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互いの愛
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羞恥で人が死ねるとしたなら、今の私は間違いなく死ねるだろう。
だってまさかこんなことするなんて、思ってもいなかった。
今まで誰にも見せたことのない秘密の場所をバルトゥルスにさらけ出し、その彼がそこを舐めしゃぶっている。
じゅるじゅると、蜜をすするような音まで立てて。
「ぃあっ、ア、…っあ、やぁあっ」
その彼の舌遣いに、ヒューレシアは堪えきれずに声をこぼした。敏感な実を突かれ、『ひああ』と悲鳴のようなものが喉から飛び出る。
自分のこの声も、聞いていてとても恥ずかしい。
性に関する知識はあっても、細かな行為までは知らなかった。身体を繋げて終わりだとそう思っていた。
だから今されている淫らな行為がとても信じられず、ヒューレシアは混乱していた。
あんなところを、バルトゥルスの唇が、舌が、這いまわっている。
それを考えただけで下腹部の奥がきゅんと疼いて、中から何かが溢れるような感覚までしてくる。自分はいわゆる『感じている』のだと、それを実感するとまた恥ずかしさが込み上げて足の間で発せられる水音が増したような気がした。
「ンっ、んぅう!」
バルトゥルスの舌先から与えられるびりびりとした痺れが身体を貫いて、頭はもう真っ白。
とめどなく声がこぼれ出ているせいで口は開きっぱなしだ。口の端から涎が垂れても気にしている余裕などなかった。
だって、すごくいやらしくて……気持ちいい。
初めてなのにそう思うのは、相手が愛しいバルトゥルスだからだろうか。
「あっ、ン…ぅああっ」
ぬぷぬぷとバルトゥルスの太い指が侵入してきてヒューレシアは震えた。
彼の指が中を揉んできて、入り口の周りを舌先で丁寧に舐られる。その技巧は絶妙でヒューレシアが一番反応するところを狙ってきていた。
それは、とても慣れたような風で。
(……バルトゥルスはもしかして)
真っ白になりつつある思考の隅が、黒い考えに染まる。
だって六年も離れていた。それでこんな手練れを発揮されたら、つい疑ってしまいたくなる。
ぞわぞわとした波が足先から昇ってくる。黒い疑問はその波に一瞬にしてさらわれ、思考の奥へと追いやられた。
「――ッあ、ンん、……んあああああッ!」
強い波だ。嵐がやって来た時の湖面のように激しく身体を揺らして、ヒューレシアは二度目の絶頂を味わった。視界が弾けて思考が白濁としたものに飲まれていく。
わっと昇り詰めてすぅっと穏やかに波が引き、絶頂の震えが終わった。
バルトゥルスがちゅぽんと指を引き抜く。震えが終わっても未だ敏感なそこは多少の刺激にも反応する。ヒューレシアの口から自然と甘い吐息が漏れた。
「ヒューシャ」
大丈夫か、とバルトゥルスに問われる。ヒューレシアははあはあと息をこぼしながらこくりと頷き返した。
熱い塊が濡れそぼった秘所にあてがわれる。一瞬だけ目にしてしまったバルトゥルスの大きな身体に見合った肉棒。
太くて大きな立派な彼のそれが、とうとう自分の中に入ってくる。ヒューレシアは再び緊張に襲われた。思わず力が入り、そこにあったバルトゥルスの手を強く握りしめる。
ぐいぐいと押し開かれる感覚。そのあとぴりぴりとした痛みへと変化した。
バルトゥルスの手を握る力に、更に力が籠る。
ああ、このまま引き裂かれてしまいそう。
そう思ってしまうほどに、熱いモノが侵入してくる感覚は辛く苦しかった。
ヒューレシアを労わってか、バルトゥルスは軽く前後に抜き差しをしながら最奥を目指す。
ぐぐぐ、ずずず、ぐぐぐ……
一体、彼のアレはどれくらい私の中に入り込んだだろう。しかし結合部を直接目にするのは憚られた。ぎゅっと瞼を閉じて耐えていると、その瞬間は不意に訪れた。
「っああ…いたぃぃっ……!」
ぱつんと何かが破裂したような感覚と鋭く響いた痛み。そこからじんじんと熱が広がりヒューレシアは一筋涙を流した。
「っヒューシャ……」
バルトゥルスも苦しそうな息を漏らす。彼の唇が流れた涙を掬い取る。
