上 下
5 / 13

(4)

しおりを挟む
(……次のイベントは、確か第二部の終わりに……)

 本来なら月花の祭りで恋愛フラグを立てるのだが、実はそれを逃した場合の救済が用意されている。
 ちょっとしたハプニングで主人公と攻略対象がはずみでキスをしてしまい、お互いを意識し始める「事故チューイベント」が発生するのだ。
 ステラとしては祭りイベントのほうがロマンチックで好みなのだが、もしかしたらミーティアは違うのかもしれない。人によってはこちらの展開のほうが好みだと言って、敢えて月花の祭りイベントを見送るというプレイヤーもいたくらいだ。

 だが、今までの六回でもこのイベントが発生したことはなかった。もしも強制力があるとするなら、ステラが何をしようとこのイベントが起きなければ確信を得られるだろう。

 幸か不幸か、メインストーリーに関わらないところでは自由に動ける。
 強制力があろうとなかろうと惨い終わりなんてできれば回避したい。

(……何がなんでも二人にはキスをしてもらうわ! 例え私の胸が張り裂けそうになっても!)

 もしもの時は大胆な行動も辞さない覚悟を決めて眠った──のが二週間前のことだ。
 結論から言えば、事故チューイベントは起きなかった。

「それでわざわざ着替えたんだ? なんとも扇状的な格好だね」
「レグルス様の瞳に少しでも魅力的に映ればと思いまして。……あ、申し訳ございません。勝手に浴室をお借りしてしまいましたわ」
「別にそれは構わないけれど」

 ステラは今、ルビーレッドのロングドレスを着ていた。
 ホルターネックで首の後ろの紐を解けば簡単に脱げる上、胸元は臍が見えそうなくらいにざっくりと開いている。
 今日のイベントが起きなかった場合に備えて、ステラ自身で特別に仕立てたものだ。今日の荷物に忍ばせ、星歌の拠点となっている城内の一室からレグルスの私室移動してから着替えた。下着もしっかりと新調したので、裾のスリットからはガーターベルトを着用した太ももが見えていることだろう。
 一番セクシーな服装をテーマに考えた結果である。黒髪にはやはり赤が映えるだろうと。
 それに──赤はレグルスの瞳の色でもある。

(本当に綺麗な瞳……)

 苦笑はしているものの、余裕そうな笑みを崩さない彼の瞳をじっと覗き込む。
 ガーネットのような瞳はスチルの中でも美しかったが、こうして実在する人間として見るとまた違う輝きのように思う。宝石のようにキラキラとしていた瞳は透明感のある赤色で、見つめているとその中に吸い込まれそうだ。
 こうしてずっと見つめていたいところだが、それをしにきた訳ではない。ステラはレグルスのシャツのボタンに指を掛ける。
 ──心臓がバクバクしてきた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寡黙な彼は欲望を我慢している

山吹花月
恋愛
近頃態度がそっけない彼。 夜の触れ合いも淡白になった。 彼の態度の変化に浮気を疑うが、原因は真逆だったことを打ち明けられる。 「お前が可愛すぎて、抑えられないんだ」 すれ違い破局危機からの仲直りいちゃ甘らぶえっち。 ◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。

【R18】国王陛下はずっとご執心です〜我慢して何も得られないのなら、どんな手を使ってでも愛する人を手に入れよう〜

まさかの
恋愛
濃厚な甘々えっちシーンばかりですので閲覧注意してください! 題名の☆マークがえっちシーンありです。 王位を内乱勝ち取った国王ジルダールは護衛騎士のクラリスのことを愛していた。 しかし彼女はその気持ちに気付きながらも、自分にはその資格が無いとジルダールの愛を拒み続ける。 肌を重ねても去ってしまう彼女の居ない日々を過ごしていたが、実の兄のクーデターによって命の危険に晒される。 彼はやっと理解した。 我慢した先に何もないことを。 ジルダールは彼女の愛を手に入れるために我慢しないことにした。 小説家になろう、アルファポリスで投稿しています。

【R18】私は婚約者のことが大嫌い

みっきー・るー
恋愛
侯爵令嬢エティカ=ロクスは、王太子オブリヴィオ=ハイデの婚約者である。 彼には意中の相手が別にいて、不貞を続ける傍ら、性欲を晴らすために婚約者であるエティカを抱き続ける。 次第に心が悲鳴を上げはじめ、エティカは執事アネシス=ベルに、私の汚れた身体を、手と口を使い清めてくれるよう頼む。 そんな日々を続けていたある日、オブリヴィオの不貞を目の当たりにしたエティカだったが、その後も彼はエティカを変わらず抱いた。 ※R18回は※マーク付けます。 ※二人の男と致している描写があります。 ※ほんのり血の描写があります。 ※思い付きで書いたので、設定がゆるいです。

【R18】助けてもらった虎獣人にマーキングされちゃう話

象の居る
恋愛
異世界転移したとたん、魔獣に狙われたユキを助けてくれたムキムキ虎獣人のアラン。襲われた恐怖でアランに縋り、家においてもらったあともズルズル関係している。このまま一緒にいたいけどアランはどう思ってる? セフレなのか悩みつつも関係が壊れるのが怖くて聞けない。飽きられたときのために一人暮らしの住宅事情を調べてたらアランの様子がおかしくなって……。 ベッドの上ではちょっと意地悪なのに肝心なとこはヘタレな虎獣人と、普段はハッキリ言うのに怖がりな人間がお互いの気持ちを確かめ合って結ばれる話です。 ムーンライトノベルズさんにも掲載しています。

【R18】殿下!そこは舐めてイイところじゃありません! 〜悪役令嬢に転生したけど元潔癖症の王子に溺愛されてます〜

茅野ガク
恋愛
予想外に起きたイベントでなんとか王太子を救おうとしたら、彼に執着されることになった悪役令嬢の話。 ☆他サイトにも投稿しています

睡姦しまくって無意識のうちに落とすお話

下菊みこと
恋愛
ヤンデレな若旦那様を振ったら、睡姦されて落とされたお話。 安定のヤンデレですがヤンデレ要素は薄いかも。 ムーンライトノベルズ様でも投稿しています。

悪役令嬢なのに王子の慰み者になってしまい、断罪が行われません

青の雀
恋愛
公爵令嬢エリーゼは、王立学園の3年生、あるとき不注意からか階段から転落してしまい、前世やりこんでいた乙女ゲームの中に転生してしまったことに気づく でも、実際はヒロインから突き落とされてしまったのだ。その現場をたまたま見ていた婚約者の王子から溺愛されるようになり、ついにはカラダの関係にまで発展してしまう この乙女ゲームは、悪役令嬢はバッドエンドの道しかなく、最後は必ずギロチンで絶命するのだが、王子様の慰み者になってから、どんどんストーリーが変わっていくのは、いいことなはずなのに、エリーゼは、いつか処刑される運命だと諦めて……、その表情が王子の心を煽り、王子はますますエリーゼに執着して、溺愛していく そしてなぜかヒロインも姿を消していく ほとんどエッチシーンばかりになるかも?

マフィアな彼から逃げた結果

下菊みこと
恋愛
マフィアな彼から逃げたら、ヤンデレ化して追いかけて来たってお話。 彼にとってはハッピーエンド。 えっちは後半がっつりと。 主人公が自業自得だけど可哀想。 ムーンライトノベルズ様でも投稿しています。

処理中です...