的にする事なんてないと思って。
「ハァ…はぁ、も……バルトゥルス、夫婦になってから、やらしくなった…」
「ヒューシャが可愛いから」
乱れた息を整えながら言えば、ずるりと引き抜かれながらバルトゥルスがけろりと返す。
やっと夫婦になれた二人だ。互いに愛おしさが一段と大きくなったようで、婚姻の儀以来自然と人前でイチャつくようになってしまった。それこそあの日見たオルトゥルスと双子のように。まあさすがに事に及ぶときは今のように多少人目を忍んだ場所を選んではいるが。
しかしヒューレシアは然程悪い気はしなかった。相変わらず恥ずかしくはあるが。何よりもバルトゥルスと触れ合えるのがとても嬉しいのだ。
成人を前に離れ離れとなり、六年を経てようやく結ばれ、何度も数え切れないくらい愛し合った。むしろ毎日してるんじゃないかというくらい、こうしてバルトゥルスと抱き合っているような気がする。
とても、とても幸福感に包まれた毎日。
「ヒューシャ」
「……んっ」
バルトゥルスの大きな身体にすっぽりと収まると、汗の混じった彼の匂いがする。この匂いを感じる瞬間がたまらなく好きだ。ぽっと温かいものに包まれた気がして、ものすごく幸せだと感じる。
バルトゥルスの背中に手を回せば頭に口づけを落とされる。傷があるから少し凸凹している。あれからもう彼が熊の毛皮を被ることは無くなった。
上を向いて黒曜石の瞳と向き合えば、唇に触れられる。そしてキスが降る。
「ヒューシャ、好きだ」
「私も、好きだよ。バルトゥルス」
愛を囁き合って、唇で触れ合う。
そろそろと手が登ってきて、短いヒューレシアの髪を撫でられる。
婚姻の儀のあと、ヒューレシアは髪を切った。奴隷でいた六年、ずっと手入れも何もできず伸びっぱなしで髪はすっかり傷んでいた。いっそばっさり切って、改めて伸ばすことに決めた。伸びきって同じくらいの長さになった頃には、今に負けないくらいの絆が作られていると信じて。
「…ンッ、んぅ……」
空いた唇の隙間からくぐもった嬌声が漏れ出る。
優しく髪を撫でていた手はいつの間にかヒューレシアの胸にあった。頂をくりと捏ねられて、一度発散された熱が身体の最奥で再燃されたのを感じる。
「――ッは、もぅ、またするの……?」
「ヒューシャが可愛いから」
バルトゥルスは何度もそう言う。いつも優しく微笑んで言ってくる彼の顔は本当に幸せそうで……なんだかんだ文句を言いつつ最終的には許してしまう自分である。
婚姻の儀の時にしろ、普段にしろ、今にしろ。結局、彼といられるならどこでもいいのだ。羞恥より、一緒にいられる幸福が私たちの最優先事項。
いつかきっと自分たち夫婦のもとにやってくるだろう命を最高の状態で迎え入れるために、何度でも愛し合って絆を深める。
自分のように小さな子になるか、バルトゥルスのように『熊』となるか。
どっちでもいい。きっと間違いなくいとおしい存在だから。
「…ッア、あん、ばる、ばるとぅるす……ッ!」
「ッ、ヒュー、シャ…―ヒューシャ…ッ」
胎内で熱が弾ける。熱い飛沫が奥にじんわりと染み込むのを感じて、ヒューレシアは甘い悲鳴を上げた。
声が空で反射して、森の中で木霊する。
木の上で愛し合う獣が二匹。小さな熊に大きな熊が被さって、あまりに激しい愛に葉がカサカサと揺れる。
誓いの儀を終え呆れた様子のオルトゥルスが茶化しにくるまで、葉擦れの音はやまず。
最上の幸福感に包まれて、熊たちは愛に鳴き続けた。
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