大丈夫かと、労わられている。優しい彼の気遣いがヒューレシアの心を温かくさせる。
痛いけど、とても幸せだ。
「やっと…っ…、繋がれた、ね…」
「……ヒューシャ」
息も切れ切れに言えば、困ったような呆れたような声を返される。
何故? とバルトゥルスを見上げれば、
「堪えられなくなるだろう……」
珍しく頬を染めた彼が尻すぼみに呟く。
その様子がおかしくてヒューレシアはつい笑いをこぼすと、笑みの形に作られた唇を一瞬だけ彼ので塞がれた。
啄むようにキスをしてきたバルトゥルスは『はぁぁ……』と深い息を吐く。なんだか精神統一でもするかのような息の吐き方だ。
「少し、このままでいよう」
「え……どうし、て?」
「痛いだろう」
「……でも、バルトゥルスは、辛くないの?」
太い眉の間にしわを寄せて何かに耐えるような表情をしているバルトゥルス。先ほど呼吸と言い、何かを我慢しているのはヒューレシアの目にも瞭然だった。
きっと、動きたいのだ。
だけど、私が痛がるから。だって本当に痛い。じりじりじりじりと火傷を負ったかのように、そこを中心にして痛みが駆け巡る。動かれたらとても耐えられそうにない。
でも苦しそうな彼を見ているのは辛い。
しかし返って来たのは彼の微笑と優しさだった。
「辛くない。この時が幸せだから」
それはバルトゥルスの心からの言葉。一片の曇りもなくそれが彼の本音だとヒューレシアが信じることができたのは、黒曜石の瞳がまっすぐにヒューレシアを捉えていたから。
しかし、思考の隅に流された黒い靄が再び姿を現す。信じたはずの彼へ黒い疑念が向けられる。ああ、しまった。こんなこと思うべきではないのに。だが止まらなかった。
「……あのね、ひとつ、聞いてもい……?」
「どうした?」
「……バルトゥルスは、その……誰かと、した?」
彼の目が見れない。
ヒューレシアの口からこぼされた疑いに動きを止めていた。
目をそらしたヒューレシアの頬に大きな掌が添えられ、ゆっくりと向きを直される。
バルトゥルスは太い眉をハの字に下げ少し傷ついた顔をしていた。ずきん、とヒューレシアの心が痛んだ。
「ご、ごめんね……へんな、こと聞いて。でも、バルトゥルスが、慣れてるような感じがしたから……」
「そうか」
バルトゥルスが静かに呟く。
「……怒った?」
「……いや、怒っていない」
だがバルトゥルスの表情は変わらない。それどころか。
「すまない、ヒューシャ」
彼が謝罪を口にした。
しかし続けてこうも言う。
「だが、ヒューシャだけだ。ヒューシャが、初めてだ」
それから語り出す。ヒューレシアが彼を『慣れている』と思った、その訳を。
ボスコ族は自由だ。その気質は祭事の時にもっとも顕著に表れる。
祭事は一晩中行われる。その時は幼子も未成人者もこぞって宴を愉しむ。
だが月が真上に登れば、あと成人だけの時間。
幼子や未成人者の前では振るわれない酒が出てきて、皆一斉に酒を煽り、始まるのだ。
淫らに乱れる交わりがあちらこちらで。
「えっと……つまり……?」
「目の前で何人も交じり合うのを見ていれば、いやでも覚える」
酒が入ると皆開放的になる。……そういうことだった。
だが、その状態で独りでいるのは難しくないだろうか。誘惑の一つや二つあっただろうに。
するとヒューレシアの考え事に気づいたのか、バルトゥルスが先に答えを告げる。
「無心で酒を飲んでいた」
「……え?」
「飲んで飲んでただ耐えた」
「…………っふふ!」
真面目な表情でそれを告白するバルトゥルスに耐え切れずヒューレシアは吹き出した。
周りがアンアン言っている中、心を無にして酒と向き合うバルトゥルス。その場面を想像したら、笑いが込み上げてきて止まらなかった。
「…っく、はははは! 無に、無にしてって……あははっ」
「……ヒューシャ」
「ご、ごめん……、でも、想像したら、おかしく、なっちゃって……あははっ」
笑い止まない恋人にバルトゥルスは困惑の瞳を向ける。
そうだよ、そんなはずがなかった。ほかの人に目を向けていたら六年も待っていてくれていない。
なんでそんなことを思ってしまったのだろう。――きっと、恥ずかしかったせいだ。だってあんなところをいやらしく舐められたら、頭がおかしくなってしまうのも仕方がないよね?
ヒューレシアはふぅと息をつき、バルトゥルスを見上げて言う。
「……ね、バルトゥルス。わたしも、触っていい?」
「……ヒューシャ?」
彼の反応が返ってくる前にヒューレシアはそこに手を伸ばした。
自身の足と足の間。バルトゥルスと繋がっているその場所へ。
いつの間にか、痛みは和らいでいた。それどころか熱いぬくもりがじわじわと広がりつつあり、彼の大きさや硬さを感じられる。
結合部はひどく卑猥に見えた。濡れた自身の茂み、そこへ穿たれたバルトゥルスの半身は自身が溢す蜜に塗れてぬらぬらと照っている。
触れれば指先を温く粘ついた感触が捉えた。そして、初めて触るそれはとても硬く――熱い。
バルトゥルスは驚きで目を見張っていた。だが自分の行動を止めようとする気配はない。
指と指で挟んでみる。するとバルトゥルスははっと息をこぼした。
今度は親指と人差し指で丸を作るように握ってみた。それの後ろにぶら下がる柔らかい袋を中指でつんつん触れれば、バルトゥルスの熱い芯がぴくりと跳ねた。
それが跳ねたとき、ヒューレシアの奥を軽く小突いた。
「っンん……」
今までにない甘い痺れがヒューレシアを巡る。全身をとろとろに溶かすような甘い甘い刺激。無意識にヒューレシアのそこが締まって、バルトゥルスの熱杭を抱き締める。
「…っく、ヒュー、シャ……」
「ぅっ……動いて、バル――――っああ!」
ヒューレシアが言うまでもなく、腰が打ち付けられた。ぱちゅん、と結合部から水音が鳴る。
始まった抽挿が、甘く深い快楽をヒューレシアへ植えつける。初めてだというのに、信じられないくらいの快感が押し寄せ、奥へ打ち込まれる度に視界がちかちかと明滅する。
「っんあ、ああっ! ぅ、あっ、ンんあっ、ああ……!」
「ヒュー、シャ……ヒューシャ……っ!」
バルトゥルスが耐えていたもの、今それをぶつけられている。やっぱり無理して我慢していたのだと、明滅する視界の中目にしたのはヒューレシアのように快楽に打ち震えるバルトゥルスの顔だった。
眉を寄せ、揺れる黒曜石の瞳には雄の本能が宿っている。ヒューレシアはその瞳を見て、ずくりと最奥が疼いたのを感じた。
欲しい。
彼の放つ、本能が欲しい。
ヒューレシアは手を伸ばすが届かない。
気づいたバルトゥルスが上半身を下げそれを手伝う。
太く逞しい彼の首元に腕を回し、しがみ付いた。
「あっ、ああ! ばる、とぅるす……っ!」
「ヒューシャ……っ」
「すき、っ…すきぃ……あいしてるの……っ!」
「おれ、もだ……愛してる、ヒューシャ……っ!」
穿たれる勢いが増す。
ヒューレシアは堪えることなく甘く淫らに啼き続ける。
もう、絶対に離れない。
彼の腰元を足で抱き締める。すべてを受け入れる準備は出来ている。
ああ、また……まっしろになる。
どぷりと熱い何かがヒューレシアの中に染み込んだ。
白濁した意識に飲み込まれ、荒い息を繰り返す彼と口づけを交わす。
どちらから触れたのかは分からない。
ただ熱い吐息が混じり合い、愛を与え合うように何度も何度も口づけを繰り返す。
そのあとは獣になったかのようだった。
本能を剥き出しにして喘ぎ合う熊が二匹、離れ離れだった時を埋めるように絡み合いそして相手を離さない。
互いの愛を全身全霊にぶつけて、いやらしい水音が響く。
その音は一晩中続き、やがて疲れ果てた熊たちは身体を繋げたまま眠りに落ちる。もう二度と離したくない、離れたくないと小さな身体は大きな身体を抱き締め、大きな身体は小さな身体を包み込んで。
目覚めた時、身体は汗や体液でべとべとになっていたが決して不快ではない。
ただただ、幸せな思いが二人を包み込んでいた。
だってまさかこんなことするなんて、思ってもいなかった。
今まで誰にも見せたことのない秘密の場所をバルトゥルスにさらけ出し、その彼がそこを舐めしゃぶっている。
じゅるじゅると、蜜をすするような音まで立てて。
「ぃあっ、ア、…っあ、やぁあっ」
その彼の舌遣いに、ヒューレシアは堪えきれずに声をこぼした。敏感な実を突かれ、『ひああ』と悲鳴のようなものが喉から飛び出る。
自分のこの声も、聞いていてとても恥ずかしい。
性に関する知識はあっても、細かな行為までは知らなかった。身体を繋げて終わりだとそう思っていた。
だから今されている淫らな行為がとても信じられず、ヒューレシアは混乱していた。
あんなところを、バルトゥルスの唇が、舌が、這いまわっている。
それを考えただけで下腹部の奥がきゅんと疼いて、中から何かが溢れるような感覚までしてくる。自分はいわゆる『感じている』のだと、それを実感するとまた恥ずかしさが込み上げて足の間で発せられる水音が増したような気がした。
「ンっ、んぅう!」
バルトゥルスの舌先から与えられるびりびりとした痺れが身体を貫いて、頭はもう真っ白。
とめどなく声がこぼれ出ているせいで口は開きっぱなしだ。口の端から涎が垂れても気にしている余裕などなかった。
だって、すごくいやらしくて……気持ちいい。
初めてなのにそう思うのは、相手が愛しいバルトゥルスだからだろうか。
「あっ、ン…ぅああっ」
ぬぷぬぷとバルトゥルスの太い指が侵入してきてヒューレシアは震えた。
彼の指が中を揉んできて、入り口の周りを舌先で丁寧に舐られる。その技巧は絶妙でヒューレシアが一番反応するところを狙ってきていた。
それは、とても慣れたような風で。
(……バルトゥルスはもしかして)
真っ白になりつつある思考の隅が、黒い考えに染まる。
だって六年も離れていた。それでこんな手練れを発揮されたら、つい疑ってしまいたくなる。
ぞわぞわとした波が足先から昇ってくる。黒い疑問はその波に一瞬にしてさらわれ、思考の奥へと追いやられた。
「――ッあ、ンん、……んあああああッ!」
強い波だ。嵐がやって来た時の湖面のように激しく身体を揺らして、ヒューレシアは二度目の絶頂を味わった。視界が弾けて思考が白濁としたものに飲まれていく。
わっと昇り詰めてすぅっと穏やかに波が引き、絶頂の震えが終わった。
バルトゥルスがちゅぽんと指を引き抜く。震えが終わっても未だ敏感なそこは多少の刺激にも反応する。ヒューレシアの口から自然と甘い吐息が漏れた。
「ヒューシャ」
大丈夫か、とバルトゥルスに問われる。ヒューレシアははあはあと息をこぼしながらこくりと頷き返した。
熱い塊が濡れそぼった秘所にあてがわれる。一瞬だけ目にしてしまったバルトゥルスの大きな身体に見合った肉棒。
太くて大きな立派な彼のそれが、とうとう自分の中に入ってくる。ヒューレシアは再び緊張に襲われた。思わず力が入り、そこにあったバルトゥルスの手を強く握りしめる。
ぐいぐいと押し開かれる感覚。そのあとぴりぴりとした痛みへと変化した。
バルトゥルスの手を握る力に、更に力が籠る。
ああ、このまま引き裂かれてしまいそう。
そう思ってしまうほどに、熱いモノが侵入してくる感覚は辛く苦しかった。
ヒューレシアを労わってか、バルトゥルスは軽く前後に抜き差しをしながら最奥を目指す。
ぐぐぐ、ずずず、ぐぐぐ……
一体、彼のアレはどれくらい私の中に入り込んだだろう。しかし結合部を直接目にするのは憚られた。ぎゅっと瞼を閉じて耐えていると、その瞬間は不意に訪れた。
「っああ…いたぃぃっ……!」
ぱつんと何かが破裂したような感覚と鋭く響いた痛み。そこからじんじんと熱が広がりヒューレシアは一筋涙を流した。
「っヒューシャ……」
バルトゥルスも苦しそうな息を漏らす。彼の唇が流れた涙を掬い取る。
大丈夫かと、労わられている。優しい彼の気遣いがヒューレシアの心を温かくさせる。
痛いけど、とても幸せだ。
「やっと…っ…、繋がれた、ね…」
「……ヒューシャ」
息も切れ切れに言えば、困ったような呆れたような声を返される。
何故? とバルトゥルスを見上げれば、
「堪えられなくなるだろう……」
珍しく頬を染めた彼が尻すぼみに呟く。
その様子がおかしくてヒューレシアはつい笑いをこぼすと、笑みの形に作られた唇を一瞬だけ彼ので塞がれた。
啄むようにキスをしてきたバルトゥルスは『はぁぁ……』と深い息を吐く。なんだか精神統一でもするかのような息の吐き方だ。
「少し、このままでいよう」
「え……どうし、て?」
「痛いだろう」
「……でも、バルトゥルスは、辛くないの?」
太い眉の間にしわを寄せて何かに耐えるような表情をしているバルトゥルス。先ほど呼吸と言い、何かを我慢しているのはヒューレシアの目にも瞭然だった。
きっと、動きたいのだ。
だけど、私が痛がるから。だって本当に痛い。じりじりじりじりと火傷を負ったかのように、そこを中心にして痛みが駆け巡る。動かれたらとても耐えられそうにない。
でも苦しそうな彼を見ているのは辛い。
しかし返って来たのは彼の微笑と優しさだった。
「辛くない。この時が幸せだから」
それはバルトゥルスの心からの言葉。一片の曇りもなくそれが彼の本音だとヒューレシアが信じることができたのは、黒曜石の瞳がまっすぐにヒューレシアを捉えていたから。
しかし、思考の隅に流された黒い靄が再び姿を現す。信じたはずの彼へ黒い疑念が向けられる。ああ、しまった。こんなこと思うべきではないのに。だが止まらなかった。
「……あのね、ひとつ、聞いてもい……?」
「どうした?」
「……バルトゥルスは、その……誰かと、した?」
彼の目が見れない。
ヒューレシアの口からこぼされた疑いに動きを止めていた。
目をそらしたヒューレシアの頬に大きな掌が添えられ、ゆっくりと向きを直される。
バルトゥルスは太い眉をハの字に下げ少し傷ついた顔をしていた。ずきん、とヒューレシアの心が痛んだ。
「ご、ごめんね……へんな、こと聞いて。でも、バルトゥルスが、慣れてるような感じがしたから……」
「そうか」
バルトゥルスが静かに呟く。
「……怒った?」
「……いや、怒っていない」
だがバルトゥルスの表情は変わらない。それどころか。
「すまない、ヒューシャ」
彼が謝罪を口にした。
しかし続けてこうも言う。
「だが、ヒューシャだけだ。ヒューシャが、初めてだ」
それから語り出す。ヒューレシアが彼を『慣れている』と思った、その訳を。
ボスコ族は自由だ。その気質は祭事の時にもっとも顕著に表れる。
祭事は一晩中行われる。その時は幼子も未成人者もこぞって宴を愉しむ。
だが月が真上に登れば、あと成人だけの時間。
幼子や未成人者の前では振るわれない酒が出てきて、皆一斉に酒を煽り、始まるのだ。
淫らに乱れる交わりがあちらこちらで。
「えっと……つまり……?」
「目の前で何人も交じり合うのを見ていれば、いやでも覚える」
酒が入ると皆開放的になる。……そういうことだった。
だが、その状態で独りでいるのは難しくないだろうか。誘惑の一つや二つあっただろうに。
するとヒューレシアの考え事に気づいたのか、バルトゥルスが先に答えを告げる。
「無心で酒を飲んでいた」
「……え?」
「飲んで飲んでただ耐えた」
「…………っふふ!」
真面目な表情でそれを告白するバルトゥルスに耐え切れずヒューレシアは吹き出した。
周りがアンアン言っている中、心を無にして酒と向き合うバルトゥルス。その場面を想像したら、笑いが込み上げてきて止まらなかった。
「…っく、はははは! 無に、無にしてって……あははっ」
「……ヒューシャ」
「ご、ごめん……、でも、想像したら、おかしく、なっちゃって……あははっ」
笑い止まない恋人にバルトゥルスは困惑の瞳を向ける。
そうだよ、そんなはずがなかった。ほかの人に目を向けていたら六年も待っていてくれていない。
なんでそんなことを思ってしまったのだろう。――きっと、恥ずかしかったせいだ。だってあんなところをいやらしく舐められたら、頭がおかしくなってしまうのも仕方がないよね?
ヒューレシアはふぅと息をつき、バルトゥルスを見上げて言う。
「……ね、バルトゥルス。わたしも、触っていい?」
「……ヒューシャ?」
彼の反応が返ってくる前にヒューレシアはそこに手を伸ばした。
自身の足と足の間。バルトゥルスと繋がっているその場所へ。
いつの間にか、痛みは和らいでいた。それどころか熱いぬくもりがじわじわと広がりつつあり、彼の大きさや硬さを感じられる。
結合部はひどく卑猥に見えた。濡れた自身の茂み、そこへ穿たれたバルトゥルスの半身は自身が溢す蜜に塗れてぬらぬらと照っている。
触れれば指先を温く粘ついた感触が捉えた。そして、初めて触るそれはとても硬く――熱い。
バルトゥルスは驚きで目を見張っていた。だが自分の行動を止めようとする気配はない。
指と指で挟んでみる。するとバルトゥルスははっと息をこぼした。
今度は親指と人差し指で丸を作るように握ってみた。それの後ろにぶら下がる柔らかい袋を中指でつんつん触れれば、バルトゥルスの熱い芯がぴくりと跳ねた。
それが跳ねたとき、ヒューレシアの奥を軽く小突いた。
「っンん……」
今までにない甘い痺れがヒューレシアを巡る。全身をとろとろに溶かすような甘い甘い刺激。無意識にヒューレシアのそこが締まって、バルトゥルスの熱杭を抱き締める。
「…っく、ヒュー、シャ……」
「ぅっ……動いて、バル――――っああ!」
ヒューレシアが言うまでもなく、腰が打ち付けられた。ぱちゅん、と結合部から水音が鳴る。
始まった抽挿が、甘く深い快楽をヒューレシアへ植えつける。初めてだというのに、信じられないくらいの快感が押し寄せ、奥へ打ち込まれる度に視界がちかちかと明滅する。
「っんあ、ああっ! ぅ、あっ、ンんあっ、ああ……!」
「ヒュー、シャ……ヒューシャ……っ!」
バルトゥルスが耐えていたもの、今それをぶつけられている。やっぱり無理して我慢していたのだと、明滅する視界の中目にしたのはヒューレシアのように快楽に打ち震えるバルトゥルスの顔だった。
眉を寄せ、揺れる黒曜石の瞳には雄の本能が宿っている。ヒューレシアはその瞳を見て、ずくりと最奥が疼いたのを感じた。
欲しい。
彼の放つ、本能が欲しい。
ヒューレシアは手を伸ばすが届かない。
気づいたバルトゥルスが上半身を下げそれを手伝う。
太く逞しい彼の首元に腕を回し、しがみ付いた。
「あっ、ああ! ばる、とぅるす……っ!」
「ヒューシャ……っ」
「すき、っ…すきぃ……あいしてるの……っ!」
「おれ、もだ……愛してる、ヒューシャ……っ!」
穿たれる勢いが増す。
ヒューレシアは堪えることなく甘く淫らに啼き続ける。
もう、絶対に離れない。
彼の腰元を足で抱き締める。すべてを受け入れる準備は出来ている。
ああ、また……まっしろになる。
どぷりと熱い何かがヒューレシアの中に染み込んだ。
白濁した意識に飲み込まれ、荒い息を繰り返す彼と口づけを交わす。
どちらから触れたのかは分からない。
ただ熱い吐息が混じり合い、愛を与え合うように何度も何度も口づけを繰り返す。
そのあとは獣になったかのようだった。
本能を剥き出しにして喘ぎ合う熊が二匹、離れ離れだった時を埋めるように絡み合いそして相手を離さない。
互いの愛を全身全霊にぶつけて、いやらしい水音が響く。
その音は一晩中続き、やがて疲れ果てた熊たちは身体を繋げたまま眠りに落ちる。もう二度と離したくない、離れたくないと小さな身体は大きな身体を抱き締め、大きな身体は小さな身体を包み込んで。
目覚めた時、身体は汗や体液でべとべとになっていたが決して不快ではない。
